長崎良い街一度はおいで
【チベット・インド旅行記】
#4長崎
サックスやトロンボーンなどの管楽器隊が、ぷぁ〜、ぷぁ〜、と合奏前の試し吹きをする、どこか間延びした風景を、数日ぶりに浴びたシャワーで綺麗さっぱりツヤツヤになって聴いているのは私。
長崎港そばの公園にテントを張って、もしゃもしゃ飯を食べている所を、長崎大学に通うサトシ君に声かけられて、のこのこ大学まで付いてきたのである。
シャワーもあるし、学食も美味いし、ネットも繋がっている。
旅人に大学は優しい存在である。(セキュリティーが厳しくて今は無理かもしれないけど)
「明後日、ジャズ研のコンサートがあるから練習中なんです。おーい皆、音止めて。こちらが旅人のゆうきさん」
「どうも、ゆうきです。皆さんコンサート頑張って」
なぜか部員一人一人と握手をして激励を交わす私。
シャンプーセット抱えた、ウサンくさい旅人にも優しい街、それが長崎。
長崎の町は、市内に路面電車がチンチンと音を立てて走っている。海風の気持ち良い町である。
あと、やたら犬が多い。
街をぶらぶら歩きながら、商店街や繁華街など、路上ライブできそうな所の目星をつける。
夕方、練習を終えたサトシ君と合流して、長崎浜町アーケードで路上ライブ。
長崎の人は人情に厚いのか、あっという間に5千円ほど稼ぐ。
サトシくんと打ち上げで、さば寿司食べてその日は別れた。
なかなか良いことは続くもので。
翌日、公園でギターの練習をしていると、30代くらいのにーさんに、またもや声掛けられて、お好み焼きおごってもらう。
アーケードの雑居ビルの2階、家庭的な雰囲気のお好み焼き屋さん。
そこのママさんが、ギター持ってるなら歌っていきなよ。と誘ってくれて。お好み焼き屋で、森田童子の「例えば僕が死んだら」を熱唱。
周りでへべれけてたおっちゃんたちが、おひねりくれて1万円くらい稼いだ。
にーちゃん、チベット頑張れよ!
死ぬなよ!
おっちゃんたちや、ママさんからエールをもらい、夜は長崎港の公園にベンチに寝袋敷いて、星を眺めながら寝る。
そうしたら、夜中に野良犬にめっちゃ吠えられた。
人情が厚い街、犬の多い街、長崎。
翌朝、ベンチで目を覚ますと、浅黒く日焼けしたおっちゃんがジロリとこちらを見下ろして立っていた。
眠い目をこすり、おっちゃんに問う。
「…なんか用ですか?」
「なんか用ですかじゃないだろ!こんな所で寝っ転がって何やってるんだ!」
旅をしていていると、あるあるなのが、田舎ヤンキーや、おっちゃんとの執拗なエンカウント。
内心、またか〜面倒臭せ〜。と思いつつ答える。
「何って…旅ですけど」
「旅だと!?お前、学校は、仕事は?」
「いえ、特にしてませんけど…」
「まったく、こんな所でフラフラしおって。おい!コーヒー飲むか!?」
ん??コーヒー?
今、コーヒーって言いました?
えぇ、まぁ、それならいただきますけど。
おっちゃんは自販機で缶コーヒー買ってきてくれて、飲みながらお説教の続きを聞く。
「おい、あれを見ろ」
おっちゃんが指差す先には、長崎の湾が山に囲まれてキラキラと光っている。
湾には大きなタンカーがプカリと浮かんでいる。
「俺はここで船を作っている。造船業はこの街の大きな収入源だ。俺はそんな自分の仕事に誇りを持っている。お前はどうだ!?」
どうだ!?って言われても…。
そういえば、昨日お好み焼きをおごってくれたにーさんも、造船所で働いてるって言ってた。
「毎年、造船所でボーナスが出ると、俺たちは浜町アーケードやデパートでお金を使う。そうやって長崎の経済を回しているんだ。わかるか!?」
「はぁ…。はい、何となく…」
「分かればよろしい!よし、そうと決まったら、飯でも食いにいくか」
えぇ〜〜っ!?
どこをどうやったら、今までの流れから飯に繋がるのか、一瞬たりとも想像出来なかったけど!?
それからおっちゃんに連れられて、喫茶店でモーニングセットご馳走になった。
別れ際、おっちゃんに手書きのアドレスを渡されて、チベットに着いたら絵ハガキを送るように。と念を押されたが、チベットに着く前に、メモ帳の入ったカバンを盗まれてしまい。おっちゃんとの約束は未だ果たせていない。
おっちゃん、ごめん。
おせっかいと優しさの溢れる街、長崎。
今日は、長崎大学ジャズオーケストラの発表会の日。
長崎滞在中に流し(路上ライブ)でかなり稼いだので、自分も長崎経済に貢献するか。と浜屋百貨店に行って、韓国語の辞書を買った。
チョナン・カン(草彅剛の韓国芸名)のはじめての韓国語入門。
アンニョハセヨ(こんにちは)
チョヌン、イルボーニン、イムニダ(私は日本人です)
などなど、練習しているうちに、時間が近づいてきたので大学へ向かう。
大学のコンサートホールに入ると、ステージにはサトシ君はじめ、長大ジャズオーケストラの面々が楽器を構えて準備している。
指揮者の合図に合わせて、合奏が始まった。
カウントベイシーや、クインシージョーンズなど、オーソドックスなナンバーが続く。
一生懸命に演奏する彼らの姿を見ながら、ぼんやり思う。
長崎では、たくさんの人情や優しさに触れた。
もちろん、人に優しくされると嬉しいし、旅の醍醐味の一つだ。
でも、なんでだろう。優しくされればされるほど、一人で公園で過ごしている時。何だかむなしい気持ちになってしまうのは。自分がよそ者だという事を強く感じてしまうのは。
きっと、それは自分が旅人だからだと思う。
サトシ君には大学があり、にーさんやおっちゃんには仕事がある、お好み焼き屋のママさんにも帰るべき家はある。
でも、自分には何も無い。
流れ、流れて、何をするかも分からない。
いつまで旅をするかも、どこまで行くかも、まだ分からない。
そうのこうのしている内に、コンサートは終わった。
楽屋裏へ遊びに行くと、やりきった顔した良い顔の部員たち。
「お疲れ様!演奏良かったよ」
またしても部員一人一人と握手、労いの言葉を掛ける。
「ゆうきさん、もう行っちゃうんですか?」
「うん、色々ありがとう。でも、そろそろ次の街に行かないと」
最後にサトシ君とも硬く握手を交わし、長崎の街を離れた。
バスに乗り福岡へ向かう。
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あんまり日本でウロウロしていても仕方がないので、福岡では早々に港に向かい、韓国行きのフェリーを予約した。
いよいよ旅は日本を離れ海外へ。
地元埼玉を離れて、ちょうど1ヶ月が経っていた。
出国手続きを手短にすませ、高速船に乗り込む。
アナウンスが流れ、船はゆっくりと港を離れていく。
一体、この旅はどこまで続いているのだろうか。
この先に何が待っているのだろうか。
期待と不安を乗せたまま、高速船ビートルは水しぶきを上げて波間を滑っていく。
眼前にはどこまでも広がる海原が、何も言わずに広がっていた。
韓国編へ続く
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