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トーハクでカツカレーを食べる贅沢
子供の頃、カツカレーはご馳走でした。母にお願いして自分の誕生日会のメインはカツカレーだったぐらいです。カレーもご馳走でしたが、とんかつもそんなに食べることもなかったので、一度に両方を味わえるカツカレーが食卓に乗ることはありませんでした。
今のように総菜として気軽にとんかつを買えることはなく、肉屋で買ったロース豚肉を叩いて柔らかくし、小麦粉、卵、パン粉で下ごしらえしてから揚げるということに加えて、カレーも作らないといけないので、母は料理や後片付けが面倒だったのでしょう。
学生の時は学食でも食べることができ、家でもスーパーで買ったとんかつとレトルトカレーで簡単に食べることができるようになり、「ご馳走」の地位は急速に低下していきました。
一方、齢を重ねると若い頃に好物だったものが食べられなくなったり、自制するようになります。
私の場合、大腸憩室炎で2度入院しているため普段から揚げ物や肉は控え、魚と野菜中心の食生活にしています。これに加え、ここ数年で急速に歯茎が痩せてきたことから固いものを食べると歯が痛むので、固い衣で包まれているとんかつも食べなくなりました。
「ご馳走」から「普通の料理」になってもカツカレーは好物でしたが、最近は年に数回しか食べなくなってしまいました。本当はもっと食べたいのに。。。
そんな年に数回のカツカレーを食べる店は東京国立博物館のオークラレストランの「ゆりの木」です。トーハクには、法隆寺宝物館にもオークラのカフェがありますが、カツカレーは東洋館横にあるゆりの木にしかありません。
いまどきカツカレーはどこでも食べられますが、トーハクで食べるカツカレーは格別に美味しいのです。
味もさることながら美術に浸っている時に食べるカツカレー、これがうまいのです。
先日、そんな機会が巡ってきました。
トーハクで開催されている本阿弥光悦の特別展に行きました。10時には展示室に入りましたが、案外閑散としています。絵画、書、陶芸、刀剣、と多能な希代の偉人の作品に感嘆してしまいます。NHKが制作した映像も素晴らしく、光悦の世界に引き込まれます。まさに「天才」と言っていいでしょう。
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光悦展を後にして「ゆりの木」に向かいますが、途中、本館の大観の作品で興奮した脳みそを落ち着かせます。
まだ寒いですがもう梅の季節です。作品の前のソファーに座ってしばらく梅の絵に見入って呼吸を整えます。
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大観を後にしてレストランに向かいます。「ゆりの木」は本館を出て左手の東洋館の端にあります。11時開業。和食、洋食、ケーキ、などメニューは豊富ですが、値段はいわゆる「オークラ価格」です。
外国人も多いですが、今の円相場からすると「料理+水」で15ドル程度ならビックマック並の安さです。
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この日もお気に入りのカウンター席に案内されました。席の正面はトーハクの庭園です。奥にも席がありますが、庭を愛でることができるこの席がベストです。案内もスムーズです。
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メニューを見ることなく、
「カツカレーとコーヒーを。コーヒーはホットで、食後に」
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注文してから10分くらいでカツカレーが出てきます。久しぶりですから、次第に気分が高まっていきます。
来ました。昔ながらのカレーの容器とスプーン。これぞ洋食屋のカレー、という感じです。
まずは、サラダからいただきます。フォークをサラダに向かわせるために前傾姿勢になり、顔がカツの上にくると、揚げたてのカツの臭いがぷ~んとして食欲をそそります。カツは作り置きではなく、揚げたてです。
カレーの臭いはしません。
さあ、いよいよカレーをスプーンですくってカツに注ぐ番です。右側のカツの2切れとライスのところにカレーをかけます。カレーの臭いがしてきました。カツとカレーの臭がいい感じにマリアージュします。
さくっ、さくっ、という歯ごたえ。熱いので、ほふほふ、はふはふと口の中でカツを回しながら、カレーと馴染ませていきます。
カレーは昔ながらの味です。ちょっと酸味があり、形ある具は入っていません。よく煮込んであるカレーです。
歯茎が悪いので、カツが歯茎を痛めないようにゆっくり食べます。左側のカツにカレーを注ぐ頃にはカツがちょうどいい温度になっています。
らっきょは2つ。ちょっと味に飽きて来た頃に食べると、カツとカレーが再び自己主張し食欲を刺激します。
残り2切れのカツになってしまいました。大事に食べるとカツとカレーが冷えてしまうので、惜しみつつも温かいうちに食します。
「お下げしますね。お飲み物をお持ちします」
黙っていてもプレートを下げて、コーヒーがサーブされてきます。このタイミングが絶妙です。
光悦と大観の余韻に浸っているため余計な言葉を発したくないので、このサーブはちょうどいいです。
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コーヒーは最初はブラック。それからオークラの名前が入ったミルクを入れます。「ミルクはお使いですか?」というやりとりがなく、光悦・大観・カツカレーの余韻がなくなることはありません。
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トーハクには食事をする場所が少ないので、レストランは混み合います。後方が入り口ですが、人が並んで待っている気配を感じます。だからと言って、それを気にしてコーヒーを急いで飲むと、年に数回のカツカレーの満足感が消し飛んでしまいますので、後方を振り返らずに全景を見ながら、食前の美とカツカレーで余韻を味わいます。
本でも読みながらゆっくりコーヒーを飲みたいところですが、順番を待っている人に迷惑がかかるので、口の中のカツとカレーをコーヒーで濯いだ頃に席を立って、ゆっくり出来る場所に移動します。
それは、本館と平成館の途中にあるソファ。
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眠いときにはこのソファで午睡をとります。
さて、次はどこに行こうか。。。
この日は本館の源氏物語の本を入れる箪笥を観に行きました。美しいものを観て、美味いものを食べ、ちょっと昼寝をし、庭園を眺め、また美しい芸術品を観る。しかも、年に数回の好物のカツカレー。
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もっと美味いカツカレーはあると思いますが、芸術品をトッピングしたカツカレーはトーハクでしか味わうことは出来ないです。店員さんのサーブもよく、美の余韻を封じ込めることができる席でもあり、ちょっと値段は高いですが、贅沢を楽しむことができるカツカレーです。
自分の「死ぬまでにもう一度食べたい料理」の番外編に載っているコースです。
次は、桜の頃、かな。
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