ビジネス本としての「戦争論 クラウゼヴィッツ」

キングダムに関連したビジネス本がいくつかあります。戦争をもとにしたビジネス本は、「失敗の本質」ぐらいしかありませんでした。これは戦争を忌み嫌い、入り口から否定する社会のムードがあったからではないでしょうか。その意味で、キングダムは、戦(いくさ)から戦術論・リーダーシップ論を学ぶ緩やかな流れを作ったと思います。決して、戦争を礼賛するわけでもなく、軍事オタクでもありませんが、戦争からはビジネスに活かせることを学ぶことができます。

戦争を分析した古典にクラウゼヴィッツの「戦争論」があります。

クラウゼヴィッツは、1780年にプロイセン王国に生まれ、1831年に51歳で亡くなった軍人です。死後「戦争論」が発表されました。「戦争論」を戦略論の視点から書き記した本はいくつかありますが、ビジネス論的なところを記載します(以下、岩波文庫 篠田英雄訳 2010年5月25日第56刷発行 によります)。

まず、彼は言います。「戦争に含まれている粗野な要素を嫌悪するあまり、戦争そのものの本性を無視しようとするのは無益な、それどころか本末を誤った考えである」と。

クラウゼヴィッツは、戦争からビジネス論を想起している訳ではなく、戦争から次の戦争に役立つことを研究していましたが、戦(いくさ)が日常的だった当時においても、現代に通じることを記述しています。大著ですから、2点だけ触れます。

まず、戦略と戦術について、「戦術は、戦闘において戦闘力を使用する仕方を指定し、また戦略は、戦争目的を達成するために戦闘をしようする仕方を指定する」と定義します。今の私たちが、ビジネスにおいて戦略と戦術を語る時の定義そのものです。これは今更ながらの記載ですが、ビジネスシーンで引用することが出来ます。

次に、クラウゼヴィッツは、「戦争は危険を本領とする、従って何ものにもまして軍人の第一の特性は勇気である」とし、その勇気には「戦闘者が個人的な危険を無視する勇気」と「自分自身の行動に対して責任を負う勇気」があるとします。ビジネスで危険(リスク)を完全に無視することはできませんが、リスクをとる勇気は必要ですし、行動の結果に責任を負うことは必須です。

さらに、この「勇気」の具体的な場合の働きを「果断」である、と言います。この「勇気」は「責任」に対する勇気 ー 心の危険に対抗する勇気、です。

「果断は、果敢な行為が必要であることを自覚し、この必要にかんがみて意志を規定するところの知性の働きによって初めて生じる」とします。分かりにくいですが、「沈着、即ち精神が常に目覚めている心的状態」と言い換えています。例として、「不意に話しかけられた場合に、これに当意即妙な答え手をするのも沈着だし、また突発した危険を即座の機転によって切り抜ける手段を講じるのも沈着」とします。

ただ、こうも記載します。「下級の地位では至って果断であった人でも、地位が向上するとこの特性を失ってしまうという例が多々ある」「この人達とても決断の必要を認めているのである。しかしその決断が誤っている場合には危険であることも承知しているし、更にまた直面する事態を熟知していないと怖気もあって、彼等の知性は本来の力を失うのである」

経験を積むとその経験から決断を逡巡してことがありますが、何かをするためには「責任を負う勇気、そして沈着冷静な果断な行為」が必要ということでしょう。

簡単ですが、以上はビジネスに役立つ内容を「戦争論」から引用してみました。

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