【BL二次小説(R18)】 恋する王子様②
執事は出ていき、学習室には新開と荒北だけとなる。
「本日は初日ですから、授業の概要と軽い雑談程度にしたいと思います」
荒北はそう言って眼鏡を右手でクイッと上げた。
「靖友はどの辺に住んでるんだい?好きなスポーツは?好きな食べ物は?彼女いる?」
椅子から立ち上がったまま機関銃のように質問攻めをする新開。
「……住まいは城から5km程の所です。好きなスポーツは野球。好きな食べ物はタケノコ。彼女はおりません」
質問に答える荒北。
「じゃあ、じゃあね……」
「王子」
荒北は興奮気味な新開の言葉を遮った。
「確かに私は王子と同い年です。しかしここでは講師と生徒。“荒北先生”とお呼び下さい」
「解ったよ靖友。でさ……」
「王子!」
荒北はピシャリと言って睨み付ける。
黙る新開。
「まずは落ち着いて椅子にお座り下さい」
新開は大人しく腰を下ろした。
「ごめん。でもオレ、嬉しくて。同年代の人間が周りにいないから。城内もみんな年輩ばかりで」
「……存じております。王子は学校にも通われていない。城の中で歳の近いのは悠人王子だけ」
「靖友。もっとおめさんのこと知りたい。もっと聞かせてよ」
「今回、王が講師を王子と同い年にされたのには理由があります。王子は古典知識は豊富ですが、現代の若者の情報には疎い。これでは今後他国の王子達との交流にも支障が出る。私の授業ではその辺りのこともお教えする予定です」
「そういえば……リドレー王国の尽八王子とは年に数回会う機会があるんだけど、いつも言われるんだ。“貴様、そんなことも知らんのか”って」
「リドレー王国の東堂尽八王子。あの普段でもティアラを外そうとしない方ですね」
「そう!“これはオレのトレードマークだからな!”って。ははっ」
朗らかに笑う新開。
同い年の荒北と会話出来ていることが心底楽しいようだ。
「なぁ靖友。そんな堅苦しい敬語じゃなくてさ、もっとカジュアルに、友達と喋るように話してくれよ。えっと……“タメ口”って言うんだっけ?」
「そんな単語をご存知なのですか」
「他人が居る時はちゃんと“荒北先生”って呼ぶからさ。二人の時ぐらいタメ口でもいいだろ?」
「いくら二人の時でも、王子に向かってタメ口など出来ません」
拒否する荒北に、新開は顔をグッと近付け真剣な表情で言った。
「これは、命令だ」
「!」
荒北は新開の顔を真っ直ぐ見た。
新開の目は本気だった。
「……ハァ」
溜め息をつく荒北。
「王子の命令ならば仕方ありませんね」
パアッと明るい表情になる新開。
「しかし、その前に少しお待ち下さい」
「?」
荒北はそう言ってポケットからスマホを取り出し、部屋の隅へ行った。
スマホを持った手を部屋中のあらゆる場所に翳している。
「何をしてるんだい?」
新開が質問すると、荒北は「シッ」と口の前に人差し指を立てた。
「!」
まさか……盗聴器が……?
新開は驚いた。
城の学習室に盗聴器があるかもしれないなんて、考えたこともなかった。
荒北はしばらく確認していたが、どうやら問題無かったようだ。
不安そうな新開に向かって指でOKマークを示した。
ホッとする新開。
「ヨシ。じゃア……」
荒北はネクタイを緩め、
眼鏡を外し、
椅子にドカッと座ると、
教卓の上に両足をドン!と乗せて言った。
「オレもこんな堅苦しィこたァ嫌れェなンだ。改めてヨロシクな、王子サン」
「……すげぇ」
荒北のあまりの変貌に、新開は驚きつつも心踊った。