【BL二次小説(R18)】 恋する王子様⑮
翌日。
荒北が城を訪れると、前方から王と執事がやってきた。
「……サーヴェロ王!」
荒北は素早く廊下の隅に寄り、ひざまずいて頭を下げた。
それを見て、王が笑顔で声を掛ける。
「荒北先生、頭を上げなさい」
「は!」
頭を上げる荒北。
「確か荒北先生も、隼人とマリア王女の話は知ってるんだったね」
「……はい。承知しております」
王は苦笑いしながら続ける。
「困ってるんだよ。何が気に入らんのか知らんが、なかなかアイツyesと言わなくてね。そう何日も返事を延ばしては先方に失礼にあたる。アイツはキミの言うことなら聞くだろう。荒北先生、なんとか隼人を説得してくれないかな」
「私からもお願い致します、荒北先生」
執事も一緒になって頼み込む。
「……かしこまりました」
荒北は答えた。
学習室。
「オレは結婚なんかしないよ」
荒北が口を開く前に、新開は断言した。
「……」
困った顔をする荒北。
「靖友」
新開は荒北に歩み寄って言う。
「今晩……裏の公園で待ってるから。愛の巣に連れてってくれよ」
「新開……」
荒北は目を逸らす。
「……公園には行かねェ」
「靖友!」
「もう……終わりにしよう。講師と生徒の関係に戻ろうぜ」
「……別れるって言うのか」
「遅かれ早かれ、こうなるんだ」
「嫌だ。オレは別れないよ」
「詰んだンだよ、オレ達は」
「……靖友」
新開は荒北の肩を掴み、自分の方を向かせる。
「こんなの納得いかねぇよ。嫌いになったわけじゃないのに外的要因で別れなきゃならないなんて!」
「先延ばししたって何も解決しねェだろ」
「靖友!なんでそんな諦めが早いんだ!」
「抗っても無意味だ。オメーは結婚する。オレは身を引く。シンプルな結末だ」
絶望の色が見えてくる新開。
「……おめさんにとって、オレは一体何なんだ……」
「……」
黙り込んでしまう荒北。
「悠人から聞いたよ。おめさんは、主人に忠を尽くすのが好きなんだってな」
「……!」
新開は荒北を睨みながら言う。
「オレの講師になったのも親父に頼まれたから。オレに結婚をすすめるのも親父に頼まれたから。オレに抱かれたのも親父に頼まれたからか!!隼人の慰みものになってやってくれって!!」
パァン!!
荒北の平手打ちが飛んだ。
「……」
怒りと悲しみと困惑の入り交じった表情の荒北。
「……痛てぇ……」
叩かれた頬を押さえている新開。
「……この前、腹パンされた時は全然痛くなかったのに……今のは痛かった……めちゃくちゃ痛かった……」
「今のは……オメーが悪い」
荒北は声が震えている。
「うん……ごめん……」
頬の痛みがジンジンと広がる。
「ごめん靖友……ごめん」
あんなこと言うつもりはなかった。
涙が滲んでくる。
「……」
荒北は学習室を出て行こうとする。
「靖友!今晩、公園で待ってるから!」
慌てて声を掛ける新開。
「……オレは行かねェ」
パタン。
荒北は出て行った。
その晩。
城を抜け出し、裏の公園で待っている新開。
だが、いつもの時間になっても荒北は現れない。
「……」
新開はベンチに座る。
街灯がボウッと灯っているだけで、誰もおらず、暗くひっそりとしている。
荒北は来てくれないのだろうか。
本当に自分達はこれでもう終わりなのだろうか。
新開はいつも荒北が現れる方向を見やり、呟く。
「……いつも、あの道から来るんだ靖友は。ハヤブサに乗って。……でっかく“隼”って書いてあるバイクで。……オレの名前……隼……」
荒北は現れない。
「……王子なんて、名ばかりで……。何の権限も無くて……。行動も制限されて……。国から出ることも出来なくて……。学校も行けなくて……。友達もいなくて……。好きな人と一緒になることも許されなくて……」
荒北は現れない。
「国のために……。国のために、って……」
涙が頬をつたい、顎から地面に落ちる。
── 結局人間も白蟻と同じだ ──
荒北が以前言っていた台詞を思い出す。
「白蟻と……同じ。……オレは……ただの、白蟻……」
荒北は現れない。
「靖友……。おめさんはオレの……たったひとつの希望の光だった……」
荒北は、現れなかった ──。