【BL二次小説(R18)】 恋する王子様⑤
翌日。
城門の外で、荒北は新開が出て来るのを待っていた。
「うわぁ!」
チャリを持って現れた新開は歓喜の叫び声をあげた。
「よォ」
荒北がチャリを連れて、本格的なレーシングスーツにヘルメット姿だったからだ。
「靖友もロードやってたのかい?」
「高校ン時にな。さァ、行こうぜ」
ロードに跨がって漕ぎ出す荒北。
新開は慌てて後を追った。
「ドコ行きたい?っつっても2時間ぐらいで行って帰って来れる場所だけどナ」
「高い場所……丘とか山とかがいいな」
「ヨッシャ」
荒北は近くの山へ進路を取った。
山に向かって真っ直ぐな道をグングン進む。
新開は直線に自信があったが、荒北も同レベルぐらいで並走してきた。
「嬉しいよ靖友。オレ、すごく嬉しい。悠人以外の人と、こんな風に一緒に走れるなんて!」
新開は心の底から喜んでいた。
「へッ。そんなセリフはオレについて来れてから言いな!」
「!」
荒北はアタックをかけた。
先行して引き離す。
「ついて来れるかだって?ははっ!」
新開はスピードを上げ、追い付いてピッタリと後ろにつけた。
「やるじゃナァイ!王子サン!」
荒北が振り向いてからかう。
「抜くよ」
「!」
後ろから横にスッと付けたかと思ったら、新開はアッという間に荒北の前方へ消えて行った。
「……マジかよ」
目を見開いて呆然とする荒北。
荒北だって高校時代は結構な成績だった。
しかし新開のレベルは……。
「気に入ったぜ、新開!」
荒北はニヤリと笑うと、ケイデンスを上げた。
展望台へ着き、二人はスポーツドリンクを飲みながら街を見下ろす。
「……」
新開はずっと地平線の先を見つめている。
その様子を眺めながら、荒北は尋ねた。
「なんで、高い所に来たかったんだ?」
「……遠くが見渡せるから」
新開は地平線から目を離さずに答えた。
「オレが……自由に行ける範囲は、ロードで城から日帰り出来る程度の距離なんだ。だから、国の果てまで行ったことがない。この地平線の向こうを、見たことがない……」
「……」
新開の寂しそうな横顔に向け、荒北は説明する。
「……王は、なにも意地悪でオメーを国に閉じ込めているワケじゃねェ。ここと違って、外国は危険なんだ。オメーは国の大切な要人なんだヨ」
「うん……解ってる。だけど、オレはそれでもいつか、外に出てみたい。自分の目で見てみたいんだ」
「オメーが外に出たって、ずっとSPに囲まれたままだ。外国の上っ面しか見せて貰えねェさ」
「本当の世界を……見たい」
「新開……。オメーは、王子なんだ。その現実は覆せねェんだよ」
「王子……か」
新開は視線を足元に落とし、悲しそうに言った。
「普通の、一般人に生まれたかったな」
「贅沢言うンじゃねェ」
「みんなと……靖友と一緒の高校に通って、一緒に自転車部に入って、一緒に大会に出場して……そんな世界に生まれたかった……」
「一般人にャ一般人なりの苦労や悩みや制限があるんだ。隣りの芝生は青く見えるモンだぜ」
新開は草の上に腰を降ろした。
荒北も隣りに座る。
「オレね……悠人の方が次期王に相応しいと思ってるんだ」
「エ?」
「悠人はね、オレよりもずっとずっとしっかりしててさ、賢いんだ。吸収力や成長力がすごいんだよ。聡明でさ。悠人の方がオレなんかより……」
「そンなの当たり前だろバァカ」
「えっ?」
思いがけない荒北のセリフに驚く新開。
「悠人王子の方が賢いのは、次男だからだ。次男は幼い頃から長男の失敗を見てる。だから学習するんだ。弟が兄より失敗が少ないのァ、当然なんだヨ!」
「……!」
「兄はいつもプレッシャーと戦ってる。弟が見てる。見本とならなきゃいけねェ。兄がしんどいのァ当然だ。……オレにも妹がいる。長男の苦労は理解出来るぜ」
「靖友も……長男なんだ」
新開は少し笑顔になる。
「その代わり、兄は弱く幼い弟を守ろうとする心が育つ。優しさを覚える。強さが自然に身に付く。ちゃんとバランス取れてンだよ」
「靖友……」
「オレぁ、オメーが悠人王子より劣ってるなんて全く思わねェ。オメーは絶対、素晴らしい王になる」
「……ありがとう……靖友」
新開は目に涙が滲んだ。
「靖友と話してると……すごく心地好い……。もっといっぱい……これからもずっと、話を聞いてもらいたい。そしておめさんの話も、いっぱい聞きたい……」
「あァ。オレが何でも聞いてやる。オメーが知りたい事も何でも教えてやんよ」
新開は涙を拭い、荒北に向き直った。
「……じゃあさ。以前からどうしても答が出ない難問があるんだ」
「おゥ。言ってみろ」
「人間は……何のために生きてるの?」
「ハァ?」
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