【BL二次小説(R18)】 恋する王子様①
「ああ~。また負けだ~」
「ははっ。だけどだいぶ伸びてきたな悠人」
「隼人くんに追い付くだけで精一杯だよ」
新開と悠人はロードでいつもの丘に走りに来ていた。
頂上から街を見下ろす。
「……ロードではこの丘までが限界だな」
「これ以上行くと門限までに帰れなくなるもんね」
新開は遠く地平線を見つめる。
「いつになったら……あの向こうへ行けるんだろう」
「隼人くん……オレ達は一生この国から出られないんだよ」
「……うん。解ってる」
「この国だってとっても広いんだ。まだ行ってない場所はたくさんあるよ」
「……」
新開はそれでもずっと地平線の彼方ばかりいつまでも眺めていた ──。
「隼人王子、悠人王子、またそんな泥だらけに。ディナーの前に入浴をお済ませ下さいよ」
城に帰ってきた新開兄弟に執事が苦言を呈する。
「はいはい」
「はいは1回です!」
「はーい!」
新開兄弟は笑いながら浴場へ走って行った。
「やれやれ。もう大人だというのに、いつまでもやんちゃでいらっしゃる」
執事は溜め息をついた。
ここはサーヴェロ王国。
国を治める新開家には二人の王子がいた。
第一王子が隼人、3歳違いの第ニ王子が悠人と言う。
王子達は毎日朝から晩まで学問や作法や稽古に忙しい。
たまの休みには、兄弟二人で趣味のロードバイクに乗って街外れの丘まで行くのが唯一の楽しみだった。
王子達は国から出ることは認められず、過保護に育てられた。
出ずとも、外国から様々な人や物が流入するので国は平和で豊かだった。
悠人は特に不満を洩らしていないが、新開はいつも国の外の世界を見てみたいと思いを馳せていた ──。
ある日のこと。
新開の外国語レッスンの時間。
いつものように城の学習室で講師が来るのを待っていると、執事がノックして入ってきた。
「隼人王子、本日からこの時間は新しいカリキュラムになります」
「え?そうなの?」
「“ゲーム学”という学問です」
「ゲーム学?面白そうだね」
新開は椅子から腰を浮かした。
目を輝かせ興味を示す。
「ゲームのシミュレーションを通し、統計学や国の外交戦略等を学ぶものです」
「……なーんだ」
途端に興味が失せる。
椅子にドサッと尻をついた。
「新しい講師を招きました。お入り下さい」
執事がドアに向かって声を掛ける。
「失礼致します」
カチャ。
新しい講師が学習室に入って来た。
新開の前でひざまずき、敬意を払う。
「!」
新開は再び腰を浮かした。
ピシッとしたダークスーツ。
長身で黒髪の、新開と同い年ぐらいの青年だ。
細身の銀縁メガネの奥に、切れ長の鋭い瞳。
顔を上げるとその薄い唇を開け、その青年は自己紹介した。
「初めまして王子。講師の荒北靖友と申します。これから一緒に様々な事を学んでいきましょう」
新開は中腰のまま、頬を赤く染めてその青年に釘付けになり暫し固まっていた ──。