【BL二次小説(R18)】 恋する王子様⑳終
「……人、……悠人」
「ん……」
名前を呼ぶ声で悠人は目を開ける。
見上げると、新開が覗き込んでいた。
「隼人くん」
目をこすりながら、もそもそとベッドから起き上がる。
ベッド脇に新開が立っていた。
スタンドの明かりをつけると、その後ろに荒北の姿も目に入った。
「靖友くん?」
驚く悠人。
「何事?え?今何時?」
一気に目が覚める。
「悠人。オレね、靖友に誘拐されるんだ」
「は?」
何を言っているのかわからない。
「プランCだ」
「は?」
荒北の言っていることもわからない。
二人の顔を交互に見遣る悠人。
「今から言う事をよく聞け悠人」
荒北は悠人の前に立って言った。
「これからオレは新開を誘拐し、国外へ逃亡する。オメーは朝になったら捜索隊を出せ」
「……?」
「その後オレは適当な死体を探し出し、新開の死体として偽装し、数日以内に捜索隊に発見させる」
「え?ええ??」
寝起きにいきなり突拍子もない話を矢継ぎ早に聞かされ、混乱する悠人。
しかし二人の真剣な表情を見て、これはジョークでは無いのだと確信する。
「その後オメーは第一王子にスライドする。マリア王女と結婚しろ」
「えっ?……いいの?」
新開の方を見ると、新開はニッコリ微笑んで頷いた。
「これは、オレ単独の犯行だ。オレの身元はこのサーヴェロ王国民だと偽装工作してあるから、ビアンキ王国には全く責任は振りかからない」
「……え?靖友くん、ビアンキ王国の人だったの?」
だんだん状況が飲み込めてきた悠人。
ポン。
新開は悠人の肩に手を置き、じっと見つめて微笑む。
「悠人……。立派な王になるんだぞ。どこにいてもずっと、見守って応援してるからな」
「隼人くん……」
時間が無いだろうに、わざわざお別れを言いに来てくれたのだと理解する悠人。
「もう……二度と……帰って来ないの?」
ぶわっと涙が溢れ出す。
「悠人!」
悠人を抱き締める新開。
悠人も新開の背中に腕を回し、力を込める。
新開の目にも涙が光っている。
「隼人くん……!やっと、やっと、国の外に出られるんだね!やっと、夢が叶うんだね!」
「そうだよ悠人。やっと、オレ、本当の世界を見られるんだ……!」
「元気でね!落ち着いたら連絡してよ!手紙じゃまずいから、何か別の方法で!」
「ああ!必ず!」
二人は離れ、涙を拭う。
「靖友くん」
悠人は荒北に向き直って言った。
「絶対……!絶対隼人くんを幸せにしてね!絶対だよ!」
「あァ。まかせとけ」
荒北はニカッと笑って、悠人の頭をポンと叩いた。
「これァ餞別だ」
「?」
荒北は悠人に1枚の紙切れを渡した。
そこには、悠人の自室から城外への抜け道ルートが記されていた。
「……すげぇ!」
目をキラキラ輝かせて感激する悠人。
城の裏の公園で、ハヤブサに跨がっている荒北と新開。
「……オメーの死への覚悟が本物だと確信したから、二人でプランCを練ることが出来た。……強くなったな、新開」
「ははっ。靖友の教育の成果だよ」
新開は城を見上げ、今までの思い出と決別の意を固くする。
「……今なら、まだ中止出来るぜ?」
新開の様子を伺い、意思を確認する荒北。
だが、新開は首を横に振った。
「オレは死んだ人間だ。もう王子じゃない。この国にももう、戻ることはない」
新開の表情は晴れ晴れとしていた。
「オレぁオメーの誘拐殺人犯。更に抜け忍にもなる。一生追っ手からの逃亡生活だ。……それでも本当にいいのか?」
もう一度尋ねる荒北。
「もちろんだよ。この先どんな事が待ち受けていようと。靖友……おめさんと一緒なら……!」
新開の瞳は輝いていた。
二人はしっかりと固い口づけを交わす。
「よォし。じゃ、そろそろ行くか」
ヘルメットを被る二人。
「タフな旅になる。無理させちまうが頼むぜ、ハヤブサ!」
ギャウン!
まるで返事をしたかのように唸りをあげるハヤブサ。
ギャン!ギャンギャンギャン!
ハヤブサの回転を上げていく荒北。
新開は荒北の腰にしっかりしがみついた。
「陽が昇る前に国境を強行突破する!行くゼ!!」
ギャアアァァーーーン!!
愛し合う二人を乗せて、ハヤブサは朝陽に背を向け走り出す。
苦しい旅路が待ち受けているが、二人の心は希望に満ち溢れていた。
国を捨て、
身分を捨て、
二人の未来は今、
始まる ──。
おしまい
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