【BL二次小説(R18)】 恋する王子様④
「……なンか、週1が毎日に変更になったらしいンだけどォ……」
翌日、学習室に現れた荒北は不思議そうな表情で新開に尋ねた。
「オレが頼んで増やしてもらった!」
満面の笑みで答える新開。
「オレが薄給そうだから仕事増やしてくれたってことォ?」
「違うよ!靖友に毎日会いたかったんだ!」
「……」
荒北は教卓にテキストを置いた。
「真面目に勉強する気になったァ?」
「う、うん!なった!」
「ほんとォ?」
「ほんとほんと!」
あまり信用出来ないが、荒北は溜め息をつきながらホワイトボード前に立った。
「……ンじゃ。今日は簡単な問題から始めるぜ」
「OK」
新開はワクワクしている。
「じゃんけんで勝負することになった。負けるわけにはいかない。さァ、どう戦う?」
「え?」
面喰らう新開。
「何を出せば勝てるかってこと?わかんないよそんなの。全然簡単な問題じゃないじゃないか」
早速ブーイングをする。
「……じゃんけんに必勝法なんてねェよな」
「ないよ」
「だが、勝率を上げることは可能だ」
「ええ?」
荒北は教卓の上に座り、足を組んだ。
「勝負の前に“オレはパーを出すぜ”と言ったら、どうだ?」
「……!」
驚く新開。
「それは……でも……だとしたら……いや……」
考え込んでいる。
荒北はニッと笑って言った。
「これが、『戦う』ってことだ。勝負の時はいつも、相手よりいかに精神的に優位に立てるか、いかに主導権を握れるか、が勝敗を決める」
「心理戦に持ち込むってことかい?」
「そうだ」
荒北は教卓から立ち上がる。
「もうひとつ例を出そうか。……殴り合いの喧嘩をしようとしている。その時、こちらが言う。“オレはポケットに銃を持ってるぜ”」
「……!そんなの……ずるいじゃないか」
ショックを受ける新開。
「新開。これはスポーツじゃねェ。喧嘩だ。ずるいとかフェアとか言ってる場合じゃねェんだよ」
「でも……」
ピシャン!!
「!」
荒北が指示棒で教卓を叩いた。
「甘いこと言ってンじゃねェ。男はな、いつか戦わなきゃいけねェ時が必ず来るんだ。そのイザという時、いかに柔軟な発想が出来るか。それが生死を分ける」
「……」
青冷めている新開。
その様子を見て、荒北は口調を緩めた。
「脅かすつもりはねェ。オメーにはあらゆる場面に対処出来る知識を身に付けてもらいてェだけなんだ」
「……」
不安そうに荒北を見上げる新開。
「ポケットに銃を持ってるとは言ったが、実際に持っている必要はねェってことサ」
「え?」
「要は、時にはハッタリも必要だってことを言いたかったんだヨ」
「ハッタリ……」
新開は少しホッとする。
「ただし、ハッタリだと見破られちゃ意味がねェ。本当に銃を持っていると相手に信じ込ませてこそ価値がある」
「うん。そうだね」
「このハッタリのおかげで、喧嘩には発展せず相手は逃げて行った。……どうだい?ハッピーエンドだろ?ハッタリが無かったら殴り合って怪我人が出ていた。実際には銃は存在していないが、争いは回避された」
「……なるほど……!」
新開は、さっきまで不安だった気持ちが少し晴れた。
「誰だって争いはしたくねェ。平和を維持するには嘘も使いようだ、って話だ」
「うん。解り易い例だったよ。勉強になった」
「……」
ニッコリ笑う新開の表情を眺める荒北。
「新開」
荒北は新開の目を真っ直ぐ見て言った。
「この国は平和だ。しかし、平和ってのは努力しなきゃ維持出来ねェものなんだ。平和を保つためには知恵が必要。時には犠牲も生まれる。時には戦わなきゃならねェ場合もある。そしてそれを決断するのが、国のトップだ。オレは、それをオメーに教えるために来た」
「靖友……」
新開も真剣に聞いている。
荒北はスッと目を逸らした。
「怖い話しちまって悪かった」
「いや……。オレもいい加減そういう話に耐性をつけていかなくちゃな……」
新開は視線を床に落とし、神妙な顔をする。
意外と素直に納得してくれて、荒北はホッとした。
「明日の授業は、外へ出ようか」
「えっ?」
驚く新開。
「思いがけず毎日授業することになったかンな。少し余裕が出来た。明日はオメーの好きなロードバイクに乗って走りに行こうぜ」
「……靖友!」
新開の顔がみるみる輝いた。
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