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星と油

仕事を終えて帰宅すると
きまってキッチンの椅子に座って煙草を吸う
コートのまま紫煙を吐き出せば
飼い猫が甘える様に近づいてきた
ママは今もくもくしてるから、こっちゃんは抱っこ出来ないよ
言葉だけでなく身振りで距離を取ると
猫は不思議そうに煙を見つめて居た

限りなく丸に近いゼリー質の瞳
中には薄緑色の虹彩が何本も筋を成してキラキラと光っている
真っ直ぐに見つめているその煙は
お前の敏感な鼻では耐えられない悪性物質
そんなに一生懸命に目を見開いても
意味の無い物だよ

猫は不思議そうにじっと
長い事煙を見つめて居た

無知であると言う事は
こんなにも美しいものなのだろうか
吸い込まれそうな翡翠の瞳に
思わず目を奪われた

それがいずれ害を為すと知っていれば
お前はいつもの様にベットの下にでも潜り込んで
すっかり匂いが消えるまで出てこないのだろう

それが生き物としての正解

知らなくて良い事
知らなければ良かった事
必要な人だけが知っていれば
それだけで完結する事

美しい無知のまま
世界中を愛して居たかった

後に残るのは
きな臭い匂いと
纏わりつく息苦しさだけである事を

私は良く知っている

どうかお前だけは
白痴の様な美しさで
世界を信じ続けて欲しい

娘の控えめな鳴き声で我に帰る午前三時

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