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963hz

貴方は神様を信じますか?
インターホンの小さな画面に
貼り付けた様な笑顔の老婆が写っている

扉を開けてお話がしたいわ
お嬢さんはどんな顔してるのかしら

なんだか赤ずきんの狼ばばあみたいな事言うな
ほんの少し食指が動いて老婆を招き入れてみた

お決まりの救済説と薄っぺらな冊子
柔らかい口調とは裏腹に
物凄い力で有難いお言葉が詰まったそれを押し付けてくる
足元に戯れ付く猫たちを気にも止めずに
必ず貴方の人生に光が満ちるわ
仮面みたいな笑顔でそう老婆は言い切った

何を信じようと何に縋ろうと興味は無いけれど
押し付けて型にはめようとする奴は嫌いだ
確かにそれを必要としている人が居て
私はそうでは無いってだけの話

適当な相槌で会話を流して
目を通しておきますねと社交辞令で老婆を追い出した

ガチャリと軽い音のする鍵を閉める
たった半周
指で捻るぐらいで得られる安心
こんなちっぽけな鉄のつっかえ棒で
私の命と全てが守られている
そんな気になっている
全く滑稽である

ソファーに座ってすっかり冷めた紅茶を飲み干した
目の前には例の冊子
手遊び程度にパラパラとページを捲っていると
ある一節に目が止まった

神様は常に側に居てくださる
私たちが心を開いて受信さえすれば
いつでもその愛を感じる事が出来る

そんな電波みたいな
そりゃ時代は5Gですけど
さすがに神様の愛まで受信してたらキャパオーバーだっての
アニメみたいに突然「力が欲しいか…?」みたいな声
聞こえたらおかしくなっちゃうよ

しかし成程
私が知らないだけで受信とやらをしたら
何か感じる物があるのだろうか
神様 感じ方 神様の愛 受信
検索ボックスにチープな言葉を並べる
入力しながら思わず笑ってしまった

それっぽいサイトの羅列
Amazonの書籍の広告
龍神様の有難い画像
神様アンテナを磨く方法
老婆の言うアンテナは確かに認知されている様だ

963Hz 高次元、宇宙意識と繋がる

具体的な数字を出されると
本当に受信できそうな気になるじゃん
クリックして文字を目で追っていく

『963Hzの周波数は、霊的な目覚めを促し、神の意識とつながることを可能にすると信じられています。この周波数を使用した音楽を聴くことで、宇宙との一体感や調和を実感し、高次の意識に触れることができかもしれません。』

人の琴線だけでは無く
音は神様にも触れられるらしい
驚いたと言うよりも少し恐ろしくなった

一番下に海外のオーディション番組に出演した
963Hzで歌える13歳の男の子の動画が貼ってあった

美しい歌声
これが神様の声か
鳴り止まない拍手と喝采
涙する観客
彼こそ神から遣わされた天使だと
胸で十字をきる人まで居た
緊張のせいなのか天使は終始硬い表情で
神様に触れてもあんまり楽しく無さそう
足立区の汚い路上で
ワンカップ片手に歌っているお兄さんの方が
よっぽど楽しそうだったよ

彼もきっと進んで天使に成りたかった訳では無いだろう
番組で優勝したらパパがプレイステーションを買ってくれたり
学校で友達に自慢したり
好きな子の為だけに歌ったり
産まれたばかりの小さな兄妹の子守唄だけで良かったのかもしれない

神様だってきっとそう
光あれと太陽を作って休みなさいと夜を作った
自分に似せて作った人間を
わざわざ救ってあげようと言うよりも
暖かい紅茶を淹れて
骨が折れる作業だったよとほんの少し
愚痴を言い合える者が欲しかっただけではないだろうか
そんなにも私達は可哀想な生き物なのかね

誰しもが望んだ姿では生きられない
そう生きているつもりでも
相対する人の中では全く別の生き物になっている
多様性なんて便利な言葉でさえ
誰かを何かにカテゴライズする檻だ

おはようと飼い猫に挨拶をする
私の声は何Hzなんだろう
天使なんかじゃないけど
私のこれからを作るのも
貴方と今までを作ってきたのも
紛れもなく私の神様は私だった

Congratulation

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