五線譜
空を見上げたら
絡まった様な電線に月が捕まっていた
ぼんやりと五線譜みたいだなと思っていたら
信号が青から赤に変わってしまった
さっきまでベビーカーを押したお母さんや
ビジネスバッグのサラリーマンが歩いていた道路を
物凄いスピードで車が走り去っていく
そんなに急いで何処へ行くんだい
それとも何かから逃げている最中かい
しんと静かな夜だもの
向かう先が何であれみんな急いでいるよね
毎日が曖昧に溶けていく感覚がある
自分の喜怒哀楽や琴線みたいなものが
ドロドロに溶けていく
感情と顔が動かなくなっていく
嫌な事を沢山我慢していたら
感覚が麻痺して何も感じなくなってきた
そのうち嬉しいとか楽しいが溶けていって
遂には何も要らなくなってしまった
一人になりたくないって気持ちが
昔からとても強かった
人とか物への執着が凄くて
何一つ自分では捨てられなかった
其のせいで自分の首が締まるのにね
全く可笑しな話である
何も失わない為に
何でも出来る私だったのに
全部が面倒になって
気が付いたら一人で立てる様になってた
一つずつ捨てていく
大事だった物
大事だった時間
感情を殺してまで手に入れた物
絡まった五線譜から
シンプルな構造の体に成っていく
そう言えば
音楽も最近シンプルな曲が好き
ゴリゴリなヘビーメタルはずっと好きだけど
華美な礼装を削ぎ落として
音の無い余白を想像で埋める様な
息遣いがすぐ側で響く様な
そんな曲が好き
どちらが良いとか劣ってるとか
そう言う類の話では無い
ずっと続いて行く人生の曲の
此処が丁度お休みなだけ
そのうちまたギターがカッティングを刻んで
ベースがウォーキングを始めるのかも
ラッパが鳴ったりしたら面白い
フィナーレまで私で在れますように