『世界のために涙せよ 新世紀へようこそ2』 池澤夏樹
世界がめまぐるしく変化するとき、雑誌や本などの紙メディアでは現実のスピードに追いつけない。
「9.11」にすばやく反応した著者は、ほぼ毎日のペースでメールマガジンを配信した。
その51回分をまとめたのが前作『新世紀へようこそ』であり、緊急提言という性格を反映したせいか、メール風の短い文体になった。
本書はその続編だが、対照的に、各エッセイは長く、読者にじっくりと考えることをうながすものになっている。
本書には、アフガニスタン戦争からイラク戦争にいたる期間に書かれたエッセイが集められている。
著者は「世界ぜんたいの動きについて、長く持続的に情報を集め、分析し、考えて」いこうという姿勢をとっている。
そうすることによって、ふつうの市民の心からはなれて暴走する政府やメディアに対抗できる考え方をつくりだそうというのだ。
たとえば、アメリカについて発言するときに「アメリカは」といわず「アメリカ政府は」あるいは「ブッシュ政権は」といってみる。
反戦デモに参加する米国市民と、戦争へとかりたてる米国政府との間に境界線を引ければ、だれが本当に戦争をしたがっているのかが見えてくる。
「テロ(や戦争)はいけないという空疎な意見の交換」をするだけでなく、なぜそれが起きてしまうのか、根源的な理由について思索を重ねること。
それを実行するには、時代の速度からいったん身を引きはなし、この「本」をじっくりと読んでみる必要がある。
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