見出し画像

地テシ:276 「ビビビ・ビ・バップ」読み終わったよ!

劇団☆新感線「薔薇とサムライ2」大阪公演の追加公演が発表されましたよ!

10月13日(木)の18:30の回が追加されました。つまりはチケットの売れ行きが良いというコトでして、誠にありがとうございます。なんとか無事に始まって無事に終われるよう、なお一層気をつけて取り組んで参ります。




さて、以前にVR小説の嚆矢「スノウ・クラッシュ」(ニール・スティーヴンスン/ハヤカワ文庫)とVR小説の決定版「ゲームウォーズ」(アーネスト・クライン/SB文庫)を再読したという話を書きましたね。いずれもVR(Virtual Reality/仮想現実)世界と現実世界を行き来しながら大騒動を繰り広げる、ハイスピードな冒険小説です。

でね、この二冊をご紹介しながら思いだしたのが、昨年に読んだ分厚い文庫本。こちらもVR世界と現実世界を行き来する、更にドライブの掛かった冒険小説だったのですよ。こちらもゼヒご紹介せねば、と思って再読している内に時間が掛かってしまいました。

それが「ビビビ・ビ・バップ」(奥泉 光/講談社文庫)なのですが、なにしろ分厚い! 文庫本なのに4cmくらいの厚みがあります。なんていうか、鈍器にでもなりそうな厚さなんですよ。ならないけどさ。
持ち歩くにしてはちょっと分厚すぎるので買ったはいいが中々読み始められなかったんだけど、昨年の旅公演中に宿で読もうと思って荷物として送っといて、いざ読み始めたらコレがまた面白くてガンガン読めるのですよ。読めちゃうんですよ。大森望さん(翻訳家)の解説にもある通り「おもちゃ工場を一ダースばかりまとめて爆破して、その中身を東京ドームにぶちまけたような小説」なんです。


舞台は二十一世紀末頃。2029年に発生した大規模なコンピュータ・ウィルスの大感染パンデミックによって世界中のコンピュータが停止し、2000万人以上の人命と膨大なデータが失われた。そこから何とか復興したものの国家の力は弱まり、多国籍超巨大企業スーパーメガファーム群によって統治されている、という世界。
大感染によって技術革新は減速したとはいえ、二十一世紀末にはなんだかとても便利な世の中になっています。コンタクトレンズ型やメガネ型のAR(Augmented Reality/拡張現実)によって視界には様々な情報やリアルな3Dキャラクターが表示されていたり、商品給仕機フードサーバーによってあらゆる食事が瞬時に作り出されたり、洗面所やトイレで自動的に健康精査ヘルスサーチされていたり、それはそれは便利な世の中になっています。

と、世界設定を述べたところでこのままあらすじを書いても良いのですけれども、結構長くなっちゃうので気になる方はどこやらで調べてみて下さい。ここでは、私が個人的に気に入ったポイントを列挙していきたいと思います。


まず、登場キャラクターがなんだかお気楽な人たちばかりなのが良い。主人公はジャズピアニストにして音響設計士。お酒が大好きで、ジャズ者らしく行き当たりばったり精神旺盛です。他にも、超巨大ロボットメーカーの重役である天才工学博士や11歳にしてオックスフォードに入学したJKコスプレ天才工学少女、二十世紀サブカルマニアの貧弱棋士、ヤクザコスプレのマゾ奴隷副社長、そして可愛らしくも役場職員ふう佇まいの子猫。そんな個性的な人々が次々と登場しますが、みんなお気楽でやたらと人間くさい人たちばかりなんです。
そしてさらに魅力的なのが数々のアンドロイドたち。ジャズプレイヤーだけでもエリック・ドルフィーやチャーリー・パーカー、マイルス・デイビスなど綺羅星のごときスタープレーヤーたちが大勢登場し、もちろん本物そっくりに演奏します。
他にも五代目古今亭志ん生や五代目立川談志などの落語家、棋士の大山康晴十五世名人、山田風太郎の小説に出てくる忍者たちなどなど、本物と見まがうばかりのアンドロイドたちが登場して大暴れします。
さらに、これがVR世界の3D映像となるともっと何でもアリになります。1969年の新宿を精密に再現した仮想空間には、伊丹十三、寺山修司、横尾忠則、状況劇場の紅テント、ジミ・ヘンドリクス、頭脳警察、タモリ、ゴジラやラドンたちによる大怪獣バトルロワイヤル、、、ああ書き切れない! そんなヤツらが現れてそれぞれが好き勝手に暴れ回るのですから、これを何でもアリと言わずになんとしましょう!


これだけ好き勝手なことを書いているのになお読者を飽きさせず引っ張っていくのは、魅力的な文体によるところが大きいのではないでしょうか。主人公のお気楽な性格を投影したようなポップな筆致。平文で○○だ、○○かもしれぬ、とちょっと古風な言い回しでテンポよく展開しておいて、段落の最後で○○だと思います、○○だよね、とフワッと着地するコトでなんとも言えない軽快なリズム感を作り出しています。
また、解説にも「海外SFの非常にレベルの高い日本語訳」に影響されたとある通り、大仰な造語にルビが振ってあったり、ちょっと持って回った言い回しであったりと、海外SF好きには堪らない文体であるのも魅力的です。
あっちに行ったりこっちに行ったりする突飛なストーリーや、現代人には想像できない近未来の生活っぷりに振り回されながらもスルスルと読めてしまうのは、このポップな文体のせいだと思います。


そしてなによりも、要所で挿入されるジャズ演奏シーンの痛快なコト! 伝説のジャズメンアンドロイドたちとの一発勝負である演奏が描写されるのですが、これがまた音が聞こえてくるような勢いと鮮やかさで描かれているのです。ビ・バップ(モダンジャズの一ジャンルでアドリブソロの応酬が特徴)ならではの緊張感や躍動感が余すところなく伝わってきます。
ジャズに余り詳しくない方のために、モダンジャズでの僅かなアイコンタクトなどで紡がれるソロプレイ回しについて、ちょっと面白い「ジャズ演奏中の全員の思考をかきだしてみた!」という動画を見つけたので貼っておきます。曲はマイルス・デイビスの「So What」です。

誰が、どの順番で、何小節ソロプレイをするかが決まっていない中での、各メンバーが何を考えているのかが書き出されています。演奏も見事なのですが、ジャズメンって色んなコトを考えながらプレイしているんですね。


この小説が講談社の「群像」に連載されていたのが2014~15年、単行本の発売が2016年、文庫本の発売が2019年。当然ながら現在進行形のCOVID-19大流行よりも前に書かれておりまして、パンデミックという言葉がまだそれほど一般的ではなかった頃です。
ですが、コンピュータ・ウィルスだけでなく、生体ウィルスによるパンデミックの可能性もモチーフになっているのですから恐れ入ります。この辺り、人間にも感染するコンピュータ・ウィルスを扱った「スノウ・クラッシュ」にもちょっと似ています。主人公たちのちょっとした冒険がいつの間にか全世界的な大騒動に広がっている所もね。
また、1960年代にこだわった仮想空間を構築するところは、1980年代のギークカルチャーにこだわった仮想空間を構築した「ゲームウォーズ」とも共通した執念が感じられます。やはり、SF小説にはこだわりと執念がなくてはなりませんよね。ええと、個人的な感想ですけど。


そんなこんなの「ビビビ・ビ・バップ」。VR、AR、アンドロイドといったデジタル感溢れる近未来と、ジャズピアニストと将棋指しという極めてアナログ感溢れる人々が入り交じってドッタンバッタン組んずほぐれつ走り回ります。
最終的には人類の存亡を掛けた大騒動になるくせに、主人公たちはなんだかのほほんとマイペースに取り組んでいきます。おいおい、そんな楽観的でいいのかよと心配にもなりますが、軽妙な語り口のおかげで終始ニヤニヤしながらこの大冒険を楽しめちゃうんだからしょうがない。
みなさんもよろしければこの「VRとAIと猫とジャズと落語のSF的邂逅」とでもいうべき作品で自由奔放なイメージの奔流に弄ばれてみて下さいませ。分厚いけどさ!