首長の役割、担当のできること
首長が悪いのか
うちのまちは。。。
セミナー等で自分が関わってきた自治体の事例を紹介すると、「うちのまちの首長は〇〇市のように理解してくれないから」等の嘆きの言葉を聞くことが残念ながら多いです。
でも、これはどうにもならないことなのでしょうか。
確かに。。。
確かにこれまで多くの自治体で多様な首長とお会いし、直接ざっくばらんに話をしてみると、後述するような素晴らしい方もいらっしゃいますが、その瞬間には全く共通言語が見出せない首長もいることは事実です。
総務省の公共施設等総合管理計画を中心としたザ・公共施設マネジメントは、「財政が厳しいから短絡的に施設総量を縮減すれば良い、一方で利用者を中心とした市民の反発を招く」という既成概念が浸透してしまっています。
政治家の視点からみたら「票を失う行為」でしかないですし、たった4年の任期のでは、ドラスティックに公共施設を長寿命化・集約化・複合化して形に表していくことは困難であるため、多額のコスト・マンパワー・リスクを投じても「票につながらない」、やらない方が良いものになっってしまうのです。
これまでの発想、思考回路・行動原理でいる限りは、魅力がない(≒政治的メリットがない)から見栄えの良い計画づくり、リアリティのないシンポジウム、再編ワークショップなど表面上だけ「やっているフリ」をして対外的な体裁を整えお茶を濁してしまうのです。
首長の位置付け
市民の負託
首長は選挙で選ばれたそのまちの経営責任者です。地方自治法では次のように定められています。
公共施設に関連する事項でも予算の調製権・執行権、財産の所得・管理・処分などが位置付けられてます。
近年では選挙公約で事前に「こうした政策をやります」を掲げ、SNSや様々な活動を通して更に政策を練り上げ仲間・理解者を広げながら選挙戦に臨んでいきます。
そして、当選した暁にはたった4年の任期で選挙公約で掲げた夢や市民との約束を叶えていかなければなりません。
一刻の猶予もありません。首長にとって必要なのは夢や約束を叶えるための経営資源です。「財政が厳しいから」「うちのまちの職員には荷が重い」などと補助機関たる職員からネガティブ・塩対応されていては、とてもではないですがマニフェストを実現していくことはできません
財産の総合調整権
地方自治法では、長による財産の総合調整権について次のように定めています。
要は「そのまちにおける財産を総合的にマネジメントするのは首長である」ことが規定されており、長が公共施設マネジメントを主導していくこと・その責を負うことが定められています。
そうした面でも、首長が戦略的に公共施設マネジメント・まちづくり・自治体経営に関わり推進していけるかどうかが、そのまちの未来を大きく左右していきます。
トップマネジメント
常総市
2016年に常総市長へ就任された神達岳志市長とは、常総市の公共施設マネジメント支援業務をきっかけに交流させていただいてますが、その強烈な目力と熱意、そして職員との距離感、行動力にいつも圧倒させられています。
初対面の面会においても、いきなり「俺、日本変えたいんだよね!」から話がはじまるとは思ってもみませんでした。
口だけではなく、公共施設マネジメントにおいてもあすなろの里において日本初となるトライアル・サウンディングの実施、豊田城における観月会(スーパームーン鑑賞会)、AI自動運転パーク、本田技研工業との連携協定、随意契約保証型の民間提案制度など、数々のプロジェクトを展開しています。
市の公式YouTubeチャンネル、「ようこそ市長室で」でも、すべてご自身が登場して数々のプロジェクトを紹介しています。
更に、職員研修も様々な階層を対象に自らがファシリテーターになって行ったり、名刺には「常総市長」と並んで「営業本部長」の肩書を持ち、都内で民家事業者に対して常総市を売り込んだりと、「自らが先頭に立つ」ことをガチで実践されています。
阿南市
2019年に就任された阿南市の表原立磨市長。
こちらも公共施設マネジメント支援業務で大変お世話になっていますが、所信表明でも拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」をご利用いただいたりしています。
初対面の面会時も全国各地のPPP/PFI事例から墓標まで非常に詳しく、しかも直接ご自身で各地を訪問され、キーパーソンとも幅広い人脈を持っているお話が印象的でした。
「阿南駅周辺まちづくり基本計画策定支援業務に係る公募型プロポーザル」においては、担当者が作成してきた公募関連資料をご自身でチェックするだけでなく、具体的な修正指示をされています。
ここまではしっかりとした首長であればありうるでしょうが、特筆すべきは公募関連資料の冒頭にすべてご自身で書かれた「市長メッセージ」です。
更に2022年11月27日に開催されたまちづくりシンポジウムでは、オープン・エーの馬場正尊氏、ひらくの染谷拓郎氏の講演に続き行われたトークセッションで、2名の超大物を相手に自ら進行役を務めていらっしゃいました。
しかも、この進行のスライドもすべてご自身で作成され、ご自身がファシリテーターを務め、阿南市として「やりたいこと」を明確に宣言されています。
こうしたことができるのも、前日からゲストのおふたりとともにまちなかを歩き、徹底的に阿南市の状況を共有したうえで本番に臨まれているからです。
その他の自治体
その他の自治体でも印象的だった首長(の行動・言動)はいろいろあります。
東村山市の渡部尚市長(しゃべくり007などにも登場)は、様々な講師を招聘して頻繁に実施していた公共施設マネジメントに関する職員研修で必ず最前列中央に副市長と共に座り、最初から最後まで熱心にメモを取りながら聴講されています。
驚くべきは冒頭のご挨拶で「今日は〇〇さんにお越しいただき、こういう話とこういうことをお話しされていきます。ポイントはこういうところなのでしっかりと学んでください。」と手短にすべてネタバレをしてしまうことです。
もちろん担当者から事前レクが入っていると思われますが、ノー原稿でこういったことを話せるのは、自分たちのまちに置き換えながら咀嚼しているからでしょう。随意契約保証型の民間提案制度では「今の時点で実施しても職員が民間事業者の提案を受け止めて形にする力が備わっていない。もう少しいろんなプロジェクトの経験を積んでからやろう」と1年先送りしたことも象徴的です。(その結果、東村山市では対象を「東村山市に関すること全般」に広げ、全国最多の27事業を協議対象案件に選定しています。)
鳥取市の深澤義彦市長も職員研修の冒頭で、「今、本誌の抱えている公共施設は〇〇施設で延べ面積では〇〇万〇〇〇〇㎡、市民一人当たりに直すと○㎡となっており、更新経費は年に○億円不足するとされています」と、こちらもノー原稿で自分たちのまちのストックを正確に把握されています。
首長は「まちの経営者」なので、経営資源としての公共資産の状況を正確に把握しているのは基本とも言えますが、ほとんどのまちの首長はこうしたことも理解できていないでしょうし、メモなしでは数字も読み上げられないのではないでしょうか(だから単位とかを間違える)。
ダメな首長の典型例
一方で残念ながら(その時点では)ダメな首長もいらっしゃいます。
これもいろんな形で感じるのですが。。。
例えば職員研修に参加されて、ありがたいことに冒頭の挨拶はしていただけるのですが人の所属・氏名などを間違えてしまったり、担当の書いた原稿を棒読みしてPPPをPPAといってしまったり。。。こういう方はたいてい挨拶終了と同時に「公務の都合」で退席されてしまいます。
また、面会の際に「〇〇さん、知ってる?」と自分の交友関係がこちらと近いことをことさらにPRする方も、限られた面会時間で本来は何か一つでもプロジェクトに直結することやそのまちの課題の本質に迫りたいのですが、神経衰弱みたいなことやってて時間切れになってしまい、お互いに得るものがありません。
担当のできること
うちのまちの首長は上で書かれていることそのままだ。。。と絶望されてる方も多いかもしれません。しかし、そこで諦めては試合終了になってしまいますし、その首長がこっちを向いてくれることなく任期が終わってしまいますし、担当の方も異動になってしまうでしょう。それでは誰も得をしませんし、まちとしても何も得られません。衰退するだけです。
【追記_このパラグラフ】
行政は下記noteでも書いたように非合理的な組織であり、理想論や経済学の世界だけではうまくいきません。
更に首長は関わる範囲も非常に広いため、オトナの事情もいろいろと抱えています。理論的・感情的にはわかっていてもYESと言えないこともあるのです。
上記の「(その時点で)ダメな首長」は公共施設マネジメント、公民連携、PPP/PFIといった行政的な分野・専門性から考えると確かに興味を持ってもらえないかもしれません。
首長を取り巻くこのような状況・資質を理解し、想いを咀嚼したうえで策を考え実行していくことが必要です。
単一の話ではなく「自治体経営・まちづくり」や「自分のやりたいことを実現するための経営資源の調達」の手段として話ができれば、突破口が見えて来ないでしょうか。
こうしたことに前向きに取り組むことで政治的にも役にたつ≒票につながると認識いただければ、こちらを向いてくれるはずです(それでもダメなレベルであれば、次の選挙で市民が判断を下すはずです)。
担当ができることは、市長決裁まで求められないような小さなことで良いので小さなプロジェクトを蓄積していくこと、小規模な予算や総務省の経営財務アドバイザー派遣制度、内閣府のアドバイザー派遣(やまちみらいの不定期に行う無料企画など)を活用して首長を含む庁内の共通認識を醸成していくことなど、いろいろとあるはずです。まちに飛び出て民間プレーヤーとプロジェクトをやっていくことも選択肢になるかもしれません。
あるいは首長に「直接こういうことがしたい」「この分野を頑張らないとまちが潰れる」といった直談判をすることも手段になると思います。首長ガーと言い訳していても何も変わりません。
職員のクライアントは首長
職員のクライアントは市民ではありません。なぜなら職員は首長の補助機関であり、首長のように市民の負託を受けているわけでもないからです。
選挙で(行政という組織の外から)市民に選ばれた首長が、たった4年の任期の中で市民の夢や約束を叶える、自分がまちのためにと思って掲げた公約を実現していけるように必要な経営資源を提供すること、そして経営判断を誤らないように適切なデータと選択肢を提供することが職員の役割です。
職員のクライアントは首長です。だからこそプロとしてやれることは必死にやらなければいけないですし、結果を出す必要があるのです。
職員は政治家ではない
職員は政治家ではありません。
だから、徹底的に手を尽くしたうえでどうしても首長(や副知事・副市長・副町長・副村長)などと意見が合わなければ、最後に「それは政治的判断ですか?」と聞きましょう。政治的判断であれば、政治的な責任を負うのは首長です。(自分も公務員時代に副市長と意見が合わないときは、最後まで徹底的にディスカッションしますが、最後にこの言葉で確認し、それ以上は絶対に意見を言わないことにしていました。)政治的判断まで首を突っ込みたいのであれば、自分が公務員を辞めて政治家になれば良いのです。
結果責任はそのまちを左右しますが、それは市民の負託を受けた首長の判断ですし、まちが良くなろうが衰退しようが、そこまでに積み上げてきたそのまちの選択の結果でしかありません。
こちらに振り向かせる
前述の「職員がやれること」を本気になって覚悟・決断・行動したことがあるでしょうか。
そういうことができていないのであれば、首長を支える補助機関としての機能不全を起こしてしまっていますし、首長を裸の王様にしてしまうことに加担しているわけです。
石川町では、支援業務の2年目の最後に町長・副町長・教育長をはじめ全幹部職を前に実施した報告会で担当者が魂の籠った「生き残る自治体になるために」と題したプレゼンを実施し、直属の上司は涙を浮かべ、町長も「これからは考え方を改める」と発言され、完全独立採算の道の駅などのプロジェクトが徐々に動きはじめました。
担当がどれだけ本気で取り組んでいるのか、そのことが首長の目に止まる、耳に届く状態を作っていくことが何より大事ですし、1回でダメだったからと諦めてはいけません。何度もしつこく繰り返すことで「あいつはなんでここまで。。。」と思わせるぐらいまでやってみましょう。
「首長がこっちを向いてくれないこと≒職員の努力・結果がそこまだ達していない」ことだと認識し、自分のまちのために首長ともしっかりとタッグを組んでやっていくことが大切です。
他のコラムとも共通しますが、テクニカルなことではありません。コンサルに頼ったり外部有識者委員会からの提言に依存しても変わりません。人と人との関係です。その原点には覚悟・決断・行動があります。
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