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最近の記事

エウリュディケの画筆

「天から授かったものに従うことも、自然の命ずることです。私の授かったものは、夢にふけることでした。私は想像の跳梁に苦しめられ、それが鉛筆の下に描き出すものに驚かされました。けれどもはじめ驚かされたものを、逆に私の学んだ、また私の感じる芸術の生理に従わせて、見る人の眼に突然魅力あるものとし、思想の極限にある、言葉ではいい得ないものをそっくり呼び起こすように持っていったのです。」 オディロン・ルドン 『ルドン 私自身に』 1  高層ビルの屋上では、強い風が吹いている。なびく

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    • まどろみ、うたたね、夢をみる

       【夢】ゆめ  1.睡眠中に、あたかも現実の経験であるかのように感じる一連の観念や心像。視覚像として現れることが多いが、聴覚・味覚・触覚・運動感覚を伴うこともある。  2.将来実現させたいと思っている事柄。  3.現実からはなれた空想や楽しい考え。  4.心の迷い。  5.はかないこと。たよりにならないこと。  令和x年五月某日  東京都内某所某病院  五月病という言葉が存在するように、ゴールデンウィークのような長期休み明けは、精神に支障を来す患者が増える時期だ。  次か

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      • 眠りゆく者に敬礼を

         今、GitHubにアップロードされた一枚のファイルをわたしは眺めている。  ソースコードを読むためではない。それを書いた男の記憶に触れ、その手触りを確かめるためだ。  聞く話によれば、彼のアカウントにはガラクタのようなプログラムもどきが散らばっているだけで、正常に動作するものは一つもない。彼がコンピューターサイエンスに関して天賦の才を持っているとは到底信じられないような、滅茶苦茶なコードばかりだという。それでも、大量に積み重なったコミットには彼の血が通っているように思えて

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        • [lullaby of birdland]

          [Noise: Rain drops] [Place: Sector - 35094813]  都会の雨は錆びた金属の匂いがする。もう三日も降り続いていた。窓から見える薄暗い路地に人陰はなく、アパートの共用庭に植えられたタマリンドの木の葉だけが、まるで幽霊の手のように、音もなく揺れていた。窓の外に手を伸ばして、指先に落ちた雨粒を舐めとった。血生臭くて、ちょっと甘い。  今日も客は来ないだろうと、わたしは溜息をつき、おもむろにアシスタントに話しかけた。 「Alexa、おなかが

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          末那識の夢

           どこかで繋がっている。街は村でした。お互いがお互いを知り、ホームとよべる場所がどこなのか知っていました。我々はそのテクノロジーで人々を繋げています。繋がりは万人が求めるひとつの切望です。どこにいたってありのままの自分でいながら歓迎されている、リスペクトされている、認められているという切望です。  わたしたちマナシキ社は旅人たちのユートピアを建国します。世界中の都市と保養地が再現されたマナシキシステム内では街と村とホストとのつながり、体験したことのないツアーが最も純粋かつ安全

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          ディアスポラ

           東京都北区某所に位置するマンションの巨大な地下室で、内海はPCの画面に連なるコードを目で追っていた。周囲の会話や物音が普段よりも耳に障り、いくらか疲れが溜まっているのだろうと思い当たる。目頭を揉みほぐしてから、大きく息を吸う。肺に溜め込んだ空気をゆっくりと吐き出すと、周囲の話し声や足音が遠のいてゆき、ハッピー・ハッキング・キーボードをタイプする軽快な音だけが明瞭に聞こえてくる。いまは使われていない倉庫から発見した代物だった。仮想キーボードも悪くないが、使い慣れた物の方が手に

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          享楽のうた

                                                                                   1  川が流れている。いや、流れていると言えるだろうか。川幅が太く、凍りついたそれは、ほとんど流れているとは言えない。さながら海にまで続く、長い一本の氷の道のようだ。  まだ朝が早い。七時頃だろう。川辺の薄汚いレンガ張りの舗装道に立った少年が、川に何か石のようなものを投げ入れた。小さな音がして、その石は水面の氷を割った。  ここは

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          オーバーラップ

                                                                                  *  左耳のモニターからビープ音が鳴る。   仲間からの合図だ。 〈どうだ、システム侵入できそうか?〉  ノイズの混じった通信を無視して、ラップトップを叩き続ける。  雑居ビルの屋上が好きだった。人目につかない上に、見晴らしもよいからだ。 〈おい、聞いてんのかよ!〉  熱のこもった声が耳を刺す。 「そう焦るなって。まず

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          バイタルサイン

          1.  おれたち人類は太古の昔から何かを書きのこしたり、とりあえず物として残しておくことが大好きだ。例えば洞窟に獣の油とか樹液を使って描かれた壁画、どうやってくみ上げたかもわからない意味不明のオブジェ、放課後の黒板に描かれた日直の相合傘。

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