オーバーラップ
*
左耳のモニターからビープ音が鳴る。
仲間からの合図だ。
〈どうだ、システム侵入できそうか?〉
ノイズの混じった通信を無視して、ラップトップを叩き続ける。
雑居ビルの屋上が好きだった。人目につかない上に、見晴らしもよいからだ。
〈おい、聞いてんのかよ!〉
熱のこもった声が耳を刺す。
「そう焦るなって。まずはこいつに探索させる」
小型無人機を取り出して、屋上の床に設置する。
〈こいつってどいつだよ。もしかして、おれたちがお前を殺しかけたこと、まだ根に持ってんのか?〉
「当たり前だろ」
ドローンの光学迷彩を有効化しながら、当時を思い出す。
二年前のことだ。殺されかけたことには違いないが、本音をいえば恨んでなどいなかった。口には出さないが、むしろ感謝さえしている。あのコミューンでの出来事がなければ、いまの自分はいない。
〈ふん、まあいいさ。唯川、そっちは任せたぞ。適宜連絡しろ〉
「了解」
エンターキーを叩き、ドローンが問題なく飛行するのを見届けると、唯川はヘッドセットを目元までずり下げて、ボイスコマンドで起動させた。システム侵入に最適化された仮想インターフェイスが視界に広がる。
正気を確かめるために、何やら言葉を呟く。二年前、あの丘の上でリゲルが発した声明と同じ文言だ。
だいじょうぶ。これはただの狂気なんかじゃない。
インターフェイス越しに、ビル群の上空を進むドローンを眺める。
その間だけは、二重写しの世界が一つになって見えた。
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