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ラグジュアリーブランドとサステナビリティ

文献読後メモ:

2026年以降の消費の鍵を握るといわれているミレニアル世代を中心にラグジュアリーブランドがサステナビリティ課題にどう取り組むべきか調査を行った資料を読んだ。

ラグジュアリーとサステナブルって両立できるの?

ラグジュアリーとサステナブルという一見相反するようなコンセプトだが、今、ハイブランドにこそ社会的適任が求められている。

近年ラグジュアリーファッション市場でも、グリーンでオーガニックでスローでエコであるというコンセプトが影響を持ち始めている。

従って、より持続可能なソーシング、製造、ディストリビューションプロセスが求められ、社会的、環境的責任を持った行動をしなくてはならない。

ファッションはその性質上、商品のライフサイクルが短く、物質的で廃棄も多い。さらに材料を世界中の多岐に渡る地域から調達し、そのサプライチェーンも長く複雑な構造をしているので、その全ての工程でサステナブルな取り組みができているか、監視するのは難しい。

ただし、ハイブランドに関しては、自社のサプライヤーと長期パートナーシップを結んでいる事が多いので、サプライチェーンに対してコントロール力を発揮することは比較的可能。

サステナビリティとラグジュアリーの両立

サステナビリティとラグジュアリーは一見相反するコンセプトのようにも感じられるが、共通の価値観もある。例えば、品質、時を超えても変わらない価値(タイムレスさ)、希少なリソースへのリスペクト、真正性、受け継いできたもの(ヘリテージ)を大切にすること。特に、時を超えても変わらない価値や品質は、良いものを長い間大切に使うという行動によって、結果、自然資源の消費、廃棄や汚染を減らすことに繋がる。サステナビリティのコンセプトは、却ってハイブランドの優位性を高める助けにもなりうる。

ただ、持続可能な取り組みとしてよく取り上げられる資源の再利用は、プレステージを求めるハイブランドの消費者には受け入れられ難い。これらの消費者は伝統的な価値、すなわち"高価格で貴重であること"に、ハイブランドの意義を求めている。

消費者のサステナブルな行動

消費者は、環境に優しいという点に価値を見出したときにだけ、グリーンな商品に対してより高いお金を払おうとする。環境に優しいということは、不便なことであり、追加の努力や犠牲が必要と考えていて、それが実際の購買行動に影響を与えている。

自己申請と購買行動のギャップ

ある研究では、自分は環境に優しい購買者であると自己申告している消費者が66%であったのに、実際に購買しているのは11.5%に過ぎなかったと述べられている。また別のイギリスの研究では30%の消費者がエシカルな消費者であると自認しているのに、マーケットに占めるエシカルな商品の割合は1-3%に過ぎないとして"30:3現象"と名付けられている。つまり、意識と実際の行動を隔てるなんらかの障害がある。

なぜ実際に買わないのか

ラグジュアリーファッションでは美しさ、ファッショナブルな外見そしてステータスが優先されるため、消費者のサステナブルな意識が実際の購買に繋がらない。また、消費者が十分に情報を得られていないという点も大きい。自らブランドの詳細な取り組みについて調べるよりも、業界の大まかなサステナビリティ評価をそのまま受け入れる傾向がある。その結果、グリーンファッションの利点、コスト、特性、エモーショナルな価値が正しく理解されずに、市場では懐疑的に受け止められている。にもかかわらず、実際に自分をエコな消費者として申告するのは、ふさわしくない行動を最小化して、他人からの評価を求める心理が働いているからである。

購買後の正当化

サステナブルでない商品を買ったあとの消費者は、一種、罪悪感を感じて自己正当化する傾向がある。たとえばなぜフェアトレード商品を買わないのか、という問いに対して

 - 価格が高すぎる、品質が劣る、選択肢が少ない

 - 情報開示、ディストリビューション、広告がきちんとされていない

- フェアトレードのマークは単なるマーケティングのツールであり、本質的な環境問題の解決になっていない

等々の言い訳をすることがある。

ミラノのミレニアル(22〜25歳)世代への調査結果

調査のためインタビューされたミラノの若者たちはラグジュアリーファッションにとってサステナビリティは重要な成功要因だと述べ、さらには、ハイブランドこそ、この領域でリーダーシップを取るべきであり、まだまだ取り組みが十分でないと主張した。

ハイブランドの商品生産数はファストファッションに比べ限られており、サプライチェーンの管理も相対的に容易である。さらに、現地生産することで、よりよいモニターができるとされる。"Made in EU"は、開発途上国での労働者を低賃金かつ劣悪な労働条件で働かせる"スウェットショップ"を使っていないことを示すサインである。そして動物由来の材料を避けるためのイノベーションも期待されている。動物由来の材料を避ける、少なくともエシカルなソーシングを求める動きは消費者の中で広まっているものの、代替品となる合成皮はそれほど受け入れられていない。

ミレニアル世代はブランドのサステナブルな取り組みについて、十分な情報を得られないため、グリーンな先進的技術よりも、スウェットショップや汚染を広げる廃棄などの社会的規範から逸脱していないかによってのみ判断している。この点において、ブランドのサステナビリティのコミュニケーション、材料、生産プロセス、認証などにおいて、やはりサプライチェーンの管理が鍵となる。

透明性を確保するための法的な規制が十分でないため、意図的にミスリーディングを起こす企業もある。それがサステナビリティの曖昧さにつながり、消費者は懐疑的になる。また、ラグジュアリーファッションでは、合成材料が美しくないという理由でサステナブルな商品の選択肢自体が少ない。

結論

まずハイブランドが考慮すべきことは、サステナブルな取り組みを導入すれば、クラフトマンシップに基づく高品質を強調し、商品の長いライフサイクルの価値を高め、ブランドの評判を高めることに繋がると言う点である。ミレニアルは購買判断を下すときに、あえてサステナビリティに関する情報を尋ねたりはしないが、近い将来サステナビリティ、得に社会的正義が重要な要素になる可能性が高い。

"サステナブルな取り組みをしているかどうか"よりも、むしろ、"サステナビリティに反することをしていないか"が判断基準となる。つまり、ブランドは適正な労働環境で人権を守り、サプライチェーンを厳しくコントロールし、可能であれば、地元で生産を行うことが望ましい。同時にこれらのコミットメントは能動的にオフィシャルウェブサイトや教育の行き届いたショップスタッフによってきちんとコミュニケーションされるべきである。

テスラを例にしても、消費者はサステナビリティよりもむしろ、美的および快楽的要素に左右されることがわかっている。それゆえに、ブランドは、個々の消費者が社会や環境問題に対して果たすべき責任について述べるより、美的要素とサステナビリティが完璧に融合できるという点を強調するべきである。

Reference:  Sustainability in the luxury fashion supply chain: millennials' perception


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