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大山。天の導きのような道案内をして下さった旅人女性 vol.1(2019年50歳)

鳥取県の霊峰、大山。
神奈川県民としては「おおやま」と呼びたくなるが、「だいせん」である。
その中腹に、素晴らしい気に満ちた古刹「大神山神社奥の宮」が鎮座していることを、ある日私は愛読書の「風水開運旅行本」で知る。
御神体は大山で、なんでも強力な浄化をもたらし、強いカリスマ性まで授けて下さるとのことだ。

「カ…カリスマ性!?」私は瞠目した。なぜなら、ちょうどそれを“訳もなく”渇望していたからだ。
「カリスマ性欲しい!!これは授けていただくしかない!だって、どう頑張っても、自力じゃ一生ムリだから!」
ということで、新緑眩しき連休明けの5月、吉方位(西)である鳥取をひとり訪れた。

今回の旅の拠点は米子である。大山までは、バスで1時間ほど。
そのルート後半で、車窓遠くから山容を拝むことが出来るのだが、これまたド迫力の雄姿!

山と言えば、私は奈良の霊山「三輪山」が大好きで、魅力はなんと言っても「里の山のような、緑もりもりでなだらか~なお姿と、そこから放たれるなにかしらの強烈なオーラ」である。見た目穏やかなのに、そのオーラの強さたるや、なんだかとってもすごいのだ(←語彙力…)。
実際私は写真で一目惚れしたし、実際拝見しても自然と安心感とありがたさが込み上がった。

大好きな三輪山さん。なんとも麗しくありがたきお姿🥹


一方、こちらはダイナミックな圧が凄まじい。
姿は富士山に似ているが、大気にかすんで黒っぽく見えるからだろうか。「ゴゴゴゴ……!」と効果音をつけたくなるような、そびえ立つラスボス感が半端ない。
(※残念ながら写真を撮っていなかったので、公益社団法人 鳥取県観光連盟さまより画像を転載させていただきました👇誠にありがとうございます😌)

大山 美景 | とっとり旅 【公式】鳥取県観光旅行情報サイト (tottori-guide.jp)さまより
伯耆町役場からの大山さんのお姿。


随所に見られる、ナイフでザックリ切り取ったようなイカツイ山肌は、実にワイルドビューティ。そのうえ、神秘・厳格・包容力といった、深遠なオーラまで漂っていて……そう、まさにカリスマである!

「何てカッコイイ……。遠目でこんななのに、あの地に立ったらどうなっちゃうんだろう……」
徐々に迫り来る大山さんを前に、憧れを抱きながらも若干慄く私……。

しかし、実際その懐に入ってしまうと、思いのほか穏やかな空気感。
ただ、やはり清純でキリリと引き締まってはいる。

バス停より少し上ると、息をのむような景色が広がる。


そして、新緑の大自然を上り行く参道は、生気に満ち溢れていた。
あちこちで鳥が歌い、虫が自由に舞う。
のびのびと茂った原生林の木々は、仲間同士でおしゃべりしているかのように次々と風にざわめき、そのすき間から迷いなく真っすぐに差し込む太陽の光は、これから行く道の先をクッキリと白く照らし出した。


別の光の先には、チカチカきらめく細い清流。
ほとりでは、せめぎ合いながらも調和し、逞しく育つ草花たちが静かに息づいていた。

そのひたむきな営みに、思わずしゃがみ込んで耳を澄ます私……。
そんな姿にも、もれなく光は注がれた。

すれ違う人も殆どない、清々しい朝の参道。
こんなにも自由で贅沢な空間が、貸し切り状態である。
「あぁ…ありがたいなぁ……。窺い知れない色んな支えがあるからこその、今なんだよね……」
感謝と幸せが湧き上がる。

だがしかし!そんなしみじみもここまで。
本格的に歩みを進めるや否や、心身は一挙に極限状態に陥る。
「なにこれ…!し…しんどいっ!」

原因は、「日本一長い石畳(700m)」という、この「カリスマ参道」による、突然のスパルタトレーニングであった。


龍のように曲がりくねった長い上り坂は、朝から心肺機能をやりに来るし、ありがたいはずの敷石(自然石)は、その微妙なごつごつ段差で、一足ごとに大の苦手な「体幹筋トレ」を強いて来るのだ。

いや、そもそもこちとら、検査でビックリされるほどの低血圧で、朝は鬼門。
体力だって、日々、地球に優しい(?)省エネモードである。
その上、体質的に筋肉がつきにくく、筋トレをするとすぐに動悸でバクバクするのだ。
体が生命の危機を訴えて当然であった。

「く、苦しい…これはもはや修行だな。上るのに必死で無心になるし、そこまでして神様に会いたいのかを試されている気がする。……で、あと一体どの位上ればいいのよ…?」
肩でハアハア息をしながら、呆然と立ち尽くす。
心拍も血圧も急上昇、なぜか目玉が飛び出そうに痛い。

……ところが。それでもしばらく、えっちらおっちら上ったところ、ふいに全てがすっきりリフレッシュしたことに気づく。

荒ぶる呼吸で大量に吸ったフィトンチッドのおかげだろうか?
視界も開け、緑も一層キラキラと美しい。
なんだか生まれ変わったように、すがすがしく瑞々しい感覚なのである。
それは「ムチ後のアメ的多幸感」でもあり、その甘露を求め、足は立ち止まりながらも自ずと動き始めるのだった。

また、上るごとにチラ見えする、登山道や名所に繋がる脇道も、我が最強の原動力である「好奇心」をくすぐり続けた。
「どこに繋がっているんだろ。帰りにちょっと寄ってみるか!」と、分岐点に立つたび、気力が漲る。

……そう、それはまるで見えないあの手この手にグイグイ引かれ、ゴールに導かれているようであった。

やがて境内の階段途中にある、神門が見えて来た。
ゴールまであと少し。先が見えない苦しみもようやく終わりだ。

「私は、ここまでして神様に逢いに来たのだ!もうすっかりヨレヨレだけど、神様に逢えるのだ!来ましたよ!神様っっーー!!」
と、上り始めたら意外と長かった階段も、感慨無量のままに「鈍足のラストスパート」で踏破。多少ビルドアップされたであろうボディで、神様に暑苦しく想いを伝えて感謝を奉じ、思い残すことなく先ほどの階段を下り始めた。

下りている途中、再び神門に差し掛かると、左手林の奥から「ザーザー」という渓流らしき音が耳に入った。
……そう言えば、来る時に気になっていた音だ。

立ち止まって耳を澄まし、見えない音源の方向と距離を探る……。うん、どうやらすぐ目の前の分岐点から左脇道を下れば着きそう……ではある。
「じゃあ、ちょっと行ってみるか!」
待望の脇道探索に、ウッキウキで分岐点を左へ。スタート地点に立ち、行く先を見下ろした。
「おお、まさに探検だなこりゃ……」
先は、石と土がかろうじて階段状をなしている、なかなかのワイルドロードであった。……が、好奇心に突き動かされ、能天気に下っていく。

そして、わずか20秒ほど後。私は数段のところで立ち尽くしていた。
「行けると思ったけど、見た目以上に下りにくいな!この形状……」
階段状は、どういう訳かとてつもなく進みにくかった。
さっきの参道が、優しさにあふれていたと思えるくらいなのである。

見た目よりも100倍下りにくい脇道。
体を左右に振りながら、一歩一歩ドスンドスンと下りる感じ。


まあ、それでも頑張って半分ほど降りた。
でも、その先は緑ワッサワッサの「道なき道」という様相で、川に繋がっているのかも分からない。

「このまま行って川に辿り着く?仮に着いたとしても、見てよかったと思える景色?」
「それに、今の体力残量とこのペースで往復して、バスの発車時間までに間に合う?バス停までの所要時間30分を差し引くと、残り時間は実質10分程だよ!……次のバスは絶対乗り逃せないよ!だって、乗り遅れたらその後は4時間半後だもん!戻るなら今だよ!」

突如立ちはだかった火急の選択に、我が脳はフル回転した。
でも、見通しのつかないものからは、答えが出る訳も無い。
「落ち着け、落ち着け……。いや、落ち着くな!……はよ!はよ決断を!」
迫る発車時間。やみくもに焦る心。オーバーヒートする脳。そして、足は意思を持ったかのように、どちらにも進もうとしない。

……動かざること案山子かかしの如し。私は進退窮まった。



……つづく

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