姉に奄美に拉致られたのち、「持続可能観光」についての講義に感銘をうける。
あるとき、姉(あまり仲良くはない)に突然呼び出され、東京から奄美大島に飛びました。呼び出されてから奄美につくまでおよそ24時間。そして離れるまで24時間。
その奄美行きには2つの理由があり、1つは(気分的には1.9つ)大好きなあの歌手のライブに行くこと、もう1つは(気分的には0.1つ)「観光についてのありがたいお話が聞ける(姉談)」でした。
ありがたい話って何よ?
と思いながら、私の奄美行きの理由はほぼ「あの歌手」で、特に気にすることもなく詳細も聞いていませんでした。
奄美大島に着き、件のライブの開演を待っていると姉の知り合いというオジサマ、オバサマ(オネエサマ)にご紹介をいただきました。そのうちのお一方が「持続可能観光の大家」とも呼ばれる方で、次の日の講義には、私も参加させていただけるとのこと。
ひと仕切りライブを楽しませていただき、次の日の講義に備えました。
次の日、
講義を主催された事務所の方が迎えに来てくださり、ご案内いただいた事務所はそれそのものが古民家で、リノベーションも最小限に使われてらっしゃいます。そんな素敵な所で講義スタート。
その持続可能観光の講義をざっとまとめたものを書いてたらえらい長くなってしまったので、一言でまとめてしまうと、
意外と世界は正しいほうに向かっている気がする。
ということです。
何をもって正しいかといえば、地球環境に対してフレンドリーであるかというグローバルの視点、一方、それ(景観、文化等)をはぐくんだ地元に対してフレンドリーであるかというローカルの視点。その二つの視点で「正しい」ととらえられるコトやモノに世界のツーリストは注目し、実際、そのことにお金が動くようになってきているということ。
前者については、移動を伴う観光というものの功罪としてCo2等の問題があり、しかし、それゆえにその贖罪意識を満たす観光が求められているといいます。低燃費の飛行機で飛び、移動は歩きか自転車。輸送は最小限の地産地消の食べ物を食べ、プラスチックの使い捨ての消耗品ではなく、持ち込んだもの、あるいは現地で調達した現地で作られたものをリユースする。
後者については、地元の人にお金が落ち、それが地元の人たちの生活だけでなく、その地域の文化、遺産の保全に生かされるような仕組みが必要といいます。これまた地産地消の食べ物、地元のガイド、地元の人が経営し、地元の人が働く宿に泊まる。
これもまた「よそ者がそこに入っていく」という観光の功罪に対する贖罪の意識を満たす観光ということなのかもしれません。
環境問題は大なり小なり私たちの生活と切手は切れぬ問題ですし、地元への還元なくしてその観光地が観光地としての価値を保ち続けられるわけもありません。
「数字を冷静に追うと、世の中はけっこうよくなってるぜ」を示したのがFactfullnessでした。また、グーグルの検索エンジンは(小手先のテクニックではなく)「知りたい人が知りたいような情報を上に表示する」ようにどんどんアルゴリズムを改良しているといいます。
「意外と世界は正しいほうに向かっている気がする。」と思った奄美大島でした。
以下、講義のメモです。
ほぼ「取って出し」なので不正確なところは多々あるかと思いますし、さらに長いので要は読まないほうがいいと思います。
これまでの観光の潮流
この50年の間に、世界中の人々が観光をすることができるようになった。観光はもともと「楽しみを目的とした旅行」。その楽しみはまずは「珍しいものを見る」ということとされ、それをめぐる「周遊型観光」が広まっていった。ただ、そこに飽き足らない人たちも出てきて「体験型観光」も広まりつつある。
周遊型観光の時代はまた、マスツーリズムの時代であった。まずは大きな施設を作り、そこに大型の輸送手段(飛行機、バス)で大人数を送り込む。お客様は神様であり、また経済効果はその仕組を作り上げた先進国の、都会の大企業が総取りしていく。地元の環境、文化、地元住民はないがしろにされ、その対抗としてオルタナティブツーリズムが主流になりつつある。その流れは特に欧米で顕著である。
これからは観光が地元の環境、文化、住民を豊かにするものでなければならない。観光は手段になる。たとえば、観光で得たお金で観光地を整備する。登山道を整備する。ロードキルの対策をする。など。
これからは、「誰に来てもらうか」が重要。しかし、どうしても「やすさ」を売りにしてお客さんを呼んでしまいがちになる。沖縄、九州は安い観光地となってしまった。
一方、世界に目を向けれれば、世界の観光市場は20年で3倍にもなっている。「やすさ」以外の価値を認めるツーリストは確実に増えている。しかし、日本はスーパーラグジュアリー観光の後進国である。カンボジアにすらあるVIPターミナル(ファストレーンと呼べばよいか)が日本にはないことは象徴的である。
政府の統計を見ても観光は「量」に重点があったが、これからは「質」にもっと目を向けるべきである。
持続可能とはなにか?
地元民、経済、観光客、環境が満足する観光。観光指示度(住民の満足度)が高くない観光はもはや「持続可能ではない」と考える。
観光客に観光の権利はあることはたしかだが、しかし、それが住民のフラストレーションとなるケースは多い。
数の論議ではなく、少数であっても経済効果を最大化できる仕組みをどう作っていくかが重要になってきている。
旅行者、産業、環境および地域コミュニティのニーズを組んだうえで何をやっていけばいいのか。
実は、観光とはパワフルな産業であり、10人に一人が観光関係者である。特に沖縄は18%にも及ぶ。
世界では「Resposible Travelers」といったことを志向する向きも多い。
何を重視するか?
従業員の地元率はもちろんだが、労働者層を地元民が占め、マネージメント層を中央から来た人(そして数年で帰っていく)が占めるのでは意味がない。資源効率、環境保全、気候変動、フードロスなどにもと仕組まなくてはいけないし、文化的価値、多様性、遺産をどう保っていくのかも重要なイシューである。
周遊型観光とは逆の「ゆっくり理解してもらう」「1,2日だけでない旅程の設計」が、観光業者にも求められる。
その文脈で、地場産の食材を使っていることをちゃんとアピールすることも重要。「国産牛3,000円のコース」と「地元牛4,000円のコース」なら旅行者を後者を選ぶことが多いと思う。それは、ただ利益を生むだけでなく地元の生産者への貢献にもなっていく。
旅行者のサスティナビリティへの意識高揚
日本では遅れているものの、世界の旅行者はサスティナブルな意識の高まりを見せている。ある調査では旅行者の53%が「サスティナブルな旅行をしたい」と言っている。
特に、コロナ渦を経て、皆がに「エコ」、「空いてる」といったことに敏感になっているように感じる。
対応すべき意識として、「使い捨て」へのアレルギー、オフシーズンパッケージを用意すること、自分の旅行が地域に貢献するという設計、自分の払った金がどう使われているか、サスティナブルなアクティビティの提案(自転車、ハイキング)。一方、PRと現実の乖離はサスティナブルではない
残念ながら、日本人の意識は低い。
熊野古道の取り組み
地域社会における経済利益、コミュニティ、文化資源の保全と、他の観光地との差別化を両立しているのが熊野古道である。
考えのベースは「ブームよりルーツ」、「マスより個人」、「乱開発より保全」、そして開かれた「上質な観光地」。
彼らは「1,000年先も熊野古道であるために」を標榜している。ごみにならない竹の弁当箱や、あるいてめぐる旅行者のためにスーツケースを次の宿場まで運ぶ配送システムなど。
そういった取り組みが文化を保ち、経験してもらいながら、さらに満足度を高める効果を発揮している。
今後に向けてのキーワード
・観光SDG's
散水する水が飲めるのって実はおかしい。日本人が使う水は1日200リットル。飲むのはせいぜい2リットル。2リットル分、ミネラルウォーターにするほうが実はコストコンシャスだったりする。(一方でミネラルウォーターの配送コストはCo2フレンドリーでないが)
・社会経済のサスティナビリティ
経済効果をきちんと計測し、地域経済への貢献、地産地消をどうすすめていくか。地域にどうお金を落とすかも重要だし、それがどういう環境負荷を与えているのかも考えなくてはならない。eBikeははやりつつあるが、ライフタイムで見たときに電気を使うことがサスティナブルなのかは判断が難しい
・脱プラスチック
2030年までにプラスチック容器はすべてリサイクルとなる。意識高めに施策を打っていく必要がある。エコバッグは宿泊施設に備え付けしてしまう。備え付けのアメニティはなしで販売。竹製の歯ブラシなど。とにかく1回しか使わないものをなくす。
・Green Washing
一見、エココンシャスのようで実はエコでない取り組み。山の上で大量の電気を使う取り組みは果たしてエコか?さらに、「そこでやる意味」があるか。地形的、文化的な意味のないことをこじつけでやっても、それはエココンシャスとは言えない。
いまどきのお客さんが「旅立つまでの流れ」
まず、オーバーツーリズムでないところを検索し、その閑散期を調べる。
サスティナビリティの情報を検索。きちんと考えられたデスティネーション(目的地)であるか。
ex.フィンランドは国として「サスティナブルなデスティネーション」とうたう
グローバル資本ではなく、地域資本の宿、環境に優しいローインパクトの宿をオンライン検索する。
地元資本のガイド、オペレータを予約し、オーガニックや郷土料理のお店を検索する。
公共交通機関やエコモビリティで移動する。なんなら、歩くし、自転車に乗る。
ごみは自分で責任を持って処分。残すのは足跡と思い出。撮るのは写真だけ。環境対応型の日焼けどめ。
施設側が考えるべきその他のポイント
食事は人によっては死活問題になる。グルテンフリー、ベジタリアン、あるいはハラルなど、きちんと用意(案内)する必要がある。
アクティビティはどう付加価値をつけるか。たとえば、アクティビティ中の写真を撮ってあげることは、すごくかちがあることかもしれない。
あるいは 自然災害に備えているか。
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以上