【映画評】 ジャック・リヴェット『アウト・ワン 我に触れるな』に関する雑多な断片集
雑多なメモ・断片をかき集め、あるいは並べ替え、コランが紙片から断片を拾い集め、文字列のモンタージュで謎を解明しようとしたように、新たな『アウト・ワン』、つまり新しいエクリチュール(トマ)を創出すること、それが《OUT》ということだろう。そうすることで、個々人の『アウト・ワン』が出現し、複数形の『アウト・ワン』で世界は満たされる。この試みを他者と共有できれば幸いです。
以下は、
ジャック・リヴェット『アウト・ワン 我に触れるな(OUT 1 Noli me tangere)』(13時間の作品)
に関する雑多な断片集です。
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フランス語はシラブルの集積であり、それを分節化し、音素、あるいは音声へと解体する。意味からの離脱・遊離させる(2013年、京都のゲーテインスティトゥート・ヴィラ鴨川での《地点》公演、ゲオルグ・ビューヒナー『レンツLenz』を想起させる)。
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音声(音素)劇、群衆の音声(音素)劇。劇場という閉空間での音声劇は外部と繋がるのか、それとも閉鎖領域であり続けるしかないのか。劇団という閉鎖的な世界でありながら、劇団員の友人は外部の怪しげな事態へと繋がっている。
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自己から発せられる言葉は物語へと還元される。それは自己という閉ざされた物語。
だが、言葉は外部から訪れなければならない。暴力的な衝撃音も言葉の元素となりうる。叫び、呻き、それは精神を内部から外部へと転位させる。それらが不意に意味=言葉へと繋がるとき、外部の刺激は内部から、もしくはオートマティックに精神の言葉となりうる。アニミズム的な儀式のように。
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コラン(ジャン・ピエール・レオ)とフレデリック(ジュリエット・ベルト)。二人(二つ)の物語。
コラン:聾唖者のふりをしてカフェでハーモニカを演奏し日銭を稼ぐ。音と遮断された世界。「わたしは聾唖者、音の詩に1フランを」と書かれたカードを見せ、ハーモニカをふく。
メロディーではなく、単なる音素列としてのハーモニカの音。
音素列とは音の詩。これはシラブルの解体でもある。
カフェの客にカードを配る。1フランの布施をしない客には何度も音素列を呈示する。それは次第に激しく執拗に。
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聾唖者(もちろんコラン、という意味)にとって、音の強弱とは直から発せられる息の強弱、音の身体化。
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声→コランにとっての声とはハーモニカの「音」。声について→シフター。
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コランにより黒板に書かれルイス・キャロル「スナーク狩り」の断片と文字列OPPORTUNE。そしてPlace Sainte-Opportune、L’ANGLE DU HAZARDに佇むコラン。
『アウト・ワン』から半世紀経ち、web上に
〈À L’ANGLE DU HAZARD〉
〈L'Angle du Hasard... (autour de Jacques Rivette)〉
が立ちあがっている。
映画はリヴェットの意をはるかに超えて、外部(OUT)への渦巻くような螺旋運動をも生み出している。
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コランは3通の不可解で謎の手紙を受け取る。
壁に貼られた3通の手紙。
手紙の文面のとある単語にラインを入れる。それがバルザックの小説『十三人組物語』からの引用であることを発見する。言葉、あるいは表現の問題。
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フレデリック。拳銃。ゲイ(ハーネムーン)との会話。ポルノ雑誌を売るふたりの男たちとの演劇的な諍い。
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音声劇にフレームアップしたい衝動にかられる。シラブルの集積であるフランス語。それを音素へと解体し意味を離脱させる。
テクストは意味として発せられるばかりでなく、音素として発することで、コンテクストは思わぬ方向へ分節する。これがコランやフレデリックの物語へと溶解する様を検証しなければ。
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音声は言葉を生み出すだろうか、言葉は音声を生みだすだろうか。
たとえば60年代末のシュトックハウゼンの6人のヴォーカリストと6本のマイクのための『シュティムンクStimmung』(1968年)。
『アウト・ワン』と『シュティムンク』は共振しているに違いない。
Stimmungという時代の気配。たとえばサラのグループとコランのハーモニカと聾唖者を装うということ。
『シュティムンク』の「ためしてはならない」の一行に耳を傾けねばならない。
「試してはならない」は自己抑制的、禁忌的なのだが、だからこそ、自己の秘密のルートを見いだすことができる。
コランの吹くハーモニカ。音。
パリの昼と夜、人と土地と事件の密接なつながりを生みだす。
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小説の一節が書かれた紙片からコランが抽出した〈Les 13(13人)〉。
13人を、布置〈する/しない〉こと、の曖昧さ。
リリとトマ、コランとフレデリック。これを双対、つまりリリとトマは双対、コランとフレデリックは双対だとすると、〈双対の原理〉についての考察は必要だろう。
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