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まちおか・ヨリドコ見学と映画「どうすればよかったか?」から感じた在宅医療の魅力
2025年2月19日、どこかで院内通貨制度のお話を聞いて、ずっと行きたかったまちだ丘の上病院を、ようやく見学することができました😭
まちおか見学
遠かった。
車なら実家から30分ほどの場所ですが、公共交通機関を使うとなかなかアクセスが悪くて...
バス停から30分ほど歩いて到着。
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確かに東京でこのような自然あふれた場所は
とっても貴重だと感じました。
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今はどうなっているんだろう。
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立ち入れるような状況ではない..笑
地域の歴史
幕府のあった鎌倉から、武蔵の国府である府中を抜け、上州の高崎方面に続くのが「鎌倉みち」です。府中の手前にある小野路の宿は、鎌倉時代にできたと考えられているそう。
駿河の久能山に埋難した徳川家康の道骨を江戸時代に日光東照宮に移したとき、街道の整備とともに小野路の一里塚が造られたそうです。
伝承によると、御尊櫃(ごそんびつ)を乗せた典(こし)が向坂を下ったときに壊れ、一行が難渋し鍛冶屋を呼んで修理したとか。このときの小野路村の労苦に対して幕府は以後助郷(宿場の伝馬や人足が不足した際に、幕府が村に命じて人馬を提供すること)を免除したそうです。
この街道は東海道平塚宿と甲川道府中宿を結ぶ脇往環(わきおうかん)として賑わったとか。江戸中期に盛んになった大山識での道として小野路の宿は賑わい、幕末ごろ、旅籠(はたご)が6軒あったそう。旅籠とは、江戸時代に、武家や一般庶民を宿泊させた食事付きの宿屋です。これにちなんで、ヨリドコ小野路「宿」という名前がつけられたとか。
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病院説明
まず、病院についてご説明をいただきました。
まちだ丘の上病院は、東京都町田市小野路町にある78床の療養型病院です。
内科・漢方内科と、整形外科・リハビリテーション科の外来も行われています。今回こちらを詳しく見学させていただくのは時間的に厳しかったのですが、外来は(言葉を選ばなければ)ガラガラの様子でした。今度はそちらも見学できたら嬉しいです。
さらに、同じ建物の中に、定員15名の重症心身障害者施設である一二三学園が存在しています。見学前はずっと、2つは別の建物なのだと思い込んでいたので、驚きでした。
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前身である南多摩整形外科病院は、脳性麻による重症心身障害児の機能改善医療を軸に、手術やリハビリを主に行う専門病院だったそうです。人材不足で廃院が決定するも、一般社団法人地域包括ケア研究所が経営を引き継ぎ、2017年に現在の名前に改称されました。
2020年10月には訪問看護・リハビリステーションであるヨリドコが立ち上げられ、さらに2022年から訪問診療を少しずつスタートさせたそうです。
病院のビジョンは、「あなたらしい生き方」の実現です。医療が生活を支配するのではなく、あくまで生活を主体とし、そこにどんな医療の選択肢を持てるのかという発想を大切にされています。生活をベースに対象を捉え、生き方、死の迎え方の選択肢を増やし、本人にベストな選択をしてもらえるよう、心掛けていらっしゃるそう。
「お仕事クラブ」と院内通貨「マッチ」
そのビジョンを体現しているのが、「お仕事クラブ」と言う制度です。
この制度では、患者さんが何かお仕事を行い、その対価として院内通貨「マッチ」が支払われます。「マッチ」は、円に変換して買い物をすることができます。例えば、患者さんがお菓子を買って、面会に来てくれた孫に渡します。このように、「何か人の役に立って、その対価を得ることができる」という体験は、大きな喜びと生き甲斐につながります。
この制度が開始されたのはコロナ禍の2020年。面会や行事が無くなる中、それまで数々のイベントを開催してきたまちおかでは、「外とのつながりが持てないなら院内で何かできないか?」という声が上がり、この制度がつくられました。
竹からマッチは、周辺(ヨリドコの裏)の竹林から採取した竹から作られています。
法人負担で焼印を購入し、1人でつくるのは大変なので、休みの日にワークショップを開催して数を増やしたそう。今の焼印は3代目だとか。
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「お仕事クラブ」の仕事内容は色々人によって様々。自分たち(患者さん)が寝る時用のクッションを自分たちで作った時には、ビーズをばら撒いて怒られてしまったり...(笑)。それでも12、3個ものクッションが完成したそうです。
コーヒー基金(風に立つライオン基金・ジャパンハート)に参加し、千羽鶴にコーヒーをつけて、医療機関に送る取り組みを行うことで、外部からこのお仕事クラブの運営資金を調達することが出来るようにしているそうです。
さらに今後は、患者さんが稼いだ「マッチ」を、入院費用に充てられるように検討中だとか!これが実現すると、患者さんとしてはかなり嬉しいですよね。入院費用で家族にかけている負担を減らせると思うと、無力感を感じてしまいがちな病院内での生活の中で、生き甲斐を感じることが出来そうです。
午後には病棟の見学をさせていただき、実際に患者さんとお話させていただくことが出来ました。職員の皆さんの優しく明るい対応が非常に印象的で、笑顔溢れる素敵な様子を見せていただきました。
組織風土づくり
「あなたらしい生き方」を支える対象には、職員も含まれています。週4日勤務で2年契約という医師の採用制度を設け、医師本人のキャリアを優先し、働きながら興味のある領域にチャレンジできるよう工夫されているそう。
「どのような状況でどう行動すべきか、職員も当事者意識を持ち、同じように考えてほしい」という思いから、どんな業種の職員にも、医療分野以外の研修(マネジメントやプレゼンテーション、ファシファシリテーションなど、ノンテクニカルスキルの研修)が行われているとか。
さらには、組織風土づくりとして、職種ごとのヒエラルキーが生まれないよう、様々な工夫をなさっています。例えば、物理的障害を取り除くため、理事長室や院長室などの部屋を撤去したり、心理的障害を取り除くため、役職に就いている職員を役職名で(医師のことを「先生」と)呼ばないことなどが挙げられます。
「あなたらしい生き方」を目指すより良い選択のために、職員の主体性と自主性を育む教育、コミュニケーションフラットな組織風土づくりを重視されているそうです。
「何か希望を言ってごらんよ、出来るだけ叶うように積極的に動くよ」
「興味深い取り組みは全力で支援しよう」
という、型に嵌ることのない雰囲気を、
職員の方々とお話させていただく中で強く感じ、感銘を受けました。
ヨリドコ小野路宿
ヨリドコ小野路宿は、地域の人々に向けて取り組む、けんこうコミュニティ事業です。「健康」という漢字の単語は医療用語。「けんこう」とひらがなにすることで、well-beingを含めた概念を示しているのだと知りました。
「これからの社会で必要なことは、地域において、人々の暮らし方や生き方を提案し、助け合っていける仕組みづくりである」と考え、様々な取り組みが行われています。
例えば、健康的なランチを提供するキッチンとまりぎ、地域に開放された集会所、自然の中で活動できる竹林、地域の暮らしを支える訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所などが配置されています。
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カレー風味のキャロットラペと、みかん入りの白菜のお漬物、甘すぎるカボチャが私のイチオシ、
毎日食べたい.....
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竹林登るの一生懸命すぎて写真忘れた。
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「あるといいながあるところ。」という言葉がキャッチフレーズ。
「なければならないもの」は世の中にそれなりにあふれているけれど、「あって欲しいもの」は欲しがりはじめると際限がありません。それに、何かを求め続けることが人々の生活を豊かにするということでもありません。だから、「あるといいながあるところ。」くらいがちょうどいい。
様々なイベントが行われているそうで、また何かやっている時に脚を運べたらいいな。
訪問診療
訪問診療は、2023年7月ごろから本格的に始動したそう。今回は、常勤で勤務なさっている在原先生に同行させていただきました。
私自身、訪問診療の見学は久しぶりでした。
ひとりひとりの患者さんにかける時間が非常に長く、お話もとっても丁寧で驚きの連続でした。本当に学びになりましたし、「やっぱり訪問って良いな、素敵だな」と改めて感じることができました。
町田は障害を抱える方が集まる地域になっていて、重症心身障害者(児)、いわゆる「重心児」の方を訪問することも多いそう。お話を伺っていて、家族関係とその中に入り込んでいく医療との相互作用について考えさせられました。
映画 どうすればよかったか?
2025年2月21日に、映画「どうすればよかったか?」を観に行きました。
統合失調症を抱える姉を、精神科に連れて行かずに家で面倒を見ようとする医師(医学研究者)の父と母。それに違和感を抱きながら、状況を変えるのは難しかった弟(この映画の監督)が、家族の様子を記録したドキュメンタリーです。
ここからネタバレ注意かも(笑)⚠️
姉が統合失調症を発症するのは、医学部入学後の解剖期間中。だから20歳くらいですよね。
それまで優秀で勤勉だった姉の豹変に、家族は面食らいます。ある日深夜に叫んでしまい救急搬送され、後に受診した精神科では「何も問題はない」と診断されます。
父と母はそう語り、姉が病を抱えていることを否定して、家の中で一緒に暮らし続けます。
父は諦めずに国試を受けさせ続けます。
見学で学んだことの一つに、子が親を介護する場合と、親が子を介護する場合の違いがありました。
重身児の介護は親から子供に対して施されるものです。これは、普通の介護、つまり子供から親に施されるものとは毛色が違います。
子供を、「子供」と認識する年齢の間に介護し始めると、介護が子育ての延長と化します。
「いつまでも自分の手で可愛がりたい」という希望が強くなり、
さらに、小さい頃から面倒を見ていることもあって、経験と知識が豊富になります。
だから、他人を頼るという選択肢がなくなり、移行期を越えて「患者さんが50代、親が80代」と言うような関係性になっても、家族内で介護を完結させようとする傾向にあるようです。
映画「どうすればよかったか?」で登場するご家族の特殊性は、「両親が医者である」と言うこと。そのことで、より医者ではない周囲の人間が精神科に連れて行くことを勧めにくくなってしまっていました。
家族の怖さ
映画を観て、人間誰しも生かされているということを改めて認識しました。
家族の関係性の中では、お互いに「他人の人生が自分ごと化」します。お互いに生かされ合ってる関係性である限り、自分自身のことではないからと逃げることはできません。
映画のご家族の弟さんは、何度説得しても聞き入れない両親から逃げませんでした。成功はしないとしても、常に姉を思い、時間をかけて問題と向き合っていました。
家族内で、何か問題がある時、目を瞑っては後々後悔するんだろうと想像しました。
家族内で行われていることや、その関係性は、外から見えません。「一般的な家庭の姿」を知らないまま、自分の家庭で得た価値観をベースに子供は成長していきます。
社会に出て様々な他者と触れ合う中で、その認識や価値観の違いを知っていきます。
それでも、歪みを抱えた家庭内での関係や価値観は、よっぽどのことがない限り変わりません。
いつも、親になることを考えると、親が子供に与える影響があまりにも大きすぎるので、
「自分が安定していない状態で子供を育ててはならない」と感じます。
どんな家庭でも、多少の歪みは抱えていると思います。その歪みに気付きもがく中で成長するものだとも思います。
正解のない問題だからこそ、難しい。
だからこそ、外からは見えない家族の内部に入り込んでいける訪問診療は非常に魅力的だと思います。お看取り、ACPを考える上では、家族とのコミュニケーションが欠かせません。
今まで、訪問診療に同行させていただきながら、様々な家の様子を見させていただいてきました。
もちろん、家に置いてあるものから患者さんご本人の好みや生活が分かるのは、治療の上で非常に重要ですし、それに触れて会話が盛り上がるととても楽しいです。ただし、それだけではなく、家の間取りなどから、家族との関係性が見えるところが、訪問診療の最大の魅力だと感じています。
外来には持ち出せない、外来では隠せてしまう家庭の様子を目の当たりにする。
第三者である医療従事者は、それにどこまで介入すべきなのか、慎重に行動する必要があると思います。
人の幸せを追求するってどうやったらいいんだろう
映画の中で、統合失調症の姉は、自分の状況をうまく把握できておらず、特に何も主張しない(ニーズを表に出さない)状態です。
そんな姉の幸せは、どう評価したらいいんだろうか、そんな疑問が「どうすればよかったか?」というタイトルに隠されているように感じます。
姉を家に閉じ込め続けた両親。
「閉じ込め」たとマイナスな言葉を使いましたが、これは両親なりの姉に対する思いやりでした。統合失調症で社会から厳しい評価を受けるだろうと予測し、それならば理解のある自分たちと過ごせば良い、と。
治療されず、姉の症状はどんどん進行します。その頃には、親は既に娘の症状に慣れてしまっていて、「耐えきれないから預ける」という選択肢もありません。
家族として、どうすればよかったか。
医療従事者として関わる上では、どうすればよいのか。
色々と考えさせられ、モヤモヤした映画でした。
本当に観てよかった。