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映画『かそけきサンカヨウ』〜ふんわりとした激情と包み込む大人たち〜

久しぶりにのんびりと一人映画。
今泉力哉監督最新作、映画『かそけきサンカヨウ』を観てきた。

主演は、数々の今泉作品に登場してはその度に好きになり、最近はドラゴン桜への出演など躍進を続ける志田彩良ちゃん。

小説の原作があり共同脚本でもあったが、想像以上に今泉節を感じることの多い作品だった。今泉作品をよく観ている人は『mellow』寄りな感じだと思ってもらうといいかもしれない。起伏も答えも、最後までない。


水に濡れると花びらが透明になる花、サンカヨウ。
透明感と瑞々しさいっぱいに演じる彩良ちゃんが、まさにこの花そのもののようだった。

登場人物全員が、あたたかい。そして他の作品以上に強く感じたのは、全員のトーンや間や空気感が"同じ"だったということ。キャラクターとしても芝居の方法としてもピリッと異物感のある人が一人もおらず、完璧に溶け合っているというか、柔らかく調和していた。観ていてストレスを感じる人物が誰もいなかった。

ただし、ふわふわしただけの物語ではない。若者達の中には秘めた激情があり、それが穏やかな人柄の下に時折見え隠れするのがまたリアルだ。最後まで本心を明かさない人物も何人かいた。
おそらく、しばらく経ってからじわじわと思い出して考えさせられることもあるだろう。

彩良ちゃんとのハーモニーが特に素晴らしかったのが、相手役を務めた鈴鹿央士くん。
彼のデビュー時からすごい役者が出てきたな、と思っていたが、どんどん上手くなる!この2人の掛け合いがとても静かで心地よく、相性バッチリだった。2人とも素直な役者さんだと心底思う。
それらをまとめあげた今泉監督は、やはりさすがとしか言いようがない。


メインは思春期真っ只中の高校生達の、自分の夢や家族や恋愛の話ではあるが、彼らの親たちの想いもそこに静かに寄り添い、語られていく。

意外にも私が何度か心を揺さぶられ涙したのは、どれも親の想いが明かされた場面だった。感情移入する人物の世代がいつのまにか変わっていることに、自分でも少し驚いた。

『街の上で』で気になった役者さん達が出まくっているのも嬉しかった!
相変わらずカフェのマスター役の芹澤興人さんはいつもいるので安定。古着屋を訪れた彼氏役の遠藤雄斗さん、カフェのお客さん役でハスキーボイスが印象的な海沼未羽さん(外山文治監督の『茶飲友達』出演も楽しみ)は見かけることが増えてきたので今後も注目。
井浦新さんも、菊池亜希子さんも素晴らしかった。
菊池さんの「ん、なぁに」は涙が出るほど優しかった。

今日は思いのほか北風が冷たかったが、ほんわりとお腹の底が暖かくなる映画だった。

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