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父と一緒に観た忘れられない映画と想い出

10年ほど前。さむい季節に父とこたつに入り、いろいろな映画を観ていた。
父の長年の友達は洋画だった。

父はたくさんの洋画を知っている。
当時は海外の俳優さんの名前をスラスラスラスラ、一言一句間違わず、どの映画に誰がでているのか、監督の名前に、脚本家まで知っていた。
(70歳を超えた今ではわからないけれど)

クレジットを巻き戻しては、気になる俳優さんの名前をおぼえようとしていた姿が目に焼き付いている。

父は仕事から帰ると、規則正しく過ごす人だった。
ルーティンなんて言葉が、世の中で気軽に使われる前から。

仕事から帰り、お風呂に入り、ご飯を食べ、映画を一本みて、寝る。
休みの日は、朝起きて、新聞を読み、犬の散歩に行き、ご飯を食べ、映画をみる。そして、夜になる。

父は人生のたくさんの時間を映画と共に過ごしてきた。



その父が10年前のとある日、わたしに「この映画を観よう」とかけてくれた。

■グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち


作品賞を含む9部門でアカデミー賞にノミネート、2部門でオスカーに輝いた、アメリカ映画史に残る名作。ロビン・ウィリアムズ(最優秀助演男優賞)と、期待の新人として注目されたマット・デイモン、ベン・アフレック(ともに最優秀脚本賞)が共演した、心温まるヒューマン・ドラマ。全米トップレベルの大学でひときわ素晴らしい頭脳を持っていたのは、学生ではなく、苦悩の人生を送る労働者階級の天才青年だった。非行を繰り返してきたウィルの固く閉ざした心を、ロビン・ウィリアムズ演じる精神分析医が開いていく。監督は「ミルク」のガス・ヴァン・サント。ミニー・ドライヴァー、ベン・アフレック、ステラン・スカルスガルド、ケイシー・アフレックが脇を固める、 心に深く刻まれる感動の作品。

YouTubeより引用

観終わったあと、2人で黙ったまま、余韻に浸った。
2人で答え合わせや感想合戦はせずに、

ただ、ただ、寒い部屋のこたつの中で映画の余韻に浸った。

心に傷をもった主人公(マッド・デイモン)と精神分析医(ロビン・ウィリアムズ)との物語がわたしと父とのかけあいに重なってしかたなかった。

・・・・

父は基本アクション映画や頭を使う頭脳戦の伏線回収満載の映画を好んでいたように思う。本当にいちばん好きな映画は何か、その頃きいたはずなのに、さっぱり忘れてしまっている。俳優さんで誰を好きかも聞いたのに、忘れてしまっている。

なんだかぼんやりした記憶だな。

というのも、わたしが当時、様々な要因からメンタルダウンを起こしたため。
仕事は休職せざるえなく、離職するかしないか天秤にかけられた状態で、療養期間に入ることに。
日々の話相手は定年退職したばかりで家にいずっぱりの父だった。
子どもの頃から厳しく、時々お酒を飲めば人が変わったようになる父。いつも怖くてたまらなかった。
その怖い存在の父に「休職なんかして」と呆れられると思っていたのに、父は驚くほど静かに優しかった。
というのも、父の視点では「『休め』ともっと早くいってあげればよかった」と母にもらしていたそうだ。

さまざまな問題をかかえながら働きながら、通信制高校を卒業した。とくに金銭問題に心を砕きながら、必死に走り回り、奔走し、「やっと終わった」と思った安心したとき、体が動かなくなってしまった。

・・・・

父は世の中にあふれるメンタルに関する情報を、懸命に勉強してくれたことを後から知る。
「あたま(脳)が疲労しているんだ、とにかく休め」と、こたつの中で将来への不安に押しつぶされそうになるわたしに、休め、休めをくりかえした。

家族の中でも唯一、当時通っていたメンタルクリニックに付き添ってくれたのも父だった。

・・・・
  

1日1杯のインスタントコーヒーと、
父がえらんだ1本の映画が日課になった。


■ジェイソン・ボーンシリーズ


「グッド・ウィル・ハンティング」から、すっかりマッド・デイモンのファンになった父とわたしは、出演作を観てまわった。とくに2人で何度も観て感想・考察合戦しあったのは「ボーンシリーズ」

父と2人でみたのは上の3作品まで。

  • ボーン・アイデンティティー(2002年)

  • ボーン・スプレマシー(2004年)

  • ボーン・アルティメイタム(2007年)

  • ボーン・レガシー(2012年)

  • ジェイソン・ボーン(2016年)

この映画のどのシーンがイチバンいい?というと、2人で声を合わせて言う。

「ボーン・アルティメイタムのラスト」

音楽、カット割り、間合い、俳優の表情、クレジットが出てくる瞬間、すべてがそろっていて完璧。その当時で60歳を超えた父が観ていて、ワクワクすると何度も言っていた。何度みても見惚れてしまう。

心に染み入る映画の余韻とはちがう、頭の中の悩みを吹き飛ばす映画の魅力に心が揺さぶられるのは爽快だった。

ハードでアクションとスリルと伏線回収の頭脳戦が、当時60歳の父を熱く語らせた。

○70代、映画と生きて


基本、洋画が好きな父だが、古い日本映画もときどき織り交ぜて観せてくれたっけ。とくに、高倉健さん、菅原文太さんが出演していた作品を多くかけてくれる。
(「あぁ、こういう男性像にあこがれて青春を過ごしたのかぁ」と父の一面を面白がるイヤな娘。)

こうして書き綴ると、父は趣味に生きるような人になってしまうけれど、実はその逆で仕事人間だった。

家に帰っても仕事のことが頭から離れないようで、父がよく寝言で叫んでいたのをおぼえている。
現実逃避には映画の世界がもってこいで、と余計なことを考えないからスッキリするらしい。なので自然とアクション系の映画を好んで観ていたのかもしれない。

父のように生き下手な人が、よく家族を養ってくれたかと思う。

父は現在、70代にして「Netflix」と「YouTube」に時間を費やしているそうだ。
この前、実家から帰る前に久しぶりに話すと、「24時間がいくらあっても足りない」と嘆いている。現在進行形で新しい映画と映像の世界に染まって、どんどん、どんどん人生を楽しんでいる。

○映画のあとには


映画を観たあとには冗談を言っていたっけ。
たくさんの映画を一緒に観ていた休職期間。

そのあとわたしは休職から回復し、転職し、結婚し、家を離れた。
一時期、父とこじれてしまって、口もまともに聞けなくなった時期さえあったのに、今またわたしは無職になり体調を崩したことがきっかけで、父とショートメールの交流を交わしている。

父のショートメールはいつも
「体に気をつけて、夫婦2人で元気でいて下さい」
と締めくくられている。

わたしは何度も、何度も、その短いメールを読み直す。父が昔、クレジットを何度も見返していたように。一文字、一文字をたどる。
父は文字を書くのもスマホで打つのも苦手なので、これを送る為にどれだけ時間がかけて送信ボタンを押しているのだろう。

電話で話せば一瞬で終えるたった一言。
あのこたつの中で一文字、一文字、打つ姿を想像する、寒くなる季節の狭間で一緒に映画を観たひとときを思いだせずにはいられなかった。

10年前のあの頃から、わたしは成長できているだろうか。


「元気でいてください」

わたしにとって父と一緒に観た映画たちは、
不器用な父からの映画という名の手紙だ。


#おすすめ名作映画

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chimo
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