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【5分で読む】地方クラブの「経営と資本」を考える
皆さん、こんにちは。神村です。
今回は、これまであまり語ってこなかった、企業としてのクラブの在り方、すなわち「経営と資本」の関係や「地域密着」、そして「事業拡大」等について話したいと思います(多少センシティブな内容を含むので、書ける範囲は限定されますが、ご理解ください)。
皆さんが普段目にするスポーツビジネスの記事や講義では、現場のWhatやHow、特にマーケティングやイベント企画などの手法について説明されることが多いと思います。一方で、スポーツビジネスの本質を掴む上で根幹となる「経営と資本」視点のものは少ないのが実態です。読者の皆さんには、本稿を通じて学んで頂けたらと思います。
(本稿は「Off the pitch talk 」第54~56回の放送内容のまとめです。今回はインタビュー&文責:神田さん(@Twitter)でお届けします)
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#54 : https://stand.fm/episodes/603391040ec06390f7685177
#55 : https://stand.fm/episodes/60361b0c0ec063fd3b688603
#56 : https://stand.fm/episodes/6038de000ec063448568c07c
【1】クラブの経営形態と経営者への道筋
突然ですが、皆さんはJクラブにはどのような”経営形態”があるかご存じですか?大まかな区分では、
①:責任企業⇒親会社が存在し、社長や幹部社員等が出向している形態
②:オーナー企業⇒地元オーナー企業がメイン株主となり、クラブ経営を
担っている形態
③:市民クラブ⇒特定のメイン株主を持たず、多数の株主や自治体の支援が
中心となっている形態
という3つの形態があります。善し悪し・優劣の問題ではなく、クラブ設立時の母体や経緯など様々な事情の中で今に引き継がれているケースが多いように思います。一口にサッカークラブで働きたいと思っても、経営の在り方が全く違うものであることは十分に頭に入れておく必要があるでしょう。
では、もし読者の皆さんが将来的に「Jクラブ(スポーツクラブ)の社長・経営者」を目指すとしたら、どのような経験やスキル、人間性を磨けばよいのでしょうか?また、それらのスキルを磨くために、具体的に何をすれば良いかという想像はつくでしょうか?
一般企業であれば、「新入社員として入社して、徐々に課長、部長などに昇進していきながら、執行役員・取締役に抜擢され、その中でさらに業績を上げ社長に上り詰める」という出世コースが頭に浮かびます。
あるいは、社外から積極的に中途採用を行い、幹部職や取締役候補を採用する企業もあります。いずれにせよ、一般企業においては、幹部になっていくプロセスや、経営者になるための資質やロードマップなどがある程度オープンになっているといえます。(ロールモデルがたくさんある)
一方で、Jクラブをはじめとしたスポーツクラブの多くは意外に「採用門戸・情報」がオープンではありません。最近でこそ、デジタル分野をはじめとしたスペシャリスト人材を積極的に採用し始めるクラブが出てきましたが、「幹部・経営層」の採用については依然としてクローズな印象をぬぐえません。
これでは、スポーツクラブの経営者を目指す人にとって、実際に経営者になるプロセスをイメージするのは難しいでしょう。その意味で、私はスポーツクラブの幹部・経営者の採用情報がもっとオープンになったほうが良いと思っています。それによって、求められる資質やキャリア・経験が明らかになり、より優秀な人材が外部から入ることも可能になりますし、内部人材の育成・成長にもつながっていくと思うのです。
【2】地方クラブにおける資本政策の重要性
ほぼ全ての都道府県にJリーグクラブがある中で、まだまだ「地方クラブの成功モデル」は確立していないというのが個人的な正直な感想です。私自身も「正解」を持っているわけではありません。この場では、「べき論」ではなく「今、クラブは何を考えていくとよいのか=資本政策への取組み」についてお話できればと思います。
資本政策を考えるうえで、まず最初に重要になるのが、経営者がクラブの長期的なビジョンを「経営・競技」両面で示すことです。
例えば、2030年時にクラブがどのような立場になっているのか?
どのカテゴリーにいるのか、世界を目指しているのかといったようなことが競技面です。
それを実現させるための経営規模・事業構想などが経営面です。
さらに、それらを支える「資本構想・政策」について提示していくことで、計画がより現実に近づいてきます。
どんなに大きな絵を描いても、「資金」への言及がなければそれはただの絵に描いた餅です。
経済規模の小さい地方クラブにおける資本力強化は企業成長において非常に重要なテーマです。経営者は株主との関係性や、資本構成などについて常に考え、実行することが重要になります。そうとはわかっていても、必ずしも経営者自身がファイナンス面に強いとは限りません。関係者が複雑に絡み合っていて、一朝一夕で解決対処できる問題でもありません。ですから、私はできるだけ早いうちから「クラブの資本政策を検討・実行する経営チーム」の組成をしていくことをお勧めします。
一般的なスタートアップ企業でも同様ですが「資本の力」は企業成長エンジンとして非常に重要な意味を持ちます。営業力・サービス力などが劣る段階では特にです。
私は地方クラブにおける事業の拡大・成長には、外部からの資金調達が物凄く大切だと思っています。本来の理想を言えば、地元の金融機関が全面的に支援していただければよいのですが、近年の地方銀行の状況などを見ればそれが難しいのは一目瞭然です。
だとすれば、どこに活路を見出すのかが経営者の腕の見せ所になってくるのです。
Jリーグクラブの株主構成を見ると、地元企業がクラブを支えるケースが殆どです。これまでの成長において非常に重要な役割を果たしていただいたという事実は疑いのないものです。
考えないといけないのは、この延長線上に「描く未来」があるのか?ということです。
人口減少・少子高齢化に直面する地方経済にクラブの経営がおんぶにだっこになっていいはずがありませんし、それは現実的でもありません。
地方経済が衰退すればスポーツクラブもその例外ではないのです。
一方で私は、地方クラブは地方経済の発展モデルになるべき使命があると思っています。さらにJクラブ(スポーツクラブ)の知名度や社会への影響力は大きなものがありますので、ポテンシャルは非常に大きいと信じています。
「新たな株主=資本」の力がここで重要になるのです。
クラブのビジョンを県内・県外を問わず外部に発信し、積極的に新たな投資家とのコミュニケーションをとることが必要です。それを通じて、クラブの強みや弱みを分析したり、新たな事業展開を検討するのです。あたかもIR活動のようなことを実施していくのです。それが投資家の関心と共感を生み、結果的に資金調達を進めることにつながっていくのです。目先の損益(P/L) だけでなく、 企業の資産構成(B/S)を鑑みた明確な資本政策を示すことで、ビジョンが絵に描いた餅にならないのだと思っています。
【3】“地域密着”という言葉の意味
皆さんも、”地方創生”という言葉をニュース等で見聞きしたことがあると思います。人口減少をはじめ、地域再生の重要性・深刻性は年々高まっているのですが、最近この言葉がメディアに取り上げられる機会がめっきり減ってしまっているような気がします。一体、何故でしょうか?
言葉自体の陳腐化も要因かと思いますが、私は少し別の見方をしています。数年前まで、”町興し”と謳って学生のインターンシップやコンサルなどを招いて、新しいお祭り・イベント等を企画・開催していた時期がありました。しかし、それらの活動からは、なかなか新しいビジネスが生まれず、多くの場合一過性のイベントに終わってしまいました。その結果、地元企業や住民の間で「やっぱり外の人の意見に頼ってばかりではいけない。もっと地元民自身で解決策を考えよう」という空気(=内向き志向)が芽生えてしまったように思えるのです。
クラブに置き換えると、“地域密着”という言葉に反対する人は基本的にいません。経営者にとって使い勝手の良い言葉だと思います。ですが、この言葉の解釈を誤ると、事業拡大はおろか、むしろ企業の成長を阻害する壁になってしまうことがあります。
はっきりしておくべきことは、「地域密着は地域限定ではない」です。
むしろ思い切って外に出ていく勇気と覚悟、そして武器(商品、サービス、テクノロジー) を持つことが大切なのです。もし今、持っている武器が弱いなら、それらを磨く知見やスキルを持つ外部の人を積極的に招き入れる、または武器が無いなら、新たに作れる人材を雇うというアクションが必要です。地方クラブ、あるいは地方企業にとって、外部の意見を受け入れる寛容性と進取性を持つことが大切なのです。
まとめ:地方から世界へ!”外”へ出る経営
モンテディオで活躍する、ある営業マンのエピソードを紹介します。
彼は、商談の際に必ず「今、山形県は毎年1万人ずつ人口が減っています。このままでは県の総人口が100万人を切るのは避けられないと思います。
今後、山形をどうしていくべきか、一緒に考えていきませんか?そのために私たちも全力で取り組みます!!」と語るのです。
私は、これぞクラブの未来課題の本質を真正面から捉えた視点だと感じます。地元の事を本気で考え、良い方向へと変えていくには、地元企業だけでなく、クラブの経済圏を外部(県外・海外)に広げ、必要であれば外部の人材を招聘していく勇気と覚悟を持つことが大切なのです。
ローカルクラブの一つとして「経営・資本・市場」をしっかり見据え、新しいチャレンジに邁進していきたいと思います。
(文責:神田)