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【実話】クリスマスの夜に

真夏のいまに真冬の話を(以下 約1,400文字)。

いまから7年前の2017年12月23日。

この日は土曜日で天皇誕生日だったと思います。私は忙しくて出勤し、夜遅くまで仕事をしていました。ですからこの日付は覚えています。

仕事を終えての帰宅時、地下鉄を途中下車して独り通天閣の下へ。

タワーの足元に広がる新世界の街の中の小さな居酒屋でちょっと飲んで食べて、すでに時刻は22時をまわっていたと思います。

私は再び家路へとつき、地上に口を開けた地下鉄「恵美須町えびすちょう」駅入口から地下の改札へと向かって階段を降りようとしていました。

そこは通天閣の目の前。「恵美須えびす」交差点の角。駅入口の向かいは大阪府警浪速なにわ警察署。

そのとき、1人の男が私の背後から声をかけてきました。

「すみません、すみません」

私はその声を無視して地上から改札へ下る階段を1段降りようとしていました。するとさらに、

「すみません、すみません…」

仕方なく私は、

「なに?こんな時間に…」

と言いながら振り返ると、そこにいたのは私よりも少し背が低く、草臥くたびれた作業着風のカーキ色のジャンパーにヨレヨレのズボン。

頭にはこれまたクタクタの赤い野球帽。首には(マフラーがわりなのか)オレンジ色のタオルを巻いています。歳は60を少しまわったくらいの人だったでしょうか?

その男は、

「すみません。一昨日から何も食べてないんです。1,000円だけ貸してくれませんか?」

私は、

「おっちゃん、そうやって何人にも声掛けてたんか?」

「よう警察に通報されんかったなぁ」

「警察、目の前やん」

男「・・・・・(無言)」

その男は、無言のまま蹌踉よろめきながらその場から逃げるように立ち去ろうとしました。

私「ホンマに何も食べてへんの?」

私「1,000円でええの?」

男は振り返り、

「貸してもらえるんですか?」

私「貸すんちゃうで、あげるんや」

男「ありがとうございます」

私「おっちゃんな、そのかわり、ひとつだけ聞いてもええか?」

男「何ですか?」

私「(通天閣を指差して)おっちゃん、あのタワー、何て言う名前のタワーか知ってる?」

男「通天閣でっしゃろ」

私「せや。ほな、英語では何て言うの?」

男「英語?」

男「英語でも通天閣は通天閣でっしゃろ。通天閣タワーですか?」

私「せやな。ほな、あの通天閣2つあったら英語でどない言う?」

男「ツー、通天閣ですか?」

私「ツーテンカクが2つやよって、フォーテンカクやね」

おっちゃんの白い歯が見えた。前歯が1本抜けていた。

私「せや。おっちゃん、笑わなあかんで。笑っとったら、何かええことあるんやで」

私「3,000円あげるわ」

男「1,000円でいいんです」

私「おっちゃん、ええ人やな。クイズに答えてくれたから3,000円や」

男「ありがとうございます」

私「今夜は冷えてるよって、あったかいもん食べ。風邪ひいたらあかんよ。明日はクリスマスやさかい、何かエエもん食べてな」

男「(深々とお辞儀しながら)ありがとうございます」

私「おっちゃん、ちょっと早いけど、メリークリスマスやで!」

昨夜、七夕の夜…。

これと似たことを夢で見ました。

「あぁ、そういうこともあったなぁ…」

「あのおっちゃん、どうしてるかなぁ…」

ふと思い出した次第。


(2024年7月9日)

<おしまい>


©2024 九條正博(Masahiro Kujoh)
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