【読書感想】『命の救援電車』
九條正博です。
終戦間近の1945(昭和20)年3月13日。人々が寝静まった深夜から翌14日の未明にかけて、大阪市内は米軍による未曾有の規模の猛烈で執拗な空襲に襲われました。大阪大空襲です。
標高約600mの生駒山(生駒山地)を隔てた奈良市内からでも、深夜にも関わらず大阪方面の空がまるで夕焼けのように真っ赤に染まって見えたと言います。
この時、大阪市内中心部は広範囲にわたって火の海に。火焔地獄と化した地上を逃げ惑う人、人、人…
しかし、地上ではどこへ逃げても猛火が襲いかかってきます。灼熱地獄。どこにも逃げ場がない。
その時です。走るはずのない地下鉄の電車が走りました。地上で逃げ場を失った多くの人々の命を助けるために。安全な所までたくさんの命を運ぶために。
この、記録には一切残っていない奇跡の救援電車。けれども、この地下鉄の電車によって命を救われた多くの人たちの記憶には残っています。
本書は、この謎の救援電車について、大阪出身のもと新聞記者の坂夏樹さんが地道な取材と綿密な検証によってはじめてその実態を明らかにしたルポルタージュです。なぜ電車は走ったのか。なぜ記録には一切残っていないのか、残されなかったのか…。
新聞記者としての冷静な視点とあわせて、戦争の、空襲(空爆)の残酷さ、悲惨さと、人々の優しさ、心の温かさを描いた感動のストーリー。
とても読みやすい文体で、私は2日(2晩)で読了いたしました。
※さくら舎様より表紙写真の掲載の許可をいただきました。
©2022 九條正博(Masahiro Kujoh)
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