日本酒、焼酎、泡盛が無形文化遺産に登録。
2024年12月4日、南米のパラグアイで開催されたユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の政府間委員会で、わが国の伝統的酒造りが無形文化遺産に登録されることになった。これを記念して一文を記す。
麹菌を用いる日本酒、焼酎、泡盛などの酒造りは、全国各地の気候・風土に応じて、杜氏や蔵人が築いてきた手作業の技術であり、祭礼行事などわが国の文化や食生活と密接に関わってきた。
03年のユネスコ総会で、無形文化遺産の保護に関する条約(無形文化遺産保護条約)が採択され、06年に発効した。04年にわが国は世界で3番目に条約を締結し、23年現在、締約国は182カ国にのぼる。無形文化遺産の代表一覧表には611件があり、わが国からは能楽、和食、風流踊りなど22件が掲載されている(23年12月現在)。さらに現在は書道が提案されている。
全国の日本酒や焼酎などの酒蔵でつくる日本酒造組合中央会と杜氏らの伝統的な酒造り技術の保存会は、13年に日本酒とは切っても切れない和食が登録されて以降、政府と関係者に対して働きかけを続けてきた。
今回の登録を機に、海外での販路拡大や若い世代への伝統継承の取り組みに一層力が入るようだ。しかしながら、国税庁によると、日本酒の国内消費は依然として低迷している。2022年度の消費量は40万キロリットルで、1975年のピーク時の168万キロリットルから4分の1以下に減少した。
この背景には特産品や高級品に偏った生産があり、廉価で晩酌用の良品を提供できなかったことが影響しているが、人口減少や好みの多様化、新型コロナウイルスによる会食や社交の減少も要因である。
消費量を増やすには、庶民の晩酌や学生のコンパをターゲットにすることが考えられるが、幸い、海外では日本酒の人気が高まりつつある。日本酒造組合中央会のまとめによると、昨年度の輸出金額は約411億円と、過去10年間でほぼ4倍に増加した。
世界的に親しまれているワインの消費量は、日本酒の約60倍と推定されるが、ヨーロッパ周辺地域においては古くからワイン造りが行われている。代表的な産地はフランス、イタリア、スペインなどであり、世界の高級ワインも生産している。
両者はともに醸造酒であるが、それぞれ異なる文化的背景と製造技術を持つ。ワインはブドウを原料とする果実酒であり、ブドウの質がそのまま製品に影響する。日本酒は米を原料とする穀物酒で、米のデンプンを糖化させてアルコール発酵を行う。
化学的には、ワインの発酵はブドウに含まれる糖分を酵母がアルコールと二酸化炭素に変える単純なアルコール発酵である。一方、日本酒の発酵はより複雑で、麹菌(Aspergillus oryzae)がデンプンを糖に分解し、その後酵母が糖をアルコールに発酵させる二段階の過程を必要とする。この二段階の過程が特有の風味と香りを生み出す。
近年、ワインと日本酒の市場はグローバル化が進み、それぞれの国際的な認知度が高まっている。日本酒もアメリカやヨーロッパ市場での需要が増加しており、輸出が活発化している。ワイン消費大国であるこれらの地域では、次第に受け入れられつつあり、アルコール濃度の類似性からワイン愛好者が日本酒に興味を持つ機会も増えている。
またカリフォルニアのあるワイナリーでは、日本の酒造り技術を取り入れた新しいワイン作りが試みられている。ここでは麹菌を用いた発酵方法を導入し、独自の風味を持つワインを生み出すことに成功した。このような試みは、ワインと日本酒が互いに学び合い、新しい価値を創出する可能性がある。