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阪神・淡路大震災で起きた変化
阪神・淡路大震災は、20世紀後半の日本に広まりつつあった「自然災害に対する防災対策はまずまずうまく機能している」という幻想を打ち破りました。日本の防災は否応なくここで目覚め、モードが切り替わりました。そのことは、1995年以降、さまざまな領域において、発明や改善や改革が続々と生まれ、広まっていったことからも明らかです。
その領域は、被災者救助や建築に関する法律、災害や防災分野での研究やテクノロジー、対策のための製品やサービスなど、ありとあらゆる分野・階層に及んでいます。
ボランティア元年
日本では、1995年のことを意味する言葉として使われています。日本では長らく「ボランティア」は、それを趣味とするか、特別な市民が行うものというイメージが強いものでした。しかし、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災をきっかけに、それまで主としてボランティアに携わってきた人々とは異なる多くの一般の市民が災害ボランティアとして多く参加しました。そのため、同年を「ボランティア元年」と呼ぶことが多く、ボランティアへの考え方や参加の度合いが大きく変わりました。
法律における変化
まず、新しい法律が制定されました。
1つ目が被災市街地復興特別措置法です。被災地の計画的な復興を促進し、安全で快適な市街地の形成を目指すものです。災害後の混乱した状況下で、無秩序な開発や再建を防ぎ、長期的視点に立った都市計画を実現するための重要な法的枠組みとなっています。
2つ目が地震防災対策特別措置法です。この法律によって、各都道府県は計画的に地震防災対策を進めることができ、学校や病院の耐震化、避難路の整備、防災通信設備の充実など、様々な防災インフラの整備が促進されています。これらの取り組みを通じて、地震に強い安全な社会の構築を目指しています。
3つ目が建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)です。この法律の主な目的は、地震による建築物の倒壊から国民の生命、身体、財産を保護し、建築物の地震に対する安全性を向上させることです。行政と民間が協力して建築物の耐震化を進め、地震に強い安全な社会の構築を目指すことができるようになりました。
4つ目が密集市街地整備法です。密集市街地の防災機能を確保し、土地の合理的かつ健全な利用を図ることです。老朽化した木造建築物が密集し、十分な公共施設がない地域の防災性能を向上させることを目指しています。
5つ目は被災者生活再建支援法です。それまで「自然災害により個人が被害を受けた場合には、自助努力による回復が原則」という立場をとっていました。この法律の制定以降、被災者は住宅の被害状況と再建方法に応じて支援金を受け取ることができ、生活再建の一助となっています。支援金は都道府県が拠出した基金から支給され、国も一部を補助しています。
また、それまで存在していた法律の改正のきっかけにもなりました。
改正された法律の1つが、災害対策基本法です。改正により、大規模災害時の国の指揮命令系統の強化と、現場での柔軟な対応能力の向上に重点が置かれて改正されました。今後発生する可能性のある大規模災害に対して、より効果的な対策を講じることが可能になりました。
支援体制への変化
地震調査研究推進本部(地震本部)の設置
地震本部の設置目的は、地震に関する調査研究を一元的に推進し、その成果を社会に還元することで、地震防災対策の強化、特に地震による被害の軽減に貢献することです。全国地震動予測地図や各種長期評価などの成果を生み出し、防災計画、地震保険の基準料率算定、耐震対策の計画などに活用されています。今後は、一般国民だけでなく、地方公共団体や民間企業、NPOなどにとってより活用しやすい成果を提供し、防災・減災に一層貢献していくことが期待されています。
緊急消防援助隊
大規模災害や特殊災害に対応するための全国的な消防応援体制です。大規模災害発生時に全国から迅速に集結し、被災地の消防力を強化する重要な役割を果たしています。
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強震観測網(K-NET,KiK-net)整備
防災科学技術研究所により整備・運用されている観測網で、地震発生から数分以内に強震データをインターネット経由で公開しています。これにより、断層破壊過程の詳細解析や地震ハザード・被害リスク評価などの研究や実務に貢献しています。地震動の詳細な記録が可能となり、建造物の破壊メカニズムの解明や地震防災対策の向上に大きく寄与しています。
高感度地震観測網(Hi-net)整備
この観測網によって日本の地震観測能力が大幅に向上し、年間検知地震数が3万回から12万回程度に増加しました。また、深部低周波地震やスロースリップの発見など、新たな地震現象の解明にも貢献しています。緊急地震速報や震源決定、地震活動の現状把握など、防災・減災に直結する様々な用途に活用されています。
防衛庁防災業務計画(自衛隊派遣要請)
この計画によって、自衛隊は災害時における重要な支援機関として位置づけられ、被災者の救助や復旧活動に迅速に対応できるようになっています。特に、大規模な自然災害が発生した際には、その重要性が一層増すことになります。
ハイパーレスキュー
大規模災害時に迅速かつ効果的に対応するために阪神・淡路大震災をきっかけに設立された東京消防庁のエリート部隊です。高度な技術と装備を駆使し、多様な災害に対応できる能力を持つこの部隊は、日本の防災体制において重要な役割を果たしています。
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災害拠点病院
災害拠点病院は、大規模災害発生時に医療の中心的役割を果たす病院です。1995年の阪神・淡路大震災を契機に整備が進められました。被災地内の傷病者の受け入れ、地域の医療機関への医療チーム(DMAT)派遣、広域搬送への対応、災害医療の調整などを担います。災害時に通常の診療を中断し、被災者の受け入れに専念することもあります。また、自己完結型の医療提供や地域の医療機関への支援など、災害医療の要として重要な役割を担っています。
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社会への変化
災害用伝言ダイヤル
大規模災害発生時に安否確認のために利用できる声の伝言板サービスです。震度6以上の地震発生後、約30分を目標に設置されます。被災地内外の人々が安否確認を行うための重要なツールとして機能します。事前に使用方法を確認し、いざという時に備えることが大切です。
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カセットこんろ・カセットボンベの規格統一
震災以前は、カセットこんろとボンベの規格が厳密に定められておらず、メーカー間での互換性に問題がありました。被災者が避難生活中にカセット式ガスコンロを使用する際、ボンベのサイズや構成部品の違いによってトラブルが発生し、貸し借りができないケースや支援物資として届いたボンベが利用できないケースもありました。
この教訓を踏まえ、1998年2月20日に日本工業規格(JIS)の改正が行われました。具体的には、「カセットこんろ(JIS S 2147)」と「カセットこんろ用燃料容器(JIS S 2148)」の規格が改正され、ボンベの形状が一種類に統一されました。
メーカーに関係なくカセットこんろとボンベを互換的に使用できるようになり、災害時や日常生活での利便性が大幅に向上し、安全性も確保されました。
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DMAT(災害派遣医療チーム)発足
阪神・淡路大震災では、災害現場での医療体制が確立されておらず、クラッシュ症候群などへの対処法も十分に認知されていませんでした。その結果、通常の医療が提供できていれば救えたはずの命が約500名に上ったと報告されています。
そこで、DMATを発足させました。大規模災害や事故現場に急行して活動する専門的な訓練を受けた医療チームです。基本構成は医師1人、看護師2人、業務調整員1人の4人1チームで、災害発生直後の急性期(おおむね48時間以内)に現地入りし、救命・医療活動を行います。2022年4月時点で、DMAT指定の医療機関は828機関、隊員数は全国で約15,000人にのぼっています。この結果、災害時の迅速な医療対応が可能となり、被災地での救命率向上に大きく貢献しています。
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災害時帰宅支援ステーション
災害時帰宅支援ステーションは、大規模災害発生時に帰宅困難者の徒歩帰宅を支援するための施設です。具体的にはコンビニエンスストア、ファミリーレストラン、ガソリンスタンドなどが「ステーション」として、水道水の提供、トイレの使用、道路情報や災害情報の提供、一時的な休憩場所の提供などを行います。私たちの身近な店舗が災害時に重要な支援拠点となり、地域の防災力向上に貢献しています。
新たな概念
創造的復興
単に震災前の状態に戻すのではなく、21世紀の成熟社会にふさわしい新たな復興を目指すものです。この言葉は、当時の兵庫県知事であった貝原俊民によって初めて使用されたとされています。単なる物理的な再建にとどまらず、地域社会の活性化や持続可能な発展を目指す理念です。過去の経験から得た教訓をもとに、新たな価値を生み出し、未来に向けた地域づくりを進めることが求められています。この概念は、日本国内外での災害復興政策において重要な指針となっています。
(次回に続く)