リコリス・リコイルのストーリー原案者、アサウラ先生の書下ろし小説などを発信していきます。 週に一度の更新を予定していますので、お楽しみに!
リコリス・リコイルのストーリー原案を務める、アサウラ先生の書下ろし小説などを発信していきます。 週に一度の更新を予定していますので、お楽しみに!
リコリス・リコイル公式note
書き下ろし小説の第一〇弾、『A Day of No Guns』をマガジンにまとめました!
書き下ろし小説の第九弾、『フキの恩返し』をマガジンにまとめました!
書き下ろし小説の第八弾、『フキの恩返し』をマガジンにまとめました!
書き下ろし小説の第七弾、『ファントムメナス』をマガジンにまとめました!
書き下ろし小説の第六弾、『千束の銃』をマガジンにまとめました!
散開するように、三人はそれぞれにプリクラ筐体から出る。 千束はシャッターのしまっている出入り口側のスーツ、たきなは事務所へ続く扉の前に立つマッチョへ。カスミもまたたきなから離れて大きく迂回するようにしてマッチョの方へと向かった。 打ち合わせたわけではなかったが、自然とそうなった。 それは恐らく、スーツの方が腕が上だと千束もたきなも判断したせいだろう。 たきなは、千束の心配はもう辞めていた。 足周りが弱くとも、暗闇の中で戦う事になったとしても……恐らく自分より
「あの、千束……? これは?」 「ほら入って入って」 ゲームセンターの一角に複数台鎮座する、女性の顔がドでかく写る垂れ幕で覆われた謎の大型筐体。 千束はその中の一つに颯爽と入って行くのだが……たきなとカスミは思わず立ち止まってしまった。 「カスミ、これ、知ってます?」 「さぁ、何でしょうか」 情報を取得しようとしばし観察していると、どうやら証明写真を撮る要領でシールを作る機械らしい……と理解できたと同時に、たきなは思い出した。 「あ、これ、プリクラですか」
たきなが見た限り、そのサードリコリスの顔は完全に他のゲームセンターの客と同じで、今、目の前で起こった事が現実として受け入れられず、驚き、そして硬直している……というような感じである。 どう見てもあのスーツとマッチョを処理するために現場に侵入し、作戦を遂行中のリコリスには見えなかった。 「へい、彼女!」 ベンチに座っていたそのサードの左隣に、千束は声をかけつつ座った。 ……が、サードは無反応だった。 ツンと千束が彼女の肩を突く。サードが押されるようにして体を傾
たきなは、千束に頬ずりするようにして顔、そして体をも寄せる。 肩、そしてお互いの髪がそっと触れ合うも、頬同士は触れあう事はなかった。 たきなの頬が感じたのは千束の細く長い指と、スマホの硬い感触。 「もしもーし」 千束の声から数秒を経て、二人の間に挟まるスマホから聞き覚えのある声――楠木司令だ。 『……何だ? 今忙しい、後にしろ』 「こっちも結構緊急なんですけどぉー。言っちゃぁなんですけどね、楠木さん、ちゃんと仕事してます?」 『何の話だ、要点を言え』
千束はピザを大皿に載せると、小上がりの方へと持って行く。中央にちゃぶ台が再び鎮座し、それを囲むようにL字型に布団が備えられた、それ。 まさに、夜中のパーティ仕様である。 そこにカトラリーやピザカッター、皿、そしてコップ……トドメに14インチタブレットがスタンドで立たせられているという状態だった。 そこにトコトコと店の奥からクルミが大型のポテトチップを持ってやって来ると、彼女はそれをためらいなくパーティ開きにしたのだった。 「ヒューッ!! まさに喫茶リコリコ・オ
寝なきゃいい。 寝る前に食べると太る。それは問題だ。しかし空腹だ。……ならば、寝なければいい。 たきなや千束の中には存在しない発想だった。 まさにコペルニクス的転回であり、常識を打ち破る新たな、そして見事な回答と言えた。 これまでも時の刻みに人間は支配され続けてきた。 時計など想像もされなかった原始時代であっても、日は登り、沈んだ。その間――昼と夜に人々はスケジュールを組み、それに従って生きた。 当然それは、昼の明るさの利便性や夜の危険性などから必然的に
「明日、何食べようか。朝ご飯」 ……また食事の話が始まった。 しかし、予定を立てておくのは悪くない。起きたらすぐに準備に入れば無駄がないだろう。 たきなは瞼を閉じたまま付き合う事にした。 「……そうですね。普通に考えるなら、ご飯を炊いて、お味噌汁にお漬物と……納豆。あ、磯辺焼き用ですけど、いい海苔を仕入れていたので、それ、少しもらいましょうか。それと鮭を焼いて」 「いいねぇ! 日本の朝だ! 最高! ……でもなぁ」 千束の言いたい事はたきなにもわかった。朝はオーソ
「そうじゃなくて、ご飯」 「……は?」 千束が何を言い出したのかわからず、たきなは思わず振り返ってみると……彼女もまたきょとんとした顔をする。 たきなの眉間に今、皺が寄っている理由はなんぞや? とでも思っているかのようだ。 「千束」 千束がドライヤースイッチを切る。
※本作は錦木千束と井ノ上たきなのどうでもいい日常を切り取ったものです。過度な期待は大変危険ですのでおやめください。 「あー、なんか無駄に疲れたー」 カランカラン、と扉に取り付けられたカウベルが鳴る。 たきなと千束が喫茶リコリコの扉を開けたのは、丁度深夜〇時を回ったタイミングだった。 予想以上に任務が長引いてしまった。 とはいえさしてハードでもない任務である。 喫茶リコリコ営業終了より少し前に、DAからの緊急任務が入ってしまった。 それ自体は、仕事に不慣れ
可能性は十分過ぎるほどにあった。少し考えればこの事態も想定できたかもしれない。 なのに、そこまで考えが及ばなかったのは滑稽ですらある。 フキは思わず自嘲した。 ちゃんと事前に言っておけば良かったのだ。 たった一言……いや、それでもサクラは気を遣ったかもしれない。 ……遣うだろう。サクラはそういう奴だ。 なら、せめてサクラが昨日何を食べてきたのかを訊けば……いや、それも無理だ。 昨日のフキはもんじゃ焼きの訓練をして、図書館に寄った事で門限ギリギリの帰宅と
膨らんだレジ袋を手に、門限ギリギリでフキはDAの寮へと戻った。 生の食材を冷蔵庫に入れ、他の食材も食堂に連なるキッチンの片隅に置かせてもらう事にした。 そうして、翌日。 その日のフキ、そしてサクラのスケジュールとしては午前の座学、午後イチに基礎トレーニング。それ以降は自由となっていた。 フキは怪我の事もあってトレーニングは軽めにするよう言われていたので、先に上がり、もんじゃ焼きの準備に入る事にした。 事前に許可を取っていたホットプレートを、人気のなくなっ
買い物中、フキはずっと「おい」「待てよ」「なぁ」「おい」と声をかけ続けるも、千束は結局喫茶リコリコに到着するまで、無視を貫いていた。 たっだいまー! と声を上げつつ入店していく千束に、フキも恐る恐る続いていくと……店内は、暗い。 「何だ、この店、今日は何でこんな感じなんだ……」 「そりゃ今日お休みだから」 「………………じゃ、先生は?」 「いないよ?」 「いねぇのかよ!? だったら最初からそう言えよ!?」 「いるとも言ってないじゃん」 「隠すなっつってんだよ!」 「い
「じゃ、じゃあ、フキは、何でわざわざ私を呼び出したわけ?」 興味が抜け、困惑だけの表情と口調で……かつての相棒、錦木千束が言った。 「そりゃ……その……」 フキが言い淀んでいると、千束は赤いファースト・リコリスの制服のスカートを揺らして足を組み、のけぞるようにベンチの背もたれに広く両腕を乗せる。 そしてその動きの中でごく自然に、きょろりと辺りを軽く見渡した。 「っつぅかフキさんよ。おたくが単独で外に出てるの、珍しくない?」 目の良い千束の事だ、今の一瞬で周囲
『フキ、サクラ、出番だ』 楠木司令からの直接の指示が入り、装着していたヘッドセットに手を当て、春川フキは了解を伝える。 そう来るだろう、と予想していたが、案の定だ。 ふぅ、と西の夜空に浮かぶ月に吹きかけるように、一息ついた。 『サードを下がらせる。あとはお前達でケリを付けろ』 今回の任務は抹消対象が多く、八人のサード・リコリスに加え、フキと相棒であるセカンドの乙女クサラ、そして篝ヒバナ、蛇ノ目エリカ……実行役だけで合計一二人による決行だった。
弐郎の並びの時と同じように、ミズキの車の後部座席にたきな達はクラリスを真ん中にして三人で座った。 最初は助手席に座ろうと思ったが、そこには何やら少量の血や土汚れのようなものがあったので、辞めたのだ。 まるで車にはね飛ばされた人間でも運んだかのようだ……と思った時に、ボンネットのヘコみの理由も、何となくたきなにはわかった気がした。 「千束は……どこから察していたんですか?」 「え?」 走る車内で、たきなは気になっていた事を尋ねた。 「何と言うか、千束は今回、達
リコリコの硬い床に投げられ、そのまま押さえ込まれていた阿久津が、ミカの太い肩をタップする。 「おぉ、すまん」 ミカがのけると、阿久津は意外なほど軽やかに立ち上がり、スーツを軽く叩くようにして払い、上着の裾を引っ張って皺を伸ばし、最後に襟も直す。 クルミも〝フン〟と鼻息を吹いて、淹れてもらっていたココアを口にする。それでようやく心が落ち着いてきた。 自分もまだまだだな、とクルミは思う。 荒事含め、多くの人間と様々なやりとりを経てきたつもりでいたが、目の前の人