高級消費財ビジネスの売上変数とEC運営の実情
私は5年ほど外資の高級消費財ブランドの日本支社でEC運営をしていますが、この業界では自力で売上を改善する(V字回復する)ことの難しさを痛感します。
それは売上変数として"商品デザイン”と"価格"の2つがビジネスのほとんどを支配しているからです。
日用品や食品や家電などといった消費者の生活課題に対するソリューションとして購買を誘発する産業の場合は、"消費者インサイト"と言われる生活課題と商品の提供価値を結びつけて広告宣伝を行うことで売上を改善する事例はよく見ますが、高級ファッションやインテリア商品は消費者の感性に訴えかけるものなので商品のデザインで業績の浮き沈みがほぼ決定されます。
なので例えばラグジュアリーファッションブランドの場合、デザイナーが変わり商品デザインを一新してブランドが復活した事例以外売上が改善した方法を目にしたことがありません。
よってデザインが市場に受け入れられない場合、もう1つの売上変数である価格を下げブランドのステータスを安売りすることで売上を作る選択肢があるにはありますが、これは郊外のアウトレット店を除いて禁じ手とされてるブランドがほとんどだと思います。
この前提条件から、ECでのマーケティング活動も他の商品カテゴリと違って効果が出る施策も非常に限定的です。
一般的な打ち手であるインターネット広告、メールやLINEを使ったパーソナライズドCRM、レコメンド/接客ツールを駆使したUI改善、インフルエンサーによる投稿といった、買って頂けそうな顧客セグメントを推定して商品の接触頻度を上げるだけの施策はなかなか売上に直結せず費用対効果が見合いません。なぜなら、
・高額なライフスタイル商品は”デザイン感性”という定量データではセグメンテーションが難しい因子に依存しており、購入してくれるセグメントを当てることが困難なこと。
・高額なライフスタイル商品はWEBの画像や説明文を見ただけで購入に至るほど簡単に意思決定できないこと。
・SNS普及によるインフルエンサーの隆盛により、消費者がライフスタイルの参考にするのは特定の1人ではなく多数の芸能人やインフルエンサーに分散。それに伴い多数の着用ブランドから取捨選択される。つまり芸能人やインフルエンサー1人あたりの購買影響度は低くなっている。
以上からEC担当者の裁量の範囲で売上に直結させる施策として私が効果を実感できているものは以下です。また後日1つづつ詳細を説明させていただきます。
■集客 (サイト来訪者を向上):広告やインフルエンサーといったお金のかかる施策は投資回収困難。お金がかからない一般ワードでのSEOと、唯一ROASが見合うGoogleショッピング広告。よくありがちなブランドキーワードのリスティング広告やリターゲティング広告は、広告がなくても買ってくれる方を広告にくぐらせて刈り取ってるだけで、自然需要との共食いによりサイト全体で見ると純増売り上げは微々たるもの。
■売り場 (来訪者の購入率を向上):WEB接客ツールなどに頼るのではなく、ストーリーテリングコンテンツ制作でなぜ商品が高額なのかを丁寧に説得する。
■顧客維持 (再購入率を向上):データとテクノロジー(例えばマーケティングオートメーション)を使ってone to oneのレコメンドをしても買う理由付け(値引きなど)がない限り効果はでにくい。値引きなしにこちらから押し売りして買って頂けるのはブランドのファンである上顧客様のみ。そこに的を絞ってサービスと限定商品を開発する。