【貢献】有名な科学者は、どんな派手な失敗をしてきたか?失敗が失敗でなかったアインシュタインも登場:『偉大なる失敗』
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科学の進展に貢献した「偉大なる失敗」の歴史を紐解く
本書は「単なる失敗」を扱った作品ではない
「失敗は発明の母」など、「失敗」というのは「決して悪いだけのものではない」とされることも多いが、やはりその響きは決して良いものではないだろう。何か装飾語が付随しなければやはり、「失敗」という言葉にはマイナスのイメージがついてまわるはずだ。
だからこそ本書のタイトルは「”偉大なる”失敗」となっている。本書は、科学の世界で非常によく知られている「失敗」を取り上げながら、「実はその失敗が何かプラスの貢献をもたらしている」と明らかにする作品だ。
本書の冒頭には、こんなことが書かれている。
つまり、本書で扱われている失敗は、「壮大な主張だが誤りだと判明したもの」というわけだ。既存の考え方を覆したり、ある方向への考え方を抑制してしまう影響力を持ちうるような理論を提唱したが、実際にそれは間違いであることが判明するのである。
しかしそういう「失敗」だからこそ、それは単なる失敗では終わらない。主張そのものは誤りでしかないが、その科学者がそのような主張を行ったことには意味があった、というようなニュアンスで捉えていいだろう。
それはある意味では間接的な貢献とも言える。例えば、ある科学者は間違った説を生涯唱え続けたが、そのお陰で結果的に科学界での議論を活発化させ、正しい理解に結びつくことに繋がった。あるいは、ある科学者の主張に初歩的なミスを発見した人物は、「本人がそのミスに気づかない内に、自分たちの理論をまとめて発表できるようにしよう」と考え、世紀の大発見を導いたのである。
大体の失敗は「単なる失敗」で終わってしまうだろう。しかし本書で取り上げられる科学者は、歴史的にも名を残す人物ばかりであり、その功績が高く評価されているからこそ、「失敗」さえも影響力を持つことになる。本書は、科学的な知見を紹介する内容の本だが、「偉大な科学者の偉大な失敗」を知ることで、失敗を恐れずに前進する勇気をもらえる人もいるのではないかと思う。
本書で取り上げられる科学者と、彼らの「失敗」がどんな分野で起こったのかを下にまとめておこう
この中で、トップクラスに有名なのはやはりアインシュタインだろう。そして宇宙定数に関する「アインシュタインの失敗」もまた有名で科学史においては非常によく知られている。この顛末を知ると、名前が有名というだけではなく、やはりアインシュタインは科学者として別格なのだなぁと感じさせられるはずだ。
各科学者ごとに1章が割かれており、前半で「彼らがどんな偉大な功績を残したか」が、そして後半で「彼らの失敗」が語られる。それではここから、それぞれの科学者の失敗を見ていこう。
ダーウィン:進化論
本書で説明される「ダーウィンの失敗」は、少し説明しづらい。まずはざっくりと、「ダーウィンの失敗」がどのような効果をもたらしたのか書くと、
ダーウィンが自らの「失敗」に気づかなかったお陰で「進化論」という類まれな理論が生まれた
ということになる。では詳細を見ていこう。
ダーウィンの進化論の「核心」は、「自然選択」にある。「生存に有利な個体が生き残る」という「自然選択」の原理によって生命の進化が説明できる、というわけだ。ある個体に何か突然変異が起こり、それがその種全体の生存に有利なものである場合、その突然変異がしばらくして集団に浸透する。このようなメカニズムを明らかにしたのがダーウィンなのである。
この業績は当然素晴らしいものだが、しかし、ダーウィンが進化論を提唱した時代においては、ダーウィンの主張は成り立たないはずだった。何故なら、「メンデルの遺伝の法則」がまだ存在していなかったからだ。
というのも、メンデルが主張するような遺伝の仕組みでなければ、ダーウィンの「自然選択」は起こらないのである。
ダーウィンが生きていた時代に知られていたのは「融合遺伝」という仕組みだ。これは、ペンキを混ぜ合わせるようなものだとイメージすればいい。ダーウィンの時代には、遺伝を司るものは「液体」のようなものであり、それら液体が混ぜ合わさることで遺伝が起こると考えられていた。白と黒のペンキを混ぜれば灰色になるが、灰色の状態から白と黒に分離することはない。このように、一度融合してしまうと再び分かれることがない遺伝の仕組みを「融合遺伝」と呼ぶ。
そしてこの「融合遺伝」では、「自然選択」は起こらないことが分かっている。
「自然選択」が起こるのは、トランプをシャッフルするような仕組みである「メンデルの遺伝の法則」だ。トランプはどれだけ混ぜ合わせても、トランプ同士が融合して分離できない状態にはならない。同じように、遺伝を司る、「液体」ではないなんらかの物質(メンデルの時代には「DNA」の存在は知られていなかった)が、トランプをシャッフルするようにして混ざり合い遺伝が起こる、と考えるのがメンデルの遺伝の法則である。
そしてこのメンデルの遺伝の仕組みであれば「自然選択」が起こるというわけだ。
つまりダーウィンは、「進化の核心は自然選択である」という革命的な主張を行ったのだが、ダーウィンが生きていた当時の遺伝に関する常識に照らせば、この主張は誤りだったということになるのである。
しかしダーウィンは、「融合遺伝では自然選択は起こらない」ということに気づかなかった。このことを本書では「失敗」と呼んでいる。しかしそのお陰で、「進化論」という見事な理論が生まれることになった、というわけだ。
著者は進化論についてこんな風に書いている。
まさにその通りだろう。これもまた、天才性が為せる業だろうか。
ケルヴィン:地球の年齢
ケルヴィンも非常に有名な科学者である。科学では「絶対温度」を示す「K」という単位を非常によく目にするが、これはケルヴィンの名前から取られている。本書にも、ケルヴィンは伝記作家が絶賛するほどの偉大な成果を数々生み出し、人格的にも優れていたと書かれている。
しかし残念ながら、
と言われてしまうようになる。一体どんなミスをしたというのだろうか?
ケルヴィン最大の失敗は、「地球の年齢の推定」に関係している。ケルヴィンは科学的な知見を総動員して緻密な計算を行い、地球の年齢の推定値を算出したのだ。
彼が導き出した結論は、「約1億歳」である。つまり地球が誕生してから1億年しか経っていないと推定したのだ。現在では46億年と知られているので、大間違いも良いところだろう。
何故これほどまでに盛大な間違いを犯してしまったのか。その理由は、「地球の熱伝導が一様だと仮定したこと」にある。
現在では、「地球内部のマントルが対流している」ことが知られている。大陸移動説(プレートテクトニクス理論)という、「大陸は少しずつ移動している」という話を聞いたことがある人もいるだろうが、これも「マントルの対流」によって起こっているのだ。
そしてケルヴィンの時代にも、「マントルが対流しているとすれば、地球の熱伝導が一様にはならない」と理解されていた。ケルヴィンの弟子は何度もそのことを指摘したそうだが、ケルヴィンは聞き入れなかったという。
というのも当時は、マントルが対流していることを示す証拠は存在しなかったのである。教え子も確信があったわけではなく、可能性を指摘しただけに過ぎない。そこでケルヴィンは、マントルは対流していない、だから熱伝導は一様だ、と考え地球の年齢を推定したのだ。
ケルヴィンの推定は、当時の地質学者などから批判されてしまう。ダーウィンも、「自然選択によって生物が進化したとするなら1億年は短い」と批判したそうだ。ケルヴィンのこの研究は、結果として彼の晩節を汚すことになってしまった。
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