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【貢献】飛行機を「安全な乗り物」に決定づけたMr.トルネードこと天才気象学者・藤田哲也の生涯:『Mr.トルネード』(佐々木健一)

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日本では知られていないMr.トルネードこと藤田哲也がいたお陰で、我々は安全に飛行機に乗れる

日本では知られていない「藤田哲也」をNHKが追う

本書を読むまで、私も藤田哲也の存在は知らなかった。そのことは、アメリカ人からすれば異常だと感じられるようだ。

「ショックです。日本で彼の存在があまり知られていないなんて……。異常な感じさえします」
アメリカ人の口から発せられたその言葉を思い返していた。

冒頭に書かれているこの文章は、本書を読み進めるにつれて徐々に実感できるようになっていった。何故なら、私たちが当たり前のように飛行機に乗れるのは、彼のお陰だからだ。

そして皆、彼の偉業について口をそろえた。
「何百人もの命を救った。……世界中で!」
「彼は、世の中をより安全にした。飛行機に乗ることをずっと安全にした」

本書に登場するパイロットは、こう断言する。

藤田博士は、間違いなく航空安全において、単独で最も貢献した人です。本当に、言葉では言い尽くせないほどの存在です

これだけは言っておきたいのですが、藤田博士の存在がなければ、ここまで来ることは不可能だったということです。重要なのは、博士が時代の先を行く存在だった点です

ただし彼は、飛行機の設計などで活躍した人物ではない。専門は、気象学だ。そして、その存在すら疑われていた「ある気象現象」を予測・発見し、対策を促したことで、彼は飛行機の安全性を飛躍的に高める貢献を成したのだ。

気象庁の元職員は、こんな風に語っている。

気象学という人間生活に最も関係がある地球科学分野に、ノーベル賞が存在しないことは非常に残念ですね。もしあれば、藤田先生は間違いなく受賞していたと言われています。世界中で認められていますからね

2021年のノーベル物理学賞に、真鍋淑郎氏が選ばれたことが大いに話題になった。もちろんこれは、真鍋氏の功績が多大であったことも関係しているわけだが、さらに「地球科学分野初のノーベル物理学賞受賞」という点でも大いに注目を集めたのである。もし藤田哲也が今もなお存命であれば、ノーベル物理学賞の受賞は間違いないはずだ。

本書はNHKのディレクターが執筆した作品である。NHKのドキュメンタリーシリーズ『ブレイブ 勇敢なる者』の第1弾として『Mr.トルネード 気象学で世界を救った男』を放送した。その取材を担当したのが著者であり、放送には盛り込めなかった情報を含めて書籍化したのが本書である。

著者が藤田哲也を取り上げたのは、「人間・藤田哲也」が伝わる評伝が存在しなかったことが大きい。これまでも何らかの形で藤田が紹介される機会はあったのだが、それらはほぼすべて、彼自身が自費出版した本をベースに構成されていた。藤田は研究に関してであればいくらでも話をするが、自身についてはほとんど語らなかったそうだ。というか、誰もが口を揃えて証言するように「朝から晩までずっと研究していた」ようなので、研究以外には何も語ることがない、という認識だったのかもしれない。

著者は、藤田の人間像を知るべく、アメリカでの取材を敢行する。関係者はアメリカ全土に散らばっており、その取材は難航したそうだが、その取材によって、「人間・藤田哲也」が浮かび上がることとなったのである。

藤田哲也がいなかったら、飛行機なんか怖くて乗れた代物じゃない

藤田哲也の貢献を理解するためには、少し前の飛行機がどれほど危険な乗り物だったかを伝えるのが良いだろう。本書に分かりやすくまとまっているので抜き出してみる。

今、世界の空では、一日に五〇万便もの航空機が飛んでいるという。飛行機に乗り、無事、安全に、行きたい場所へ行き、会いたい人に会える。そんな空の旅が当たり前の世界を、私たちは生きている。
しかし、たった三〇年前までは、世界の空は死の不安と隣合わせだった。
十八ヶ月に一度の割合で一〇〇名を超す人々が離着陸時に突然、上空から地面へと叩きつけられ、一瞬にして命を失う”謎の墜落事故”が頻発していたのだ。
その悲劇の連鎖を食い止めた男へ、パイロットたちは今も惜しみない賛辞をおくる。
「不可解な航空機事故の謎を暴いた。数多くある人類の危機の一つを取りのぞいた人」
死の不安が覆う世界の空を、一人の男が「気象学」によって変えた。
それが、シカゴ大学教授、藤田・テッド(セオドア)・哲也(一九二〇-一九九八)だ

かつて「飛行機」は、「ほぼ間違いなく死に至る事故が、1年半に1度の割合で起こる乗り物」だった、というわけだ。そんなものに乗りたいと考える人は少ないだろう。

その状況を、藤田哲也が一変させたというわけだ。確かに、人類に計り知れない恩恵をもたらした人物だと言っていいだろう。

藤田がその安全性を飛躍的に高めることになった「飛行機」は、現在なんと自動車よりも安全だ。アメリカにおけるデータだが、自動車で死亡事故に遭遇する確率が0.03%なのに対して、飛行機で死亡事故に遭遇する確率はなんと0.0009%だという。もちろんこれは、航空機会社の努力によるところも大きいだろうが、やはり、「謎の墜落事故」の原因を究明した藤田哲也がいなければ成し遂げられなかっただろう。

しかし、藤田の発見は当初猛反発を食らってしまうのである。

竜巻研究で「Mr.トルネード」と称賛された藤田哲也が大バッシングを受けた「ダウンバースト」

藤田哲也は、「謎の墜落事故」の原因を”予想”して発表した際、既に確固たる地位を築くスーパー研究者として知られていた。

32歳でアメリカへ渡った藤田哲也は、わずか十数年の内に竜巻研究の第一人者となり、気象学の常識を次々と塗りかえ、一目置かれる存在となった。

しかしそんな藤田が50代半ばで発表した新説が波紋を呼ぶこととなる。それは、確固たる立場にいる研究者に向けられたものとは思えないほど苛烈な反応で、

あの論争は、藤田先生にとっても忘れられないようで、『嘘つき』だとか『フジタはホラふいてる』とか、そこまで言われたと仰っていましたから

というような凄まじいものだったそうだ。

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