【誤解】世界的大ベストセラー『ファクトフルネス』の要約。我々はデータも世界も正しく捉えられない
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我々がいかに世界を「悪く」誤解しているのかを明らかにする世界的大ベストセラー
世界中で売れており、日本でも既に100万部を超えるベストセラーなので、今更私が紹介する必要もない本だろうとは思う。しかし、ベストセラーだからと言ってすべての本が良書というわけではない。さらに、書店員を長く経験した私の印象としては、良書なのにベストセラーになれない本も多数存在する。
本書は、ベストセラーであり良書でもあるというなかなか稀有な1冊であり、多くの人が読むべき本だと思う。「知る」だけで世界を変えられるなんてことはほとんどない。しかし本書は、「人類は様々な思い込みを持っている。しかもそれらは、世界を実際以上に『悪く』捉えるものだ。そういう認識を止めれば、世界を変えられる」と説く作品であり、珍しく、より多くの人が「知る」だけで世界を変え得る知識だと言えるのだ。
そういう意味でも、本書が世界的なベストセラーになったことは非常に喜ばしいことだと言えるだろう。
13の質問と、その質問が明らかにする「誤解」
本書の冒頭に、世界の現状に関する13の質問が載っている。この質問にはネット上で回答することも可能だ(質問数は違うが)。興味がある方は、以下のリンクから飛んで確かめてほしい。
まずは私の結果から書こう。本書冒頭にある13の質問の内、最初の12個はすべて不正解、最後の質問だけ正解する、という結果だった。
実は、世界中の人を対象に行った調査で、ほぼすべての人が私と同じような結果だったことが分かっている。2017年に、14ヶ国12000人に対して行われたオンライン調査では、最後の質問の正答率だけ突出して高く、最初の12個はほぼ不正解だった。私と同じように12問すべて不正解だったのは全体の15%、全体の平均正答数は12問中2問に過ぎなかったという。
この正答率が異常に低いことを理解してもらうために、チンパンジーに登場してもらおう。それぞれの設問は3択であり、チンパンジーが適当に答えても確率的に33%は正答するはずだ。実際、バナナをご褒美にチンパンジーにも回答してもらったことがあり、33%に近い正答率になったという。
一方、12問中2問という人間の正答率は16.7%だ。つまり、チンパンジーに負けているというわけである。
この結果に対して、こんな風に勘ぐる人もいるだろう。世界中で行われているということは、知能の低い人も含めて調査されているはずだ。であれば、知能が高い人に限れば違う結果が出るのではないか、と。
しかしもちろんこの点についても調べられており、知能が高い人に限っても結果は変わらないことが分かっている。学歴が高い人や国際問題に関心がある人でも全体の平均とさほど変わらない結果であり、中には、一般人の正答率を下回る成績を出した医療関係者やノーベル賞受賞者もいたという。つまり、頭の良し悪しや関心の度合いの差ではない、ということだ。
この13の質問は、特定の機関が秘密裏に保管しているデータなどもちろん一切使っておらず、誰でもネットで確認できる公開情報しか使われていない。そういう意味で、すべての人が同じ土俵に立っているのであり、どんな立場の人にも関係する話なのである。
この13の質問こそが著者のスタート地点だった。著者は、まずは学生に、それから様々な機会を見つけては経営者や国のトップに同じ質問を投げかけ、その答えがことごとく間違っていることに気づくことになったのだ。ここから著者の奮闘が始まることとなる。
13の質問が明らかにした、「世界を実際よりも悪く捉えてしまう」という問題
13の質問内容は「世界の飢餓・医療・貧富の差などがどのような状況にあるか」を問うものだ。そして、最後の質問以外の12問すべてに不正解した私は、自分が世界を以下のように捉えていることを認識することとなった。
どうだろう、あなたも同じように考えてはいないだろうか? 確かに、報道やネットニュースなどで伝えられる情報を様々に繋ぎ合わせると、このような世界像が立ち上がってくるような気がしてしまう。
著者はこのような世界の捉え方を「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼ぶ。そして、このように「実際以上に世界を悪く捉えてしまう」ことによって、様々な弊害が起こっているのではないかと本書は指摘するのだ。
ではそもそも、どうして我々はこのように世界を見てしまうのだろうか?
著者は当初、「知識のアップデート不足」が原因だと考えていた。子どもの頃に、学校で知識を学ぶ。その知識が大人になってからも更新されないまま残り続けるが故に、世界を悪いまま捉えてしまっているのではないか、と。
しかし著者は、確かにそういう側面もゼロではないが、本質的な問題ではないということに徐々に気付いていく。そして最終的に著者は、「これは、人類の脳の問題なのだ」という結論にたどり着くのである。
つまり、「自分を取り巻く環境を悪く見積もっておくこと」は、人類にとって必要な能力だったというわけだ。確かに、太古の昔から人類の脳がそのような判断をしているのであれば説明はつくだろう。
そしてこのことを理解した著者はその後、この「ドラマチックすぎる世界の見方」と闘っていくことになる。しかしその話の前にまず、このような世界の見方が実際にどのようなマイナスを生んでいるのかについて触れておこう。
例えば本書では、「生理用ナプキン」の話が登場する。需要と供給の不一致の話だ。
本書では、レベル1からレベル4までの世界の貧困レベルの区分が紹介される。大雑把に言えば、レベル1は「最貧困層」であり、レベル2以降は「日常的に必要なものはある程度手に入る」という水準だ。レベル4でさえ「1日32ドル以上の生活」という程度であり、発展途上国の人々でもこのレベル4の水準に入る人はいるだろう。
さてここで生理用ナプキンが出てくる。レベル1の人は残念ながら生理用ナプキンにお金を掛ける余裕はないのだが、レベル2以降であれば充分可能なのだ。そしてここ数十年でレベル1からレベル2~3に脱することができた人は膨大な数に上る。
つまり、レベル2~3の人たちからの生理用ナプキンの潜在的な需要は莫大なのだ。
しかし世の中にはレベル4向けの生理用ナプキンしかない。レベル2~3の人たちが買いやすいと感じる生理用ナプキンがそもそも存在しないのだ。
何故存在しないのか。それは生理用品メーカーが「レベル1~3の生活水準」を大差ないものと捉えているからだ。レベル3までの人はどうせ生理用ナプキンを買えないだろうという思い込みから、レベル4の人にばかり生理用ナプキンを売ろうとする。
しかし本書によると、レベル4の生活をしている人が10億人なのに対して、レベル2~3の合計で50億人いるそうだ。レベル2~3の人たちを視野に入れるだけで、市場が5倍に広がるのである。
これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます
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