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【貢献】社会問題を解決する2人の「社会起業家」の生き方。「豊かさ」「生きがい」に必要なものは?:『世界を変えるオシゴト』

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「お金」ではない尺度で人生を豊かにする「社会起業家」という生き方に惹かれる人は多いのでは?

「世界を変える100人の社会起業家」にも選ばれた彼女たちのビジネスとは?

本書の著者であるマリー・ソーとキャロル・チャウの2人は、ビジネスによって社会問題を解決する社会起業家です。まずは、そんな彼女たちが生み出したビジネスの紹介をしていきましょう。

2人が立ち上げた「SHOKAY(ショーケイ)」というブランドでは、「ヤクの毛」を使ったファッションアイテムを制作・販売しています。それまで「ヤクの毛」という素材はファッションの世界ではあまり注目されたことがなく、そういう点でも注目されるブランドだそうです。

http://shokay.jp/

しかしより重要なことは、このブランドが社会問題を解決するということです。どういうことでしょうか?

まず、素材となるヤクの毛は、ヤクを放牧させて育てているチベット人から仕入れています。また、縫製を担うのは、崇明島という上海沖にある中国で3番目に大きい島の女性たちです。どちらも、貧困の問題に苦しんでいました。特に崇明島の女性たちは、驚異的な編み物の才能を持つにも拘わらず、それに見合ったお金を手にすることが出来ないでいたのです。

そこで彼女たちはまず、チベット人からヤクの毛を仕入れ、崇明島の女性たちに縫製を託すことで現金収入をもたらしました。そしてさらに、そうやって生み出された質が高くオシャレな製品を、その背景にあるストーリーと共に売り出すことで高い付加価値をつけることに成功します。今では「フェアトレード」という言葉が一般的になりつつあると思いますが、可能な限り安く仕入れて安く売るのではなく、適切な値段で仕入れて適切な値段で売るという形でビジネスがきちんと回っていくようにしているのです。

彼女たちは、地理的に大きく離れたチベットと崇明島を結びつけました。そこに住む人たち自身の努力だけではなかなか関われなかったでしょう。そして、まさに「Win-Winの関係」を生み出したというわけです。

ちょっと脱線しますが、彼女たちの話から、以前読んだ『詩羽のいる街』(山本弘)という本のことを思い出しました。

この物語には詩羽という女の子が登場するのですが、彼女は家もお金も持たずに生活をしています。別にパパ活をしているみたいなことではありません。ではどうやって生活を成り立たせているのでしょうか?

彼女は、「状況と状況のマッチング」を行って生活しているのです。

詩羽が住む街に例えば、ある問題を抱える人(Aさん)が住んでいるとしましょう。その問題は「X」というモノが手に入れば解決するのですが、Aさんは「X」を入手する手段を持っていません。一方、同じ街に住む人(Bさん)が、「X」の処分に困っているとします。AさんとBさんは面識がなく、お互いの受給のバランスが合致していることを知りません。

そこで詩羽の登場です。彼女は街のあらゆる情報にアンテナを張り、誰の状況と誰の状況をマッチングさせればWin-Winになれるのかを常に考えています。そして、そのマッチングの報酬として、お金ではなく寝床や食事を提供してもらう、というスタイルで彼女は生活をしているわけです。

本書の著者2人のビジネスは、まさにこの『詩羽のいる街』の規模を大きくしたような話でしょう。私の知らないところでこのような”マッチング”は様々なところで行われているのだろうと思います。

彼女たちが「社会問題を解決するためのブランド」を立ち上げるまでの経緯

それでは、彼女たちが「SHOKAY」の立ち上げに至るまでの流れについて書いていきましょう。

2人とも子どもの頃から、困っている人を見ると放っておけないとか、高校生の頃に奇抜なアイデアで震災募金を集めるなど、利他的に行動する素質のある人だったようです。ただどちらも、世界の貧困問題について知識も興味も持っていなかったといいます。

関心を持つようになったのは、ハーバード大学ケネディスクールでのことでした。2人はここで出会います。ハーバード大学でその名がよく知られているのは「ビジネススクール」の方でしょう。こちらは経営者やビジネスマンの育成を目的としています。一方の「ケネディスクール」は、NPO・NGOで社会問題の解決ができる人材の育成を目的としているというわけです。

ケネディスクールは、入学の必須条件に「一般企業での実務経験」が含まれていることもあり、そもそも学生の年齢層が高いといいます。そんな環境で彼女たちは、最年少と言える存在でした。そんなこともあってお互いのことを認識するようになり、さらに同じ志を抱いていると分かったことで、仲良くなっていきます。

彼女たちに共通していた志というのは、

金持ちになるより、社会問題を解決して生きがいを感じたい

です。ケネディスクールに入学するぐらいだから、そもそもそこにいる学生は皆それに近い気持ちを持っているのでしょうが、彼女たちはその感覚がかなり合ったということでしょう。例えばキャロルは、ペルーでボランティアをした際の経験を踏まえて、こんな風に書いています。

高額な給料をもらい、毎晩豪華なレストランで美味しいディナーを食べられる生活より、たとえペルーの山奥で質素な夕食しか食べられなかったとしても、困っている人たちに喜んでもらえる仕事がしたい。そのほうが、私にとって何倍も意味あることだと確信したのです

後で触れますが、私もこのような感覚はとてもよく理解できます。自分の生活がそれなりに成り立ってさえいれば、それ以上の何かを強く望む気持ちがほとんどありません。私の場合は彼女たちのように実践するのはなかなか難しいのですが、感覚としてはとてもよく理解できます。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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