見出し画像

【幻惑】映画『フォロウィング』の衝撃。初監督作から天才だよ、クリストファー・ノーラン

完全版はこちらからご覧いただけます

クリストファー・ノーラン初監督映画『フォロウィング』は、圧倒されるほどの凄まじさと魅惑、そして企みに満ちた物語だった

とんでもない物語だった。これが最初に撮った映画だというのだから、クリストファー・ノーランはやはり別格の映画監督だなと思う。予算や役者などあらゆる要素に制約があっただろう条件下で、「脚本の面白さ」を突出させることによって類まれな傑作に仕上げた手腕に驚かされてしまった。

「『何が謎なのか』さえ分からない」という、凄まじい「分からなさ」

本作『フォロウィング』を観ながら私は、途中までずっと「ストーリーがまったく分からない」と感じており、まずそのことに驚かされてしまった。

さて、ここで言う「分からない」については、少し説明が必要だろう。

例えば一般的なミステリ作品の場合、「提示された謎自体は把握できたが、どう解決されるのかが理解できない」という状態であることが多いだろう。「謎」は分かるが、「解決」が分からないというわけだ。

しかし本作『フォロウィング』は違う。そもそもだが、「『何が謎なのか』さえ分からない」という感じだったのだ。いや、実はこれも正しい表現ではない。というのも、私は本作がどのようなジャンルの作品なのかを知らずに観たので、「そもそも『謎が存在するのかどうか』さえ分からない」という状態だったのだ。

つまり、しばらくの間ずっと、「何を描こうとしているのか」がまるで理解できなかったのである。

本作の上映時間は70分だそうだ。だとすると私の体感的には、冒頭から50分間ぐらいはそのような「訳の分からない状態」が継続したように思う。もちろん、「各シーンで何が描かれているか」については把握できていたつもりだ。しかし本作は、時系列がとにかく凄まじくグチャグチャになっているので、シーン毎の状況が把握できても、全体像を捉えきれないのである。

しかも、これは私の記憶力の問題なのか、あるいは意図的な演出だったのか判断できないのだが、私は「ある登場人物」の認識がどうも上手く出来ておらず、そのせいで物語を捉えるのがさらに難しかったのだ。そしてそのような状態で50分間観続けたのである。正直、配信で観ていたら途中で消していたかもしれない。そう、「そういう判断が存在し得ない」という意味でも、私は映画館で映画を観るのが好きなのである。

ある瞬間に、物語の全体像が一気に理解できた驚き

さて、凄いのはここからだ。世の中にはきっと、「最初から最後まで訳が分からなかった」みたいな物語もそれなりにはあるだろう。しかし本作はそうではない。「冒頭から50分間ぐらい、何を描こうとしているのかさっぱり理解できなかった」にも拘らず、ある場面で唐突に、「なるほど、そういうことか!」と一気に理解できたのである。

これには本当に驚かされた。その直前まで、「描かれてきた様々な断片がどう繋がって1つの物語になるのか」がまったく分かっていなかったのだ。しかしある瞬間に一気に晴れ渡り、物語全体を貫く1本の線が見えてきたのである。なかなかこんな経験をすることはないし、クリストファー・ノーランの脚本がとても緻密だったということなのだろうと思う。

しかし、「物語全体を貫く1本の線」を捉えられはしたたものの、細部に渡る検証が出来ているとは言えないだろう。先述した通り、時系列がかなりグチャグチャに入れ替えられているので、「作中で描かれるすべての要素を時系列で並べるとどのような見え方になるのか」みたいに理解することは難しい。実はどこかに、大きな齟齬があったりする可能性もあるだろう。しかしそれでも、本作における「核心的な部分」は正しく捉えられていると思う。

そんなわけで私の印象では、「『謎』と『解決』がほぼ同時に現れた」という感じだった。それまで「謎」さえ捉えられなかったにも拘らず、その「謎」が理解できたと同時に「解決」も提示されたという感じだったのだ。同じような感覚をもたらす作品はちょっと思いつけないぐらい、実に奇妙な鑑賞体験だった。

さて、この点に触れると若干ネタバレになってしまうかもしれないが、あまりにも複雑な物語であり、初見では混乱すると思うので、鑑賞の補助になることを期待して書いてしまおう。実は、「謎」と同時に理解できる「解決」はフェイクなのである。この構成もとても上手かったなと思う。そして、その「フェイクの解決」以降は、「この物語は一体どう閉じるのだろうか?」という興味で観ていたのだが、「まさかそんな着地になるとは」という展開になっていくのである。最後の最後まで脚本の力に圧倒されてしまった。

先ほども書いた通り、細部を含めた全体像については把握できていない。恐らくだが、精緻に検証すれば、物語のどこかに矛盾があったりするんじゃないかとも思う。しかしそうだとしても、本作の面白さが失われるわけではない。本作はとにかく、「『何が描かれているのか分からない』という状態でも観客を惹きつける力が強い」「複雑な物語なのに、観客をギリギリ置き去りにしない構成になっている」という点が実に見事で、最後までまったく飽きずに観れてしまった。

「ほぼ脚本のみ」という制約の下で生まれた傑作

さて、冒頭で触れた通り、本作はクリストファー・ノーランの初監督作品だ。公式HPには次のように書かれている。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

ここから先は

2,035字

¥ 100

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?