【衝撃】卯月妙子『人間仮免中』、とんでもないコミックエッセイだわ。統合失調症との壮絶な闘いの日々
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ちょっととんでもないコミックエッセイを読んだ。「生きること」にこれほど困難を抱き、奮闘する人がいるとは
私は普段、コミックエッセイをそんなに読まないので、他と比較することが難しいのですが、著者の実体験が描かれるこのコミックエッセイは、なかなか他に類を見ない存在感を放っていると感じました。
著者の異常な経歴と、本書のざっとした設定
内容に触れる前に、本書に掲載されている著者の略歴をそのまま引用してみることにしましょう。
この略歴を読んで、本書に興味を失う人もいるんじゃないかと思います。ちょっとさすがに、こんな人の話は読めないぞ、と。一方で私のように、この略歴のお陰で興味を持ったという方もいると思います。そして本書は、そういう人が読むべき本でしょう。前者のような方は、無理して本書を読む必要はないと思います。
それでは、非常にざっくりとですが、本書の設定だけ紹介していきましょう。前後半で大きく2つに分かれます。
前半は、統合失調症と闘いながら舞台女優として活動する著者・卯月妙子が、25歳年上の「ボビー」と出会い、交際を始めるという話です。「ボビー」と呼ばれていますがれっきとした日本人で、その出会いのきっかけから、なかなか変わった関係性までを描いています。前半はまだ、「ちょっと変わった人のちょっと変わった日常を描くエッセイ」ぐらいの感じです。
しかし後半でそのトーンが一気に変わります。なんと著者は突発的に自殺を図り、奇跡的に生還するも、顔面がぐちゃぐちゃになってしまうのです。そうなって以降の、著者の生活や葛藤、周囲の人との関わりなどが描かれます。
ボビーの凄まじい存在感
先程書いた通り、前半は著者とボビーの関わりがメインで描かれていきます。
著者はとにかく、ボビーのことが大好きで、ずっと一緒にいたいと思っています。そのことが言動の端々から分かるし、当然ボビーもそれを理解しているわけです。
一方でボビーは、もちろん著者のことが好きですが、躊躇もあります。自分が25歳も年上であるということも気になるし、美しい彼女にはもっと付き合うのに相応しい人がいるんじゃないかとも感じてしまうのです。友人としては良い関係ですが、彼女との交際についてはなかなか踏ん切りをつけることが出来ないでいます。
これだけであれば、年の差恋愛の悩みという感じでしょうが、それだけではありません。2人とも、突拍子もなく「発動」してしまうのです。
著者は統合失調症を患っているので、その病気を背景に感情の浮き沈みが発生してしまいます。ボビーは、本書を読む限りなんらかの精神疾患を持っているわけではなさそうですが、性格的に「頭に血が上ってしまう人」なのでしょう。そんなわけで、お互いに、よく分からないタイミングで喧嘩が始まったり、理解不能なやり取りが展開されたりするのです。なかなか一筋縄ではいかない関係性だと分かるでしょう。
ボビーについては、「乱交が好き」というなかなかな情報もさらっと示されるわけですが、しかしトータルで捉えた時、ボビーは男気のあるなかなかの人物だと感じます。著者は正直、病気のせいでかなり「ぶっ飛んで」しまっているわけで、そんな著者とここまで正面から向き合えるというのは並大抵のことではないでしょう。恋愛云々とは関係なく、人間としてフラットに関われている姿にはちょっと惚れ惚れします。なかなかボビーのようには振る舞えないという人の方が多いでしょう。
また前半では、著者とボビーの関わりに加えて、その周囲の人との関係も描かれます。著者と母親の関係性、ボビーの会社での出来事、2人が行きつけにしている飲み屋での話などが描かれるわけですが、彼女たちの周りにいる人もまた非常に濃いです。もちろん、著者とボビーがあまりに突き抜けているので、作中ではそうでも無さそうに感じられるかもしれませんが、私たちの日常の中にいたら、「ぶっ飛んでるなぁ」と感じる存在感だと思います。
そんな、とにかく「濃い」人たちが繰り広げる日常が描き出されていきます。
歩道橋からの飛び降りという衝撃な展開から始まる後半
そして後半は、あまりに衝撃的な描写から始まります。なんと著者は、かなり謎めいた、脈絡を一切感じさせない展開から、唐突に歩道橋から飛び降りてしまうのです。彼女は顔面から地面に着地。首から下がほぼ無傷だったことも、首の骨が折れなかったことも奇跡的だと言われました。その後、9時間にも及ぶ大手術の末、どうにかこうにか命を繋ぎ留めるのです。
後半では、そんな壮絶な自殺未遂をした著者が、入院中に様々な妄想に取り憑かれながらも、なんとか少しずつ回復し、どうにか社会復帰を果たすまでの日々が描かれます。
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