【驚異】「持続可能な社会」での「豊かな生活」とは?「くじら漁の村」で生きる人々を描く映画:『くじらびと LAMAFA』
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手作りの舟と銛1本でクジラを仕留めるインドネシアのラマレラ村の生活から、”豊かさ”について考える
銛1本でクジラを獲るなんてことが想像できるでしょうか? そんな生活を長年続けているのが、インドネシアのラマレラ村です。
彼らの生活を知ると、「『豊かさ』って何だっけ?」と改めて感じさせられます。
私は、お金や地位などはほとんど求めていませんが、「文明的な刺激」はどうしても必要だと感じてしまうのでで、彼らのような暮らしは出来ません。美術館に行ったり、映画館で映画を観たりする時間が、私にはどうしても必要だからです。
ただ一方で、彼らのような生活を羨ましく感じてしまう自分もいます。「文明的な刺激」のことさえ無視できるなら、彼らのような生活を望んでしまうかもしれないというわけです。
ラマレラ村の住民は「文明から取り残された人たち」ではない
まずは、観る前の先入観から誤解していた点に触れたいと思います。それは、「ラマレラ村の人々は文明から取り残されているわけではない」ということです。
「手作りの舟と銛1本でクジラを仕留める」という内容しか知らずに映画を観たので、「太古の昔からそのような生活を続けてきた少数民族」みたいなイメージを持っていました。しかし、全然そんなことはありません。住民の中には、こんな人もいるほどです。
現代的な仕事にも従事していたし、貨幣経済の中で生活をしていたこともある、というわけです。とても意外に感じました。そして、そういう「文明生活」を経た上で、自らの選択としてこの村にやってきたのです。
また、村の生活も決して、文明から隔絶されているわけではありません。そもそも、浜辺でクジラが解体されている様子を「スマホ」で撮影していたりします。村では、危険を冒してクジラを獲る者や、船外機を所有している者などがより多くの分け前を得られる決まりになっているので、スマホを所有しているのはそういう一部の家族だけかもしれません。しかしいずれにせよ、村に電波も届くことは間違いないようです。
こんな場面もありました。映画では主人公的に映し出される船員の息子エーメンが、親から将来何になりたいのか聞かれた時に「海で働きたい」と答えます。それに対して父親が、
と返すのです。村での生活にはほぼお金は必要ないように見えましたが、貨幣経済とまったく接点がないわけではないのでしょう。住民の中にはもしかしたら、貧困などを理由に貨幣経済の世界では生きていけなかった人もいるのかもしれませんが、基本的に彼らのことは、「ラマレラ村での生活を自ら選んだ人たち」だと認識すべきなのです。
この認識は、映画を捉える上で重要だと感じます。昔から連綿と受け継がれている生活を漫然と継承しているのではなく、外の世界を知った上で意思を持って人生を選び取っているからです。
「文明から外れた生活をする”可哀想”な人たち」のような捉え方ではなく、「自分の人生に必要なものが何であるのか正しく理解している人たち」という視点でこの映画を観るのが正しいのだと思います。
クジラ漁の危険さ
人口約1500人を擁するラマレラ村は、火山灰の地層に覆われているため作物が育ちません。だから、生活の糧をクジラに頼るしかないわけです。ラマレラ村では週に1度市が立ち、「山の幸」と「海の幸」の物々交換が行われるのですが、そこでクジラ肉は一番人気だそうで、たった1切れでバナナ12本と交換できます。
突き漁でマンタやジンベイザメなども獲ることはあるのですが、やはりメインはクジラです。年に10頭のクジラが獲れれば村人全員を食べさせていけるのですが、1ヶ月漁に出て1頭も獲れないことがあるという厳しい世界でもあります。
映画の中で様々な人が、何度も「クジラ獲りは命がけ」と口にします。10人ほどが乗れる舟は、クジラの尾びれで攻撃されればひとたまりもないので、乗員の誰もが等しく危険だと言っていいでしょう。しかしやはり、その中でも「ラマファ」と呼ばれる銛打ちが多くの危険を負っています。舟から銛を投げたところで、クジラに刺さるはずもありません。だからラマファは、銛の先端を下に向けたままクジラの頭めがけて飛び込み、自らの体重で銛を頭に突き刺すのです。
この言葉だけでも、それがどれほどの恐怖をもたらす行為なのか、そして、頭を見ずに飛び込んで頭に銛を突き刺すことがどれほど難しいか、想像できるでしょう。
また「ラマファ」には、単に「クジラを獲る人」というだけではない意味合いがあります。
「ラマファに抱いている希望」とは、次のようなことを指すのでしょう。
普通、「仕事をする人」の肩に乗っているのは「家族」ぐらいでしょうが、ラマレラ村のラマファの肩には、「村人全員」が乗っています。先述したエーメンも「ラマファになりたい」と口にするぐらい、村では憧れられる存在ではありますが、同時に、自分の働き次第で村人の命運が決まってしまうという重圧にも耐えなければならないのです。
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