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【恋愛】モテない男は何がダメ?AV監督が男女共に贈る「コミュニケーション」と「居場所」の話:『すべてはモテるためである』(二村ヒトシ)

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「モテ本」に見せかけた「生き方本」。AV監督が真摯に伝える「コミュニケーション」と「居場所」の話

『すべてはモテるためである』というタイトルやその装丁、また著者の二村ヒトシがAV監督であるという点などから、本書はいわゆる「モテ本」のように見えてしまうだろうと思います。しかし、そう捉えるのは大きな間違いです。確かに本書は、「モテるためにはどうすべきか?」という問いを起点に展開される作品ではあるのですが、一般的に多くの人がイメージする「モテ本」とはまったく違う内容だと思った方がいいでしょう。

まずはその辺りの話から始めていこうと思います。

「どう行動すべきか」ではなく「どう考えるべきか」を教えてくれる作品

私は、一般的な「モテ本」を読んだことがないので、あくまでイメージに過ぎませんが、よくある「モテ本」はたぶん「行動」を教えてくれるのだと思います。いわゆる「マニュアル」ですね。服装や髪型、声の掛け方から話題の選び方、女性のタイプ別のアプローチの仕方など、「こういう風に行動すれば上手くいく」というようなことがきっと書かれているのだと思っています。

しかし本書は、それらとは真逆の作品だと言っていいでしょう。というのも、本書を最後まで読んでも、読者は「具体的に何をしたらいいか」が全然分からないはずだからです。確かに、後半に進むにつれて具体的なアドバイスも増えていくわけですが、全体を通してみた場合、「具体的にこのように行動すべき」という主張が非常に少ない作品だと言えます。

この本は、「あなたの日々の習慣だとか着てる服などの、こんな点がキモチワルイ!」とか「近年、女性たちはこんな男をキモチワルイと感じる傾向にあるようだ!」とういった事例をならべる本ではありません。

そんな構成にしている理由は明確です。普通に考えて、「あなた」も「あなたにとってのモテの理想」も「あなたが好きになってしまった女性」も、全部違います。それなのに、「こういう風に行動したら上手くいきますよ」なんていう雑なアドバイスで問題が解消されるはずがない、と著者は考えているのです。とても真っ当な判断だと言えるでしょう。

また、普通の「モテ本」とは一線を画すだろう考え方がもう1つあります。それは、著者のこんな言葉に集約されていると言っていいでしょう。

なぜAV監督が、セックスの本じゃなくモテのための本を書くのか。
それは「エロいセックスをするためには、コミュニケーションの能力が必要不可欠」だと、つくづく思うからです。

本書には「どんな風にセックスをしたらいいか」という話も出てはくるのですが、それを著者は「良いコミュニケーションの帰結」として描きます。そう、著者は、恋愛からセックスまでをすべて「コミュニケーション」と捉えているわけです。「いや、そんなこと当然分かってるわよ」と感じる方もいるかもしれません。しかし、もしあなたが一般的な「モテ本」に手を伸ばすような人であれば、正しく理解しているとは言えないでしょう。何故なら、先程書いた通り、「あなた」も「あなたにとってのモテの理想」も「あなたが好きになってしまった女性」も同じではないからです。自分と相手の状況に合わせて随時コミュニケーションを変えていくことが重要なのですから、「こんな風に行動したら上手くいく」なんていうアドバイスで太刀打ちできるわけがありません。

そしてだからこそ、「考える力」が必要になるというわけです。とにかく本書は、「行動」ではなく「思考」を促す内容であり、その点がよくある「モテ本」とはまったく異なると言っていいでしょう。

今この文章を読んでくれている方が、どういう経緯でこの記事にたどり着いたか分かりませんが、まずはこの辺りのことを理解した上で、この記事や本書を読んでもらえるといいのではないかと思っています。

女性も是非読んでください。そして男の皆さん、慢心にはご注意ください

そんなわけで本書は、「今モテていない男」だけではなく、「十分モテている男」が読んでも面白いでしょう。というのも、コミュニケーションが上手く取れているとしても、それを支える「自身の思考」に自覚的でない場合もあるはずだからです。恋愛に限らない話ですが、今の自分のコミュニケーションを成り立たせているものが何なのかを理解する上で、本書は役に立つのではないかと思います。

また著者は、本書を女性にも読んでほしいと考えています。

だからこの本は男性だけでなく【男心を理解したい女性】にも読んでもらいたい。そして、できれば「土俵に乗りたいんだけど乗れないでいる、初心者の男」のことも排除しないで、まあ生理的にキモかったらしょうがないんだけど、その点はこっちも努力するんで、ちょっとでもキモくないと思えたら女性の側も「あ、そういう人たちがいるんだ」と思ってもらえると嬉しいです。

確かに、「男のことを理解したい女性」にも、本書はピッタリかもしれません。恋愛やセックスに悩む男の内面をグサグサ突き刺してくる本書は、女性の側から見れば、「男の内面を垣間見れる作品」だと言えるでしょう。

著者は、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』という、女性向けの作品も出版しています。男の私の感想など何の説得力もありませんが、私は、「女性の内面が垣間見れる作品」として非常に面白く読みました。AV監督という職業柄もあるのでしょうか、著者は男女どちらの視点も巧みに持ち合わせていると感じます。だからこそ、『すべてはモテるためである』においても、「男に向けた作品が、女性にどう読まれるか」という観点が盛り込まれているのだと思いました。

さて、内容に詳しく触れていく前に、もう1つ書いておきたいことがあります。まずは次の引用文を読んでみてください。

これまでに、いろんなタイプの「キモチワルい=モテない奴」にそれぞれ処方箋を出したわけですが、それでも、まだピンと来ていない、ひとつもオレのことじゃないじゃないか、はやく「オレのモテない理由」を教えてオレをモテるようにしてくれ、と思っている、あなた。
「オレは『自分がある』し、何が好きか自分の言葉で言えるし、自意識過剰になるほどヘマじゃないぜ」って、あなた。
あなたが、いちばん臆病でバカな男です。バカ中のバカ。

本書の中で著者は、「こういう奴は、こういうところがキモチワルい、だからこんな風に考えなさい」というアドバイスを色々書いていくわけですが、その挙げ句に、このように読者に突きつけるのです。正直私は、この文章にグサッときてしまいました。

というのも、まさに私は、「まだピンと来ていない、ひとつもオレのことじゃないじゃないか」と感じていたからです。お恥ずかしい限り。

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