【変人】結城浩「数学ガール」から、1億円も名誉ある賞も断った天才が証明したポアンカレ予想を学ぶ
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1億円も名誉ある賞も拒否したペレルマンが証明した「ポアンカレ予想」とは?
まずはペレルマンについて
「数学ガール」シリーズ第6弾のテーマは、超難問として有名な「ポアンカレ予想」です。2000年にクレイ数学研究所が発表した「ミレニアム問題」の1つであり、7つある中で解決済みになっている唯一のものでもあります。数学の中でも非常に重要とされている予想で、ロシア人のペレルマンが証明したことで話題となりました。
まず、このペレルマンについて触れていきましょう。ロシア有数の数学者で、極度の人嫌いとしても知られています。
ある時、数学界に1つの噂が駆け巡ります。それは、「ポアンカレ予想の証明がネット上にある」というものです。
もちろんこれまでも、「ポアンカレ予想を証明した」という話は度々出ていましたが、その度に間違いだと判明するので、今回も数学者たちは半信半疑でその噂を耳にしたといいます。しかしその証明を行ったのがペレルマンだと知って色めき立つことになったのです。それぐらいペレルマンというのは、その実力が信頼されていた数学者だったということでしょう。
その後、長い年月を掛けた検証の結果、ペレルマンの証明は正しいことが明らかになりました。さてこれでペレルマンは1億円の賞金を手にできます。というのも、「ミレニアム問題」にはそれぞれ1億円の賞金が懸けられているからです。ただし、ペレルマンの証明はネットにアップされていただけで、学術誌に発表されていませんでした。そこで有志が、彼の主張を論文にまとめて代わりに学術誌に発表し、ペレルマンが権利を得られるように動くことになります。
さらにペレルマンは、フィールズ賞も受賞します。フィールズ賞は数学界のノーベル賞と言われ(ノーベル賞には数学部門がありません)、しかもノーベル賞と違い4年に1度しか発表されない、数学界トップの賞です。全数学者が憧れる、名誉ある賞なのです。
しかしペレルマンは1億円の受け取りを拒否し、フィールズ賞も辞退しました。長い歴史の中で、フィールズ賞を辞退した数学者はペレルマンただ1人です。今は、森でキノコ狩りをしながら暮らしているという真偽不明の噂があるだけで、その消息を知る者はほとんどいない状態になっています。
本書はそんなペレルマンが解き明かした「ポアンカレ予想」を扱った作品です。
「ポアンカレ予想」を説明してみる
数学には、有名な未解決問題(あるいは、未解決問題として有名だったもの)があります。そしてその中には、「問題自体は誰でも理解できる」というタイプのものも存在します。「フェルマーの最終定理」が、その最も有名な例でしょう。「ABC予想」や「ゴールドバッハ予想」なども、問題そのものは理解しやすいタイプだといえると思います。
しかし「ポアンカレ予想」は、そういうものとは真逆で、問題そのものが非常に理解しにくいです。
とりあえずまずは、数学的に正式な記述で「ポアンカレ予想」を説明してみましょう。
Mを3次元の閉多様体とする。Mの基本群が単位群に同型ならば、Mは3次元球面に同相である
というわけでここから、「ポアンカレ予想」とは一体どんな問題なのかについて具体的に書いていくことにします。
まず一つ、こんな想像をしてみてください。あなたは今、地球ぐらい大きな物体の上に乗っているとします。そして周囲は真っ暗で何も見えません。この時に、あなたが乗っているその巨大な物体が「ボール型」なのか「ドーナツ型」なのか判断するにはどうしたらいいでしょうか?
積み木のような小さい物体なら触れば形は分かるし、視界がきけば大きな物体でも見れば判断できるでしょう。では、大きな物体の上に乗っていて周りがまったく見えない時に、その物体の形について情報を得る方法などあるでしょうか?
実は一つだけ方法があります。用意するのは、「無限に燃料が続く車」と「無限に長いロープ」です。そのロープの一端を物体のどこかに縛り(木でも生えていることにしましょう)、もう一端を車に縛り、その状態でこの物体の上を好きなように走り回ります。そして、だいたい物体全体を走り回っただろう、と思えるぐらい時間が経ってから、最初にロープを縛り付けた木まで戻ってくるとします。
さて、木にロープを結んだまま、車に結んだ方を外して、そのまま一生懸命ロープを手繰り寄せてみましょう。無限に長いロープなので時間と体力をかなり使うでしょうが、頑張ってください。
さてこの時、「ボール型」と「ドーナツ型」でどんな違いが生まれるでしょうか?
自分が乗っている物体が「ボール型」であれば、ロープは何にも引っかかることなくすべて手繰り寄せることができるはずです。しかし「ドーナツ型」の場合はそうはいきません。長い時間を掛けてあちこち走り回っているので、必ずドーナツの穴を一周するような方向にも車を走らせているはずです。そうなると、いくらロープを手繰り寄せそうとしても、ドーナツの穴をぐるりと回ったロープは回収できないことになります。
つまり、ロープを回収できれば「ボール型」、できなければ「ドーナツ型」と分かる、ということです。
さて今は、話を簡単にするために、「物体の表面」という2次元について考えました。同じことを、3次元空間でやってみましょう。つまり、地球に生えている木にロープを結び、宇宙船で宇宙全体をあちこち飛び回り、しばらく経ってから地球に戻ってロープを手繰り寄せるというわけです。
この時、先程「物体の表面」の例と同じように、宇宙がどんな形をしているかによって、ロープを手繰り寄せられるかどうかが変わってくる、と分かるでしょうか?(具体的に頭の中でイメージすることはかなり困難だと思うので、2次元で考えてそうだったんだから3次元でもそうだろう、という理解でOKです)
さて、このイメージを使うことで、「ポアンカレ予想」はこんな風に書き直すことができます。
ロープを手繰り寄せた時、引っかかることなくロープを回収できるなら、宇宙は「3次元球面」の形をしている
「ポアンカレ予想」が証明された際、報道などでは「これによって宇宙の形が分かる」と説明されることが多かったのですが、それはこのたとえ話に由来するのでしょう。どのみち、「無限に長いロープ」がないとこの実験はできないのだから、「ポアンカレ予想」が証明されようがされまいが、宇宙の形なんかわかりっこありません。とはいえ、このような喩えは、なかなか理解しにくい「ポアンカレ予想」を理解しやすくしてくれるメリットがあると言えるでしょう。
「ポアンカレ予想」は、何故重要なのか?
「ポアンカレ予想」そのものについては本書を読む以前にも理解していましたが、「ポアンカレ予想はどのように重要なのか?」については、本書を読んで初めて分かったような気がします。ここでは、私なりの理解をなるべく頑張って説明してみましょう。
まず、先程説明した、難しい記述の「ポアンカレ予想」、
Mを3次元の閉多様体とする。Mの基本群が単位群に同型ならば、Mは3次元球面に同相である
について、もう少し詳しく見ていくことにします。
「3次元閉多様体」というのは、「有限で果てがない空間」という意味です。そんなのイメージできない、と思うかもしれませんが、2次元で考えれば私たちの身近に存在します。「地球の表面」です。「地球の表面」は、「有限の面積」で、「どこまで進んでも『果て』となる場所にぶつかることはない」ので、「有限で果てがない」という性質を備えていると言えるでしょう。「3次元閉多様体」の例としては、私たちが生きているこの宇宙を挙げることができます。
「Mの基本群」というのは、先程の思考実験の例で説明するなら、「ロープの巻きつけ方の種類」のことです。
これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます
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