【幻想】心の傷を癒やすということの”難しさ”、寄り添い続けるために必要な”弱さ”と”冷たさ”:映画『心の傷を癒すということ 劇場版』
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「優しさ」とは何かについて考えてみたい
「献身」と「優しさ」は異なるもの
私はどちらかと言えば、「優しい人」に見られることが多い。まあ確かに、そういう雰囲気を醸し出そうとしていると言われればそのとおりではある。ただ一方で、「私のことを『優しい』とか言って大丈夫なんだろうか?」という気もする。
つまり、「優しそうに見えるから優しい」という判断は、間違っていると感じるのだ。
以前ネットで、ベビーシッターのアルバイトをしていた後輩芸人から、介護のアルバイトをしていた相方についてこんな話を聞いた、という記事を見かけた。そこには、要約すると以下のような内容だった。
「お年寄りの介護というのはなかなか大変だ。認知症の方もいるし、何かやってあげたとしても感謝が返って来ない可能性もある。そういう中で、ちゃんと仕事をするにはは、ある種の冷たさみたいなものがないと無理だと思う」
そしてベビーシッターのアルバイトをしていた後輩芸人は、「自分がやったことに対する見返りを実感できるからベビーシッターの方が絶対に良い」とも言っていたそうだ。
この芸人の話は非常に印象的で記憶に残っていたし、この映画を観てこの記事のことを思い出した。
映画の主人公である安和隆は、非常に「献身的」な人物である。しかし、その「献身」を支えているものは、決して「優しさ」ではない。「優しさ」がゼロだと言いたいのではない。もちろん彼は、とても優しい人間だと思う。しかし、「優しさ」が「献身」に繋がっているわけではないということだ。「献身」を支える要因は一つではないし、それらは複雑に入り組んでいるが、しかし、その中に占める「優しさ」という要素は、非常に薄い。
だからこそ思う。「優しさ」なんてものを本当に他人に求めていいのだろうか? と。
「優しさ」というのは「気持ち」であって目に見えない。一方の「献身」は「行動」であり目に見える。目に見える「献身」から人は「優しさ」を類推したくなるが、そんなことに意味があるのだろうか? と考えさせられた。
「優しいだけの人」なんてたくさんいる
そう考えてしまうのは、「『優しいだけの人』なんてたくさんいる」と思ってしまうからだ。
「優しいだけの人」でパッと頭に浮かんでしまうのが、映画『すばらしき世界』(西川美和監督)でのワンシーンだ。
元テレビディレクターで小説家を目指している男が、ある場面に直面して猛ダッシュで逃げる。それを、女性テレビプロデューサーが追いかける。川辺でそのプロデューサーが、男に何かを投げつけながらこんな風に言うのだ。
この男は「優しい人」と言っていいだろうが、そういう人間の欠点を端的につまみ出す見事な言葉だと感じた。
「優しさ」は、もちろん良い風に働くこともたくさんある。誰かの優しさによって救われたという人も多いだろう。しかし一方で、「優しさ」が誰かを傷つけたり負担を強いたりすることもある。「優しさ」は万能薬では決してなく、毒にも薬にもなる、ということだ。
そして、「毒」の方の「優しさ」しか持てない人も世の中にはいる。それが「優しいだけの人」だ。そしてそういう人であっても、「まあ、優しいからね」という理由で、世の中的に許容される。
それでいいんだろうか? と私はよく考える。何か間違っているような気がするのだ。
こんなことを考えているからだろう、私は「優しさ」をポジティブなものだと決して捉えていない。だからこそ、「優しさを求められること」や「誰かに優しさを求めること」に、違和感を覚えてしまうのかもしれない。
安和隆の「献身」の根底には何があるのか?
この映画では、阪神淡路大震災の際に、心に傷を負った人々を癒そうと懸命に奮闘した実在の精神科医をモデルにして、彼の生い立ち、精神科医を目指すことになった転機、惨憺たる状況でどう行動したのか、などが描かれる。
改めて繰り返すが、安和隆は非常に「献身的」に患者に寄り添う。その姿だけ見れば、非常に「優しい人」に感じられる。
しかし、学生時代の彼の発言を聞くと、印象が変わるだろう。
安和隆は、本でその存在を知り、彼に師事するために進学する大学を決めたほどの恩師に対して、そう問いかける。
なかなか凄い言葉だろう。この発言は、彼が実際に阪神淡路大震災の被災者を診るようになるずっと以前のことであり、「世の中の役に立つ仕事をしようとは思いません」という考えは、後年変わった可能性はあるだろう。しかし彼の、「心について知りたいだけ」という欲求は、最後の最後まで非常に強いものとして感じられた。
つまり「好奇心」こそが彼を動かしているのだ。
しかし彼のようなあり方は、世の中ではあまりポジティブに受け入れられないだろうと思う。
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