うっとりする程に恐ろしい 北野武監督『ソナチネ』(1994)
フィルムの中に治められたこの男の魔力は凄まじいもんよ。見る者をシッチャカメッチャカにする。
あっさりと。さらりと。それでいて映画のイタズラ心は華麗に映し出す。この男はフィルムの化身。
あらすじ
村川組組長の村川(北野武)は親分組長から沖縄の友好組織の抗争が激しくなったので応援を言い渡され、行くことになったのだが次々と血が流れていき離れのとある空き家に身を隠す事になる。
そこでやることも無しで退屈をまぎらわすために、無邪気に、この上なく広がる青の海と空の間で白い砂浜の上で相撲をしたり、落とし穴をつくったり、
そんなことをしながら時間が過ぎて行くのだが…
日本刀の映画
この映画をどんな映画と表現するならば
『日本刀』の如き映画だろう。あれは美術品・芸術品の類とされているが、人を殺める道具。血を見せるための代物である。なのに鋭くひかりをはね返すその姿は何とも言えない位に美しい。色気を放っている。青白い光の下で怪しげな妖気をフィルムに漂わせているのだ。みているものの眼を背けさせることを許さないような、釘付けのシーンの数々。ため息が出るほどに魅力的な位恐ろしい。この映画にピッタリの文句だ。
乾いた眼と銃
本作の、あの生気の全く妊んでいない乾ききった眼の凄まじさ。空洞のような哀しさ、気怠さを含んでいながらに奥底から闇が溢れんとばかり。それを
具現化したかの様な銃。ガンアクション。そして、シンボルマークの一つといえる海。潮風の香り。
ゆったりした死を着こなした男どもの眼をぜひとも見ていただきたい。
村川と幸
そんな男共とは対照的に、ヒロインとも言うべき幸(国舞亜矢)の眼は黒真珠にも見えるひかりがある。青い夜の下で、砂浜の上に、犯された直後なのに非常に子供らしい眼でこちらを見る。それから物語は、子どもを思わせる遊び、ひかりが差し込んでくる。そして、主人公の村川の笑みの凄みといったら。同じ人間の赤い血が流れているとは思えない。
最後の頭を撃ち抜くシーンで、真っ青な血がでてきても、違和感がないくらいこの男は極めて異質である。
この映画は人間をここまで異質、無常に描ける物かと感心してしまうほどの傑作である。
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