虎のバターのホットケーキといえば!
たまにとっても食べたくなるもの、なんだ?
それは、ホットケーキ。
ホットケーキといえば、ちびくろさんぼ。
虎のバター。
米原万里の『旅行者の朝食』を読んでいた。
この中の、
「サンボは虎のバター入りホットケーキをほんとに食べられたのか?」という章に、驚くべき事実が書かれていた。
ちびくろさんぼの本は、小さい時に何度も読み、ボロボロになった今もしまってあるが、人種差別的表現が槍玉にあがって、本屋から消えてしまっていた・・・
と思っていた。
しかし、Amazonを見たら、ある。
それどころか、2と3という知らない続編まで出ている。
『ちびくろ・さんぼ』・・・あるところに かわいいくろい男の子がいました。なまえを、ちびくろさんぼといいました。
『ちびくろ・さんぼ2』・・・さんぼにふたごの弟ができました。ふたりの名前は「うーふ」と「むーふ」。
『ちびくろ・さんぼ3』・・・ある日さんぼはハチミツとりにでかけました。さんぼが出会う不思議な人々。さんぼが手に入れた本には最後のページがありません。
3冊をオリジナルケースに入れました。
えー!と驚き、機会があれば、知らなかったふたごの弟「うーふ」と「むーふ」にも本でお会いしたいと思った。
さて、みんなが知っている「ちびくろさんぼ」は、
クライマックスで、虎に追い詰められて椰子の木に登ってしまい、そのさんぼに襲いかかろうと、虎たちが椰子の木の周囲を回っているうちに、お互いの尻尾をくわえて輪になり、どんどんそのスピードが速くなって、ついに溶けてバターになってしまうというものだ。
その虎のバターをたっぷり使って、お母さんが山ほどホットケーキを焼いてくれるわけである。
この話を読んだ子どもは、おそらくみんな、ホットケーキを食べたくなったことだろう。
何の疑いも持たず、ホットケーキで頭がいっぱいだった私と違い、米原万里さんは気がつくのだ。
椰子、バナナが生い茂る・・・ネイティブ・アフリカンが暮らす地域は、アフリカ大陸か、中南米しか考えられない。
しかし、いずれの地域にも、元々ホットケーキはない。
ホットケーキというか、パンケーキを常食するのはアメリカ人で、ヨーロッパ人は似て非なるクレープ(ベイキングパウダーを入れずにパンケーキを焼くと、クレープになる)はよく食べるが、イギリス人を除いて、パンケーキは全くと言っていいほど食べない。
そして、問題は虎。
虎は、アジア大陸に棲息する。
アフリカ大陸やアメリカ大陸に自然の状態で徘徊しているわけがない。
つまり・・・虎のバターは使えなかったはずだ、と!
そして、判明する。
「ちびくろさんぼ」は、インドのお話だったのだ。
著者のイギリス人女性、ヘレン・バナーマンは、当時イギリスの植民地だったインドの奥地で伝染病予防などの医療活動をしていた。
そして、避暑地で離れて暮らす自分の子どもたちに絵手紙を送っていた中に、この物語があったのだそうだ。
後にイギリスで絵本となり、世界各地で翻訳された。
そういえば確か、私が持っているのは岩波書店の絵本シリーズのものだ。
米原万里さんの手元には、原作者ヘレンの手による絵があり、それは、南インドの風景や人々であり、さんぼもインド人の顔をしているらしい。
ネグロイドではなく、色の黒いアーリア人。
それなのに、日本の出版社から出たどの絵本も、母親のマンボも父親のマンボも、そう見えない。
米原万里さんは書く。
それに、インド人はナンを常食にしているから、ホットケーキは食わない。原作はパンケーキと言い表し、それを日本語に翻訳する際にポピュラーなホットケーキに超訳したのだろう。虎のバターも、実は原作では、インド料理でよく使うギーとなっている。
というわけで、ちびくろサンボが食べたのは、虎からできたギーのたっぷり入ったナンだった、ということになる。
今日、こんな衝撃の事実を知ってしまった。
虎からできたのはギーで、ホットケーキはナンだったなんて。
それでも、私の頭に刷り込まれてしまったホットケーキのイメージが、これから変えられるのかどうかは、わからない。
これからホットケーキを焼くたびに、毎回、思うのだろう。
これは、本当はナンだったんだよね、と。