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珊珊

 台風10号がゆっくりと日本を迷走している。
 この台風は、サンサンという名前らしい。

 早く通り過ぎてくれないものか。
 たくさんの自然災害はもう懲り懲りである。
 被害に遭われた地域の方をニュースで見ると心が痛む。


 この台風の名前は香港が提案した名称で『珊珊』。
 『珊珊』とは、少女の愛称としてポピュラーなのだそうだ。
 詠珊や慧珊など、『珊』の字は女性の名前によく使われるそうで、名前の最後の文字を2回繰り返すことで可愛らしさが出るので、家族や親友が親しみを込めた愛称として、『珊珊』と呼ぶのだとか。 

 日本を含む14の国と地域が加盟する台風防災に関する国際機関「台風委員会」は、2000年から北西太平洋域で発生する台風に共通のアジア名をつけている。各国があらかじめ用意した140個の名前があり、発生順に割り振られる。気象庁によると、台風の年間発生数の平年値は25.1個で、おおむね5、6年で一巡することになるという。

山陽新聞

 「台風委員会」なるものの存在も知らなかったし、アジア名をつけていることも知らなかった。


 香港出身で北海道大学大学院文学研究院の伍嘉誠准教授が調べた資料によると、この台風の名前は、1996年のアトランタ五輪で香港初のオリンピック金メダリストになった李麗珊(リー・レイシャン)への敬意を表すためとの情報もあるという。
 広東語ではサンサン、北京語ではシャンシャンになるそうだ。

 『珊珊』という言葉をを調べると、
           ●身につけた玉などの鳴る音を表す語。
           ●きらきらと美しく輝くさま。
  「水晶の数珠が暁の露のように珊珊と輝いていた」(谷崎・二人の稚児)

とある。

 「珊瑚」を思い浮かべた。
 旅のお守りに珊瑚を持っていくように、と昔、誰かに教わった記憶がある。
 帯留めやお数珠に使われる、艶やかで美しい珊瑚色を思い浮かべた。
 ちょうど、マリリンのドレスの色から、もう少し濃い紅に向かうグラデーションの珊瑚色だ。
 可愛らしくも情熱的でもある、幅の広い珊瑚色。
 まるで嵐のように、美しい人に惑わされて恋をする、そんな小説は世にたくさんある。
 
 嵐の威力。
 その後に残る爪痕を、なぞらえているのだろう。

 以前、台風の直撃を受けた時、夜起きて窓の外を見ていた。
 本来、窓の側は危ないけれど、まるで洗濯機の中にでもいるかのように、すごい勢いで外の世界がぐるぐる回されていた。
 わずか先の建物が、動く雨の分厚いカーテンで覆われて見えない。
 抵抗できない渦の中にいた。
 人間にはどうすることもできない自然の力は木を薙ぎ倒し、飛ばせるものは全て、大きな力で空に持ち上げていた。
 何かが浄化されていくような不思議な感覚に圧倒されて、それは怖さというよりも脅威という表現の方が合う気がした。

 この後、どうなってしまうのだろうか・・・という感覚が一瞬消えたのだ。

 かなりの時間その様子をみていた。

 珊珊台風。
 まだ、油断できない。
 万全の備えが必要だ。
 
 
 
 


 

 

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