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「カナリアの歌」詩―シロクマ文芸部「金色に」応募作品

不思議な歌の力


金色のカナリアは おばあさんに
とても 可愛がられていた
カナリアは おばあさんが
小鳥屋さんで 一目ぼれして この家に来た
「この子はハンサムさんだね」
おばあさんの口癖だった

カナリアは 八重桜が あでやかに
咲き誇る庭に面した 窓辺で
透明な高い歌声で 歌う
おばあさんは 側で
好きな 刺繍仕事をしながら
嬉しそうに 耳をかたむけている

カナリアの歌には 不思議な力があった
カナリアが歌いだすと 桜の花たちが 
細かに 揺れ動き
野鳥の小鳥 野ウサギ トカゲ ヘビまでもが
沢山 窓辺にやってきて 静かに 歌をきく。
まるで アリスの不思議な世界が
再現されるよう。
カナリアは 歌うプリンスとなって
益々 声を 張り上げる
おばあさんは 集まってきた
生き物たちに 食べ物を
ニコニコしながら 分け与える
「沢山お食べよ。。 よくきてくれたねぇ」

カナリアは 夜は おばあさんの
手の上で 身をよじって歌う
その声は すみわたる夜気の越えて
遠くの 里山まで ひびく
高く 物悲し気で 心を打つ 歌声は 
名笛 青葉の笛の音のようだと 評判になった
夜は 里山から タヌキやキツネたちまでが
集まって来て  じっと動かずに
頭を傾けて 聞いている
普段なら お互いすぐに喧嘩をする仲だが
歌の力が それを忘れさせている

おばあさんの病


時が流れ カナリアもおばあさんも
年老いてきた
カナリアは 昔のようには
歌が 歌えなくなっていた
たまに歌っても 短く 低い声で
歌うだけで すぐに 首を翼の間に入れ
丸くなって 眠ってしまう
金色だった羽根も くすんだオレンジ色へと
変わってきた

ある晩秋の頃 おばあさんは とうとう
病を得て 床についてしまった
病床から 大好きな庭と 桜の木の景色を
飽かずに 眺めるのが常となった
カナリアは 籠の中から
心配そうに おばあさんを眺めては
小さく ため息ばかりをついている

おばあさんの 病は次第に悪くなってきた
往診に来た 医者は 首を横に振りながら
「あと 数日が峠かもしれません」と告げる
カナリアは 黒い小さな目を 大きく見開いて
医者の言葉を 聞き 「キュキュ」と
低く 独り言を言い続ける

おばあさんは ほとんどの時間を
眠っているようになった
たまに目がさめると 庭の八重桜をみて
「もう 一度 あの桜の花が咲くのを 見たかった」と
苦しそうに 言っては また目を閉じる
カナリアは それを聞いて
小さな黒水晶の目から 涙を流した

カナリアの最後の歌


その夜のこと おばあさんの庭には
久しぶりに 里山から 生き物たちが降りてきて
窓辺に 集まった
いつもより おめかしした様子だ

カナリアは 昔の歌を思い出すように
体を 精一杯伸ばし、翼を広げて
思い切り 天使の歌声を 張り上げて
高く 柔らかく 澄んだ声で歌い続けた
カナリアの歌に 秋のまんまる月も
窓から 覗き込んだ
月の光りは カナリアを金色に染め上げる

翌朝 おばあさんは 目を覚まし
真っ先に庭の 桜の木に目をやった
庭では 不思議なことが 起こっていた
十数輪の 桜の花が 晩秋の朝日を浴びて
咲いていた
おばあさんは 感激して
細い指で 桜の花を 指し示して
家族に 教え  思わず桜に合掌した
みんな 秋の庭の奇跡に
驚いて 桜の木を見つめるだけだ

その時 孫の一人が 
カナリアが 籠の中で
横たわって 冷たくなり
死んでいるのを 見つけた
くちからは 沢山の血を 吐いて
自慢の羽根も 何本か抜け落ちていた
でも 目はおだやかで 笑うように 
開いたままだった

おばあさんには すべてがわかった
「この子が 桜を 見せてくれたのね。
一晩中 歌い続けて 命がけで
桜を 咲かせてくれたのね・・・」

数日後 おばあさんは 天に旅立っていった
この家の八重桜は いつの頃からか
カナリアが うたってと花が咲いたという事で
「カナリア桜」と呼ばれて 崇められたという

長々とお読みいただきありがとうございます。

小牧様 いつも大変お世話様です
シロクマ文芸部 お題「金色に」の
企画に応募させていただきました。
ちょっと 長文になってしまいました。
また お手数をおかけいたしますが
宜しくお願いいたします

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