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「転校の奇跡」詩~#青ブラ文学部「初めて切なさ覚えた日」
新校舎
新しい小学校の校舎は
野原の 真ん中に立てられた
幾つかの 学校が集まって出来た学校
教室を 青い風が 柔らかく吹きぬける
ボクは 小学校4年生
平凡で およそ目立たない
おとなしい子供だった
他の子が カッコよく
野球をしていても
独りで川で 魚とりしてる
さえない 男の子
ボクの教室での席は
窓際の 後ろの方
斜め前には クラスで
一番人気の おさげ髪の
川村さんが 座ってる
彼女の家は とても大きくて
お父さんは 大きな会社の偉い人だと
皆が 言ってた
休み時間になれば
遠くの席の 男の子たちが
交代で 川村さんと 話に来る
彼女は いつも
嬉しそうでも
迷惑そうでもない風情で 応える
男の子たちは
彼女と 話をしただけで
満面の得意顔で 席に戻る
でも ボクには無縁の
出来事のように思えた
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昼休み 級友たちが 校庭で
ドッジボールで遊ぶのを
窓から みていた
川村さんが 話しかけてくる
「立山君 ボール遊びしないの?」
「う~ん ここから トンボが
飛び廻るのを見てるのが 好きなんだ」
彼女は 意外そうな顔をして
離れて行った
2学期の開始
2月期が 始まった
若い担任の先生が
「立山君はお父さんのお仕事の都合で
東京の学校に転校することになった」と
クラスに 告げる
すこし ざわめきが起きただけで
その告知セレモニーは あっけなく終了
何もなかったように 美術の時間が 続行
絵をかき終わり 先生の所へ絵を
持っていこうとすると 川村さんが
「わたし 一緒に持って行ってあげる」と
いってくれた。周りの級友たちは 驚きの顔
それから 時々 彼女の
小さな親切が つづき
そのたびに ボクは
丁寧に お礼をいった
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東京への旅立ち
やがて 東京へ
旅立つ日が やってきた
部屋は もう がらんとして
とても 広く見える
母さんとバアバと三人で
ドアを閉めて 外にでる
すると 電信柱の前に
川村さんが 立っていた
ボクは 驚いて 体が固まった
いつもとは違う おしゃれな
レース柄の襟がついた
ワンピースを 着て
手には 小さな袋を持ってる
「立山君 ホントに行っちゃうのね
これ 私からの贈り物」
彼女はプレゼントを 差し出した
「きっと また 必ず戻ってくるよね
約束だよ 私 引っ越さないで
ずっと ここにいるから」
彼女の目から 幾筋もの涙の川が
流れ出した
これが ボクが生まれて初めて
切なさを覚えた日だ
プレゼントを 固く抱きしめたので
奇麗な袋が 皺くちゃになる
泣き虫のボクは 両袖で
涙を 拭っていった
「戻ってくるよ!!
ボクも プレゼント持ってくる
今度 トンボとりして
一緒にあそぼうな」
ボクは それ以来
その青い風の吹き抜ける
小学校に もどることは出来なかった
彼女のために買った ぬいぐるみは
部屋の隅で 埃をかぶって座ってる
山根あきら様の青ブラ文学部 お題「
はじめて切なさを覚えた日」企画に参加
させていただきます。 山根様
お手数をおかけいたします。
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