「ハーモニカ吹けば」詩―#青ブラ文学部「腐れ縁」企画参加
夕陽が 顔を出す頃
犬を連れて 飛行場を
見下ろす 丘に登る
剥げたベンチに 腰をおろす
滑走路は 夕陽色に染まり
軽飛行機が 展示模型品のように
止まっている
ポケットから メッキの剥げたハーモニカを
出して 目を閉じて吹く
犬は 曲に合わせて 遠吠え
それが 変に悲しさを 含みながら
滑走路まで 流れていく
父さんが好きだった 軍歌を吹く
「さらば ラバウルよ また来るまでは・・・」
ハーモニカの物悲しい音色は 曲のペーソスを増す
すると 側で人の気配がして 目を開ける
少し汚れた飛行服姿の 若い男が 白い歯を
見せて 佇んでいる
「いいねぇ ラバウルの空
また 飛びたいなぁ」と若い男
「エッ??」「あなたは誰??」
私は わけがわからずにいる
「自分は 戦闘機乗りだ
ラバウル航空隊に 配属されてた」
男の 白い長いマフラーは
夕風に 流れてそよぐ
「もう一度 同じ曲 吹いてくれないか」と男
「吹いてもいいけど・・・戦闘機って??
ラバウル? 何・・言ってんの??」
僕は 不気味さとためらいで
いっぱいに なりつつ 同じ曲を 吹く
犬の遠吠えは より高い声になってる
若い男は 曲が終わっても
地平線を じっと見つめて 言葉を発しない
夕暮の中に 溶入りそう
突然 キリッと顔を向け 敬礼をした
「お願いであります。またハーモニカを
聞かせていただけないでしょうか・・・
ハーモニカを聞いたら 自分は 必ず
拝聴にあがります」
それからは 月に一度
この展望の丘に のぼり
ハーモニカを吹くのが常になった
若い男はラバウル航空隊 N中尉と名乗り
いつも 軍歌を吹くと どこからか
降りてくる
この交流は 今も つづいており
僕とN中尉は ほのかな腐れ縁で
結ばれているようだ
僕にはN中尉は 幽霊ではなく
今も 南の空を飛び廻る 零戦パイロットの
心友として 生きている
山根あきらさんの青プラ文学部企画
「腐れ縁」に応募させていただきました。
山根さん どうも古いSF話に終始して
しまいましたが、どうぞ よろしくお願い
いたします
#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #詩 #青ブラ文学部 #腐れ縁
#私の作品紹介 #パイロット #ゼロ戦
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