【小説】生かされているということvol.10
6月9日午後6時半、自宅に戻った私は、母と一緒に娘のごはん、風呂…妻と一緒にしているいつものルーティンをこなした。
娘もよく寝てくれた。日中、母が付き添いたくさん遊んだからだろう。
私は……昨晩とは違い、よく眠ることができた。
「命だけでもあればうれしい」とはっきりと思えるようになったからだ。
ただ、やはり、朝は、4時50分前に目が覚めてしまった。
妻が倒れたあの時間に……
その時間に起きると、母も起きていた。
当たり障りのない話をするしかなかった。
妻の今後のことは怖くて、話題にも出せなかった。
時刻は6時45分になっていた。私は、病院へと向かった。
午前7時、病院に到着し、妻の様子を見にいった。
少し、機械が減った印象があった。
なんとかという機械が減ったとのことだった。
いいことなのかなと思って聞いていた。
妻の横で、昨日の娘の様子を話しかけていると、ドクターが来て、今後の治療について説明してくれた。
「これから夕方まで時間をかけて、体温を36度5分まで上げます。また、今からは鎮痛剤を少なくし、筋弛緩薬の投与をやめて様子をみます」
目が覚めるんですか。
とは怖くて聞けなかった。
7時15分、面会時間はあっという間に終わり、待合室に戻った。
倒れる前日のことを思いだしていた。
……
6月7日日曜日、山のほうの公園で娘と妻で過ごした。
蝶々を追いかける娘を見守っていた妻、アイスクリームをおいしそうに頬張る妻。
……
元気な妻は戻ってくるのだろうか……
8時25分。看護師さんが走ってきた。
「すぐに、ECUにきてください!」
急変か!?!?!?!?!?!?
「目を覚ましたよ!!!」
「!!!」
涙をこらえながら、妻の元へと走った。
ちょうど、夜勤の方と日勤の方が入れ替わる時間帯でもあったので、20人くらいの看護師さんから、
「よかったですね。おめでとうございます!」
とお祝いの言葉をもらった。
涙で言葉になっていなかったと思うが、お礼を伝え、深々と頭を下げた。
妻の顔を見た。はっきりと目を開けていた。
「え?ここ病院?なんで?」
と繰り返していた。
「よかった!本当によかった!」
と私が言ったが、なんのことか理解できていない様子。
状況を簡単に伝えたが、それでもまだ理解できていないようだ。
それもそうだ。本人は寝ているつもりだったらしい。眠って起きたら病院だから状況を理解できないのも当たり前だろう。
とにかく起きてよかった。本当によかった。
6月10日午前8時半、そこから不安の日々が始まることをまだ私は知らなかった。