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満員電車とかで読むの要注意 | 『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』 岡本雄矢

「フリースタイルの歌人芸人」こと、札幌でスキンヘッドカメラというコンビを組んで活動している著者・岡本雄矢さん。

岡本さん自身が、『ひたすら小さな不幸に見舞われる日々』を過ごしているとやらで、生きるのって難しいと思ってしまうようなそれらの出来ごとを、定型に囚われないフリースタイルというカタチで短歌にしているらしく。

他人ごととは思えないちょっとトホホな内容に、満員電車で読んで思わず声が出て周りの人に変な目でみられないよう、注意が必要です。

で、読後感として、あぁ、短歌ってこんなに自由でいいんだ、って、なんだか心に羽根が生えた気分です。

本のタイトルもフリースタイル短歌の一首なのですが、「それわかるわ〜」とか「ふんっ」と鼻を鳴らしてしまう歌のいくつかがこちら。

メロンと名のつくものメロン以外全部メロンの味がほとんどしない

スパゲッティがパスタになってバイキングがビュッフェになっても僕ずっと僕

この話多分こいつにもうしてる だけど今さら引き返せない

死にたいと呟くあいつの腸にまで生きて届いているビフィズス菌

あぁ、暮らしの中には、どれだけの歌の種が転がっていることでしょう。

それに気づくも気づかないも、気づいたとして、それを言葉として詠むも詠まぬも、まぁ大差ないのかもしれないけれど、でも、そんな些細な違いが積み重なって、いつか大きな何かの差が生まれるんだろうな、とも思ったり。

岡本さんの歌は、なんだか優しい歌ばっかりなんだなぁ。

そして、一見自虐っぽくもあるけれど、フリースタイルだからこそ生まれるリズム感というか、人生の機微みたいなものが垣間見える心地よさもあり、ただのオモシロ短歌だけではないのであしからず。

それにしても世の中はもうすっかり年の瀬で、クリスマスとかおせちとか、ウキウキがたたき売りのように店頭に陳列されています。

そういうのを横目に、今年も帰れない実家に電話をし、母の声を聞いてちょっと安心したり。

きっと悲喜こもごも、いろんな年末年始がいろんな人びとの間で繰り広げられているんでしょうね。

あけましておめでとうからあけましておめでとうまでの無言の一年

"そのうち” とか "いつか” がくるためしはない、とはよく言ったもんで、会いたい人、話したい人とは、会ったり話たりしておくに限ります。
お別れなんて、いつも突然やってくるので。



岡本雄矢『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』(2022)幻冬社



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