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足音が近づく。手にしていたスマートフォンは布団の中に隠し、枕元にあった漫画を開いた。 予想通り、足音は私の部屋の前で止まり、次にはドアをノックされた。 「こん、ばん、み」 気に入っているタレントの挨拶を真似て部屋へ入ってきた母は、手にコミック本を数冊抱えている。 「どうしたの、それ」 触れないのも気まずい。だから質問を投げた。 「もうさ、我慢できなくて大人買いよ。知ってるよね?〝あたいらのピンチョス〟」 「聞いた事あるような、ないような」 仰向けから体勢を変えて横向
短かいから読みやすい。短いから書きやすい——。 ショートショートを制作したことがある人なら、これと似たようなことを思った人は多いのではないだろうか。初めての創作で、いきなり原稿用紙百枚分の純文学作品を書き上げるのは難しい。けれども、小説の面白さを知った読者が、自分にも書けるのではないかと思い、小説の実作に挑戦しやすいのは、このショートショートという型式のように思う。 わたしもそのパターンだった。 小学生の頃から漫画のみならず、文章だけの子供向け読み物も好んでいた